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第1特集
田母神元航空幕僚長の主張って、実際どうなの!?

テポドン、愛国心、国防の備え 自衛官が語る"国への思い"【1】

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――世界に類を見ない"妙な軍隊"自衛隊は、昨秋の田母神騒動のように、何かあればすぐ世間で騒がれる。そんな不思議な社会に暮らす隊員は、それらの出来事をどうとらえているのだろうか?テポドン騒動から田母神発言、思想信条まで本音を聞いた。

[座談会出席者]
A...50代幹部
B...30代曹士
C...20代幹部

──普段は幹部と曹士が同席して、踏み込んだ話題について腹を割って話すことは、なかなかないという自衛隊の皆さんですが、今日はせっかく集まっていただいたので、自衛隊員が当事者として公に意見を表明することのなかったようなテーマについて、それぞれの意見を伺いたいと思います。

 まず、先月5日頃に起こった北朝鮮のミサイル実験騒動について。日本列島にミサイルが落ちることはないという事前の情報もあって、首都圏などではさほど混乱があったわけでもありませんが、自衛隊内では、何か意識の変化はあったのでしょうか?

A 秋田・岩手の両駐屯地などは、警戒のために地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が配備されたので緊張もあったでしょうし、あらゆる事態を想定して行動していたはずですが、私の部隊は管轄が違いますし、特別に何かをするということはありませんでした。

B そうですね。自分のところも同じです。今回のミサイル実験に関しての情報は、メディアが報道して初めて知る感じですから、世間一般の人たちとの違いなんてないですよ。

A ミサイル実験があるからといって、勝手に管轄外の者が何か行動を取ったら、それは問題でしょう。

C 僕は、現在ある特別な職に就くための訓練学校に行っているので、そこでは少し話題に上がりましたけど、別段変化があったわけではありませんね。

──一方で、現場の判断が求められる場合もあると思います。たとえば、94年に行われた、初の日本主体による人道的な国際救援活動だった、アフリカ・ルワンダでの自衛隊難民救援派遣。そこで日本人NGOが武装集団の襲撃に遭った際、現地指揮官の判断でNGOメンバーの輸送を行っていますよね。そういった出動が国際平和協力法や実施計画では策定されていなかったために、一部メディアから批判されました。こういった場合、日本政府としては「危険地帯に乗り込め」という命令は、出したくても法律上出せない。そこで、現場の指揮官の判断で、自衛隊が法を超えてでも自国民を助けることは、実は政府から暗に望まれている行動なんじゃないか、とは思いませんか?

A どうでしょうね。幹部の立場からして、原則として私たちの判断だけで何かするということは、望ましいことではないですよ。でも、自衛官にはそういった、「何がなんでも助けたい」という気概はあります。

C 僕は災害派遣で活躍する自衛隊の姿を見て自衛官を志したので、危険にさらされている人がいたら助けたいという気持ちはあります。ただ、実際に何ができるかは、別の話ですけど。

「彼は正直すぎただけ」本当に皆、田母神支持なの?

──報道では不祥事が目立ちますが、反対に、自衛官は正義感が強いという印象を持つ人も多いと思うのですが?

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本誌2月号にも登場し、その舌好調ぶりを見せつけた田母神氏。最近も変わらず、本に雑誌に講演に、と引っ張りだこ。

B 不祥事があったりすると叩かれますが、隊内ではそんなに気にしてないです。いち個人としては、自衛官だからって冷遇されたことはないし、むしろ地方なんかだともてはやされますよ。

A 自衛隊にいるから、正義感が強くなるというのはあるでしょうね。

C それはあるかも。僕は防衛大学出身なのですが、防衛大に入る前は「国防」「国を守る」なんて言葉は、なんだか歯がゆくてマンガのセリフみたいだったけど、実際に入隊してみると、国を守るという大きな目的達成のために大の大人が一生懸命なんですよ。それには、最初は違和感もありましたけど、国防が第一の任務なんだということを、次第に強く感じるようになりました。今ではこの職を誇りに感じます。

A 新入社員の研修に自衛隊体験入隊を行う民間企業が結構あるのですが、3日間、野外での宿泊や整列などの訓練をするだけで、見違えるようにピシッとした人間になりますよ。自衛隊での教育は、人としてのモラルを養うということと、知識を広げることを並行して目指しています。恋人や家族なら、どんな危険があっても守ろうとするじゃないですか。それと同じで、国を守るには、国を大切に思う気持ちがなければできない。でも、国家に対する愛情は、世間一般の教育ではなかなか養われないでしょう。

──ただ、「自衛隊の教育には、ある種の問題が含まれているのでは?」という声もあります。昨年10月、田母神俊雄氏が現役航空幕僚長の立場にありながら、先の戦争に対して「日本は侵略国家であったのか」と題して、政府見解とは異なる趣旨の論文を発表し、事実上更迭されました。防大出身で空自のトップにまで上り詰めた人物によるこのような言論は、自衛官全体の思想信条に対して、マスコミから疑惑の目を向けられることになり、世間にも不安を与えたと思いますが……。

A 個人的にはそれぞれ思うところがあるかもしれませんが、国の歴史についてとか、自分の思想について普段同僚と話す機会なんてありません。ただ、変な意味ではなく、田母神さんも言っていたように、歴史というのは支配する側が作った歴史であることが大半ですから、それを客観的に判断できる、自立した人間になるための教育は必要です。これは、世間一般でももっと求められていいんじゃないでしょうか。

C 受け止め方は、自衛官でも十人十色だと思います。個人的には、「なぜこれが問題になったの?」という感じでした。要は、思うだけか、それを口に出すかの違いなんじゃないかという。

──その後田母神氏は、「制服自衛官の99%が私を支持していると思う」という発言をしています。

A 田母神さんは、正直にものを言いすぎたかもしれませんね。確かに我々は、いつ自らの生命に危険が及ぶ仕事をするかもしれないですから、世間一般と同じメンタリティではやっていけないところはありますよ。

──ですが、そのメンタリティが、自衛官の思想的偏りを意味するのなら、問題なのではないでしょうか?

C 別に自分が右派思想に傾いているとは思わないですが、自分の存在や任務を定義づけてくれて、やる気が起きるような考えは、世間的には右寄りだとされるものが多いような気はします。

A 入隊の際に、偏った思想的バックグラウンドがないかどうか、同性愛などの趣向がないかなどはチェックされていますし、入ってからは隊での任務をいかにこなすかということが第一。田母神さんが何を言おうが、国会で証人喚問されようが、私たち現場の人間にとってはまず関係ないことです。

パワハラなんて存在しない!国民の見本を目指してます

──自衛隊が隔離された環境にあるゆえに生まれる、世間一般との差を指摘する声もあります。たとえば、04年頃から自衛隊では、ファイル共有ソフトによる情報流出事件が相次ぎました。06年には海自の護衛艦「あさゆき」に関する情報が同艦乗員のパソコンから流出し、これで防衛省は本格的に対策に乗り出しましたよね。にもかかわらず、07年には海自横須賀基地で、米軍イージス艦の構造図面などのデータが漏えいされるという一大事件があり、逮捕者まで出しました。民間企業であれば、一度流出騒動が起きれば対策を徹底し、その後は同様の事件は起きないのに、たびたび繰り返す自衛隊は、危機管理意識が低すぎると言われましたよね?

A 情報流出対策に関しては、今は私物パソコンの業務への持ち込みも、反対に隊のパソコンの外への持ち出しもできないですし、CD-RやSDカードなどにコピーしての持ち出しも書類の提出が義務付けられています。

B あと、パワハラ、セクハラに関しては、昔よりはるかに厳しくなっています。セミナーがあって、この事例はセクハラになるかどうか、みたいな試験も頻繁にあります。

C 国民の見本にならなければならないので、実際ほとんどの隊員は、まじめに勤務を行い、公私ともに良好な人格が育成されています。ただ、組織全体で25万人も隊員がいるので、残念ながら世間を騒がせてしまうこともあると思いますが。

──田母神氏が引っかき回したせいで(苦笑)、この半年程、自衛隊は何かと注目を集めました。今自衛官が事件を起こせば、「ほら見たことか」となるでしょう。今こそ、自制心を持った、自立した行動が求められている、ということですかね?

A そうですね。それは常に求められていることで、それができてこその自衛官です。

B そのために、厳格な内部規律があるわけですしね。

C それも、国を守るという、失敗が許されない仕事だからこそですよね。そのためにも日々、隊員は一生懸命訓練に励んでいるんですから。
(テルイコウスケ/構成)


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