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第2特集
オバマ報道にダマされるな!【2】

識者たちが指摘するオバマ好き日本人の危険度

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──【1】では、オバマ大統領をめぐる日本国内やアメリカ本国での報道を紹介したが、他国はどのように新しい大統領を報じたのだろうか? その報道をひも解きながら、日本メディアの問題点を指摘したい。

「(オバマ大統領就任以前に行われた)米国の大手調査機関ピュー・リサーチ・センターの調査では、日本人の83%が米大統領選に関心があると回答。また、朝日新聞社が昨年11月に行った全国世論調査によると、全体の79%が『オバマ当選』を歓迎している。これは世界でも類を見ないことです」

 こう指摘するのは、『ネットはテレビをどう呑みこむのか?』(アスキー新書)などを著書に持ち、メディア論を専門にする作家の歌田明弘氏。さらに、ライフネット生命保険の調査(2009年1月)でも、オバマ大統領の日本での支持率はアメリカの世論調査(CNN調べ)の結果を上回る89・7%にも及ぶという。

 また、アメリカのメディアも、今回の大統領選では一貫してオバマ寄りの報道が見られた。本誌連載陣のひとり、ビデオニュース・ドットコム代表でビデオジャーナリストの神保哲生氏は、以下のように言及する。

「アメリカのメディアは歴史的な経緯から、マイノリティ(少数民族)には寛容な場合が多い。オバマ寄りの報道も、特に大統領選の初期段階においては、彼が"黒人"というマイノリティが関係していると見ていいでしょう。しかし、問題はもう少し複雑です。今回の大統領選挙でオバマはインターネットを駆使した選挙活動で20〜30代の若年層から圧倒的な支持を集めました。マスメディア、特にテレビ局は、オバマに対して好意的な報道をすることで、広告主が切望する若年層の視聴者を獲得しやすい状況があった。つまり、オバマ寄りの報道をした背景には、そのような商業的な理由も多分に含まれている可能性が大きいということです」

 こうした流れを受けて、日本のみならず、各国で歓迎報道が目立った。

「イギリスの大衆紙『ザ・サン』は、オバマ大統領誕生に際して『人類にとっての大きな一歩』という見出しをつけたようですし、オーストラリアの新聞は、『白人が多数派を占めるほかのどの裕福な大国が、人種的な少数派を政府のトップにしただろうか』と報道したそうです。(イラク問題などの外交政策で)世界中から嫌われていたブッシュの後任ということもあって、特にヨーロッパではオバマに好意的な報道が、少なくとも政権発足当初は目立ったようですね。しかし、イタリアの保守系大手紙『イル・ジョルナーレ』は『彼はただの大統領だ。救世主ではない』と書いたそうで、興奮の渦に溺れないこうした取り上げ方は重要だと思います」(前出・歌田氏)

 そんな中、前頁でも紹介したように、アメリカでは熱狂報道は冷めつつあるという。

「世界的な経済危機下において、経済情勢の立て直しは至難の業ですが、オバマ大統領への期待度は非常に高い。そのため、結果が伴わなかったときのオバマバッシングは相当なものになるはずで、すでに米国内では、『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』といった有力紙で、オバマ陣営の政策に対し、賛否両論の議論が展開されています。オバマ大統領がどんなに感動的なスピーチを披露しても、言葉の力だけでは状況は変わらない。結局、目に見える成果を挙げなければアメリカ国民は納得しないのです」

 こう語るのは、メディアとネットの融合を専門分野に持つ、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の岸博幸氏。オバマ報道を通して、「日本における既存メディアの体質が垣間見られる」と続ける。

日本のメディアに共通するイメージの刷り込みと一面性

「日米の関係上からも、新大統領の誕生に対して好意的な報道が大半を占めるのは理解できますが、まるでハリウッド・スターが偉業を成し遂げたかのような報じられ方は過剰。これまでの報道を見る限り、『日本政府はオバマ政権に対して、どんなことを訴えるべきなのか?』といった主張や提言はほとんど見られず、ワイドショーの延長のような報道ばかりで、国際情勢の報道に関して質の低下を感じます。私は、アメリカ国内の動向を調べるときは、『ウォール・ストリート・ジャーナル』元編集長のポール・スタイガー氏が主筆を務める報道機関『Propublica』や『ニューヨーク・タイムズ』などの記事を参考にするようにしています(コラム参照)」(岸氏)

 報道の問題点は、これだけではない。メディア問題を積極的に取り上げるジャーナリストの斎藤貴男氏は、就任演説の内容とその報道を例に取り、日本メディアの体質に言及する。

「オバマ大統領は、演説の冒頭部分で『私たちの先人たちが長く険しい道のりを切り開いていったことで、この国に繁栄と自由がもたらされた』と語った上で、『私たちのためにコンコードやゲティスバーグやノルマンディーやケサンといった戦場で戦い、死を遂げた』と口にしました。コンコードは独立戦争、ゲティスバーグは南北戦争、ノルマンディーは第二次世界大戦の代表的な戦地で、彼はそれらの戦地と並列してベトナム戦争の激戦地"ケサン"を挙げたんです。

 国際世論において、この戦争は、米ソ冷戦状態の中、アジアの共産主義拡大を阻止するためベトナム支配をもくろんだ米国の侵略戦争だと認識されています。にもかかわらず、彼はあえてなぜ"ケサン"の地名を挙げたのか? オバマ大統領の発言は、侵略戦争を正当化するものと解釈されても仕方がないもの。イラクからは撤退しても、アフガニスタンでは増派するという彼の方針が、『実はブッシュ前大統領と同じ穴のムジナでしかなく、新政権を歓迎する日本はまたしても侵略戦争の片棒を担がされることになるのでは?』という視点が、この国のマスコミにはまったくない」

 前出の神保氏も、日本でのオバマ報道は極めて一面的なものだと言う。

「(社会問題や経済政策などを扱う上で)米国では、しばしば、"ウォール・ストリート"と"メイン・ストリート"という2つの言葉が対比して語られます。前者は米国の経済成長を支えてきた、ニューヨークに拠点を構える"金融経済"。後者は製造業や小売業など、地方の中小企業を中心とする"実体経済"の例え。前者は"富裕層"、後者は"中・低所得層"と言い換えることもできます。我々は、アメリカという社会を理解する際、常にこの2つの側面からとらえる必要がありますが、それはオバマ報道も同様。彼は、メイン・ストリートの民衆の圧倒的な支持を受けて大統領の座を射止めました。しかし、日本では、オバマ大統領を生んだアメリカの土壌----メイン・ストリートの視点からの報道はほとんど見られませんでした。大所高所からの報道も重要ですが、今回のオバマ現象の歴史的な価値は、メインストリートをしっかりと取材しないと見えてきません。その意味では、日本にはオバマ大統領誕生の本当の価値が、十分には伝わらなかったと思います」

 これまでのオバマ報道では、まさに既存メディアの姿勢や問題点が露呈した格好だ。さらに、前出の岸氏は、日本のオバマ報道の共通性を指摘する。

「それは、イメージの刷り込みです。日本の大半のメディアは、『オバマ大統領の政策=グリーン・ニューディール』という限定的なとらえ方によって報道を展開。もちろん、"緑の公共事業"は、オバマ陣営の経済政策の大きな柱ですが、その政策の中身は、通信インフラや医療・教育制度の改革なども含まれる、非常にバランスの取れたもの。けれども、わかりやすさを追求する日本のメディアは、あらかじめ情報を取捨選択し、自分たちの価値観に合った情報のみを引っ張り出し、切り貼りして報道しているような印象を受けてしまう。これは、すべてのオバマ報道に共通すること。また、新聞・テレビの二大メディアが率先して、このようなメディア・バイアスを繰り返し行うことで、日本人の国際常識度が低下する恐れも出てきます」

 オバマを大統領に選出したことで、"change"の大号令のもと「アメリカが変わった」などと賛辞を贈った日本のメディア。だが、これはアメリカ国民の民度とメンタリティの進歩であって、オバマ政権の政策や彼の手腕とは別次元の話なのである──。

(取材・文/大崎量平)

日本の新聞・テレビが報じない
国際情勢がわかるサイト

 本文で岸氏が薦める『Propublica』。『ウォール・ストリート・ジャーナル』元編集長のポール・スタイガー氏が主筆を務める、本部をニューヨーク・マンハッタンに置く非営利報道機関である。同機関には、ピューリッツァー賞受賞チームの記者や有力紙で活躍した編集者など、気鋭のジャーナリストたちがスタッフに名を連ねる。

 寄付金を主な収益源として活動し、「強者による弱者の搾取」「権力者の裏切り」などをテーマに、政治、経済、社会、教育、環境......さまざまな問題を独自の視点で報道しているのが特徴だ。既存メディアとは一線を画す新たなジャーナリズム組織として全世界から注目を集めており、同サイトでは、ロビイスト活動の制限を打ち出すオバマ陣営の動向などをレポートしている。日本の新聞・テレビが報じないオバマ関連ニュースも少なくないので、国際情勢の"真相"を知りたい向きは、ぜひ一読をおすすめする。


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