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第1特集
【ビジネス本編集者座談会】出版業界でただひとつ元気なジャンル!?

勝間和代の次にくるのは誰だ!これから売れるビジネス書とは?

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──景気が悪いときほどよく売れるという、サラリーマン必携のビジネス書。わらにもすがる思いで本を手に取る読者のために日夜働く編集者たちが、最近のトレンドと今年のヒットの流れを分析! 迷える子羊たちが今読むべきビジネス書はどれだ!?

[座談会出席者]

A......中堅出版社ビジネス書担当20代男性
B......大手出版社ビジネス書担当20代男性
C......中堅出版社ビジネス書担当30代女性
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08年のトレンド・知的生産術ノウハウ本のヒット作3冊。

A 出版不況と言われて長いですが、08年もビジネス書の売れ行きは好調で、我々としては一安心でしたね。

C 昨年も多数の雑誌が休刊に追い込まれる中、ビジネス書からはメガヒットが出ていますからね。これも今のご時世を反映しているんでしょう。勤め人であっても自分の将来が不安だから、ビジネス書を読んで安心を得るという。

B でも、爆発的な売れ行きになるビジネス書はどういう内容か、というのは一概には言えないですよね。そもそも、一口にビジネス書といっても、マネー系、勉強系、スキルアップ系、ノウハウ系、自己啓発系、ストーリー型など、いろいろなタイプがある。

A そうですね。たとえばマネー系なら、当然ですが金融市場の動向に大きく影響を受ける。市場全体が上昇傾向にあれば「この株を買え!」というような本が売れるし、今なら「大恐慌」とか、不安をあおる単語を入れた書籍が売れる。07年あたりの景気の良いときに企画されて、現在出版が保留になっている「株式指南」系の本も多いんじゃないかなあ。

B 逆に、あまり景気に影響されず、手堅く売れるのは勉強系。なかでもここ数年は、「思考法」というのが、ひとつのキーワードになっています。代表的なものは「マインドマップ」という思考技術ですね。このジャンルの新刊は出せば必ず売れますし、書店ではコーナー展開もされてます。昨年はそれら思考法の中でもさらに具体的な、ノウハウ系が受けたのではないでしょうか?

C ビジネス誌でも思考法特集を組んだりして、多く取り上げていましたしね。『地頭力を鍛える』(東洋経済新報社)の著者で、コンサルタントの細谷功の書籍が売れたのも同じ流れ。あとは、やはりこの分野では勝間和代のブレイクが近年一番大きな出来事でしょう。

A 勝間和代の本は、今までのビジネス書にはないスタイルだったのが、ヒットの原因なんじゃないかな。知的生産術や思考法モノでも、たとえば勝間が『効率が10倍アップする新・知的生産術』(ダイヤモンド社)で紹介している「情報を管理するために必要なのは、ノートパソコンとドキュメントスキャナーと、高速通信カード」とか、「ウェブサービスの効率的な利用法」というような、具体的なやり方までを記したものはなかった。昨年売れた『情報は1冊のノートにまとめなさい』(奥野宣之/ナナ・コーポレート・コミュニケーション)もそうだけど、考え方を示すだけじゃなくて、その実践のために具体的に物の使い方まで書く、知的生産術系ノウハウ本の登場は革命的だったよね。

B ノウハウ系ではほかに、本田直之の『レバレッジ勉強法』(大和書房)などのレバレッジシリーズもヒットしましたが、勝間本ほどの売れ行きにはならなかった。その差は、読者にとって著者自身の生き方が身近に感じられないという点にあると思います。「キーボードの入力方法を変える」や「朝型生活の勧め」など、書いてあることはどちらも誰でも簡単にできそうなことなのですが、本田直之自身はセミリタイア後、サーフィンをしながら暮らしたくて、現在はハワイ在住。それに対して勝間は、2度の離婚の後、3人の子育てをしながら日本でバリバリ働いているという点で読者に身近なのかもしれません。

C 確かに本田直之の暮らしは、「いいなぁ~」という憧れは抱いても、どこか現実的ではないように感じられますね。それに比べれば勝間和代は、都内を自転車で移動してダイエットしてるとか、まだ身近な感じはあります。とはいえ、外資系企業を何社も経験して、毎日ベビーシッターを呼んで、年収何千万円、っていう生活自体は全然身近に感じられませんけどね。

勝間和代の慈善事業に振り回される出版社

A そもそも勝間を掘り出してきてデビューさせたのは、ディスカヴァー・トゥエンティワン(以下、ディスカヴァー)の干場弓子社長。この会社は取次会社(出版社と書店をつなぐ流通業者。書店への卸売りを行う)を通さない直販形式を採っているから、営業力が圧倒的に強いので有名。そのディスカヴァーの営業力に対して、大手の取次会社が対抗しようとしてるのが面白い。例えば、同社からヒット作が出ると、他社が類似本を出す。そうすると、取次各社が類似本のほうを積極的に取り扱って、書店の店頭に並べさせる、ディスカヴァーVS取次という構図があったりして。

B 書店からすれば、どちらにしてもとにかく売れるということで、「勝間先生さまさま」なんでしょうけどね。昨年末に都内の大型書店に立ち寄ったら、「勝間本コーナー」が設置されていましたよ。著書はもちろん、彼女が影響を受けたり、推薦する書籍などが分類されて、ワゴンに並べられて。最近はどこの書店でもやっているみたいですね。

C 営業力という点では、勝間和代本人もすごいですけどね。新刊が出ると、担当編集や営業担当など版元の関係者と、「チーム○○○」という、新刊にちなんだチーム名で情報共有を図ることで有名です。要は、今日はどこの書店でどれくらい売れたとか、こんなイベントはどうだとか、新刊に絡んだ情報が発売後3カ月から半年はほぼ毎日のように彼女からチームメンバーにメールで届くみたい。まあ、営業さんにしてみれば、助けられている部分が多くて文句は言えないけど、こっちを信頼して任せてほしいという気持ちもあると言ってました。それくらい首を突っ込んでくる著者なんですよね。

A 勝間といえば、ちょっと不思議な話があって。彼女を中心に、神田昌典や山田昌弘など、ベストセラー作家数人で構成される「Chabo!」というチャリティー・ブック・プログラムがあるんです。このプログラムに登録されている書籍が売れると、その本の著者の印税の20%が、JENというNPOを通じて、世界中の難民・被災民の教育支援・自立支援に使われるというもの。登録された書籍の版元から直接、著者の印税の20%をJENに渡すというので、各版元の協力が必要なんだけど、計画当初、ディスカヴァーの干場社長は協力を拒否したらしい。というのも、JENが「Chabo!」からの寄付金を何にどう使うのか、内訳が不明瞭で、干場社長にしてみれば『そんな訳のわからないところに金を出すのは危ない』ということだったんでしょう。JENが支援活動をしているのは、スーダンなどの政治的に不安定な地域。もしその金が本当に支援として使われていなければ、問題になります。結果的にJENはまっとうな団体で、寄付金は悪い方向に使われていなかったようですが、情報が不十分なままでは版元だって協力できない。干場社長と勝間は、彼女のデビュー以来の仲だそうですけど、この件に関しては干場社長に協力を拒否されて、当初は勝間が独断で進めたそうです。

C ディスカヴァー以外にも、同プログラムに困惑した出版社はあったみたいですよ。「印税の20%」という点について、混乱があったと聞いています。というのも、出版社によって印税の支払い方や計算方法は異なっていますから、「『Chabo!』に登録された書籍のすべてについて、一律20%」というルールに対応しきれない部分も出てきます。「すでに著者に印税を支払っている既刊本の場合はどうするのか」など、振り回された出版社もあったようです。最終的には、勝間和代の持ち前の行動力で解決したようですが......。

B その行動力があったから、「Chabo!」が昨年4月に始動して、年内に形になったのだとは思いますけど、各版元からしてみれば、ちょっと強引にも感じられたでしょうね。

『夢をかなえるゾウ』ヒットは偶然の産物?

A 『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)の水野敬也も、ビジネス書のヒット作家に含まれるんですかねえ。

B こういうストーリー型は海外のビジネス書では多いのですが、日本人著者ではまだ馴染みがなかったですよね。数年前に『チーズはどこへ消えた?』(スペンサー・ジョンソン/扶桑社)がストーリー型でヒットして以来、このタイプでは久々の大ヒットになりました。企画と話の流れがしっかり組み立てられていないと、読まれないんですよね。『夢をかなえるゾウ』のように、うまくハマれば大バケするんですが。

C 普段ビジネス書を買わない人たちが買ってくれるので、火がつけば大きなヒットになるんでしょう。それと、『夢をかなえるゾウ』に関しては、ストーリー型だったために、ヒット後ドラマや舞台になり、それでもう一度売れた。それがロングセラーにつながりましたよね。

A 確かに、初版は07年なのに、08年になっても売れ続けたというのはすごい。ただ、作者の水野敬也は、合理主義者ですごくシビアだって聞くけどね。『夢をかなえるゾウ』のヒット後に、『雨の日も、晴れ男』という文庫本を文藝春秋から出してるんだけど、これはもともとインデックス・コミュニケーションズから3年前に『BAD LUCK』というタイトルで出したもの。で、『雨の日も~』を文春から出す前に、実はインデックスからも文庫化の話が来ていたらしい。それをのらりくらりとかわして、文春文庫から出しちゃった。義理人情には厚くないタイプだという話を聞きますね。『夢を~』のヒット後に編集者たちが新しい企画を持っていっても、「面白かったらやるよ」という感じだそうです。一冊のヒットでそんな態度を取っていたら、今後やりづらくなるだろうに(苦笑)。まあ、クリエイティブ志向が徹底した作家だというのはあるんでしょうけどね。

B あとは、昨年のヒット作家としては、勝間同様にディスカヴァーが発掘した小宮一慶がいますね。『ビジネスマンのための「○○力」養成講座』シリーズがなかなか売れました。

C 小宮一慶もそうですが、勝間和代も、ビジネス書ではありませんがブームにもなった『「婚活」の時代』の山田昌弘や白河桃子も、ディスカヴァーの干場社長自ら編集を担当していますから、彼女の手腕は相当なものでしょうね。サラリーマン社長ですし、規模も大きな出版社ではないので、社長自ら編集も担当するんだと思いますけど。勝間和代の書籍などは、かなり彼女が手を入れているらしいです。

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8冊買ったらCDと賞状!! 宗教と化す書籍販売術

C これだけ多くのビジネス書が出版されていると、読者は何を基準に選んで購入しているんでしょうね。けっこうアコギな売り方をする版元もあると聞きますが......。

A ビジネスセミナー系の著者の売り方はしたたかですよ! 『億万長者 専門学校』(中経出版)の著者・クリス岡崎とかね。刊行時に、同書を8冊買うと"クリス岡崎スペシャルCD"が2枚もらえて、さらに賞状がもらえるっていうキャンペーンをやっていて。複数買って友人にプレゼントし、メッセージを広めてほしい、ということらしいですけど、宗教の布教活動と同じですよね。そもそもビジネスセミナー自体がどこか宗教めいていて、受講者は信者と呼んでもいいくらい講師に心酔しています。だから内容は二の次で著書がばんばん売れる。人気のある著者の新刊は初版2万部くらい刷りますよ。ビジネス書は、通常なら初版5000〜8000部がいいところじゃないですか。だから編集者側も「とりあえず出せば売れるから」ということで、ウチみたいな中小版元がセミナー系の著者を捕まえて出版することが増える。

B 読者の購入基準に影響力を及ぼしているといえば、アルファブロガーと呼ばれる人たちの書評ブログ。それらが書籍の売れ行きを左右しているのは間違いないですね。アルファブロガーのひとり・小飼弾は「ブログで書評をした書籍のアフィリエイト収益が、自著の印税よりも高い」と公言しているほどブログが人気で、彼の書評を読んで、その場で書籍を購入する人が多いのは確かですよね。

C 勝間和代も最近になって「勝間書店」という自著や推薦書の紹介をするサイトを始めましたね。ほかにも、元アマゾンのバイヤーだった土井英司が主宰するメルマガ「ビジネスブックマラソン」も影響力があります。

A 土井英司はメルマガの成功を踏まえて、ビジネス書を作りたい一般人に、本を出すためのレクチャーをするセミナーと、業界内部向けに「どんな本がこれからはやるか」を解説するセミナー兼交流会を立ち上げたんですが、大きくスベったみたいですよ。

C 彼のセミナーに何度か参加したことのあるビジネスライターが、「1万円払うからサクラで参加してくれ」と連絡が来たと言っていました。どうも人が集まらないようで、参加経験のある人に声をかけて回っているようですね。メルマガは成功して出版社からも献本が多く届いているようですが、どれだけ多くのビジネス書を読んでも、自身のビジネスが成功するかどうかは結局別の問題なんですね。

B さて、ビジネス書業界、今年はどうなるんでしょうね? 08年は勝間和代の独り勝ちだったけど、09年もそれに倣って、ノウハウ系のビジネス書が主流になるのかな。

C うーん、今のビジネス書は完全に著者の名前で売れるようになっているので、各出版社は人気作家の順番待ちをしている状況ですよね。でもそろそろ勝間さんも、賞味期限切れのような感じがします。それは自分でもわかってるのか、最近は訳書や書評本を盛んに出していますね。でもまあ引き続き知的生産術系ノウハウ本は売れると思うので、ビジネス書専門の書き手ではないけど、日垣隆あたりが重宝されるんじゃないでしょうか。

A ノウハウ系でも自己啓発すれすれのものでも、要は「働く上での心持ち」を説く本が売れるのでは? 皆誰かに説教されたがっているというか、指針を欲しがっているから、こんなにビジネス書が売れるんでしょ。自分で作っていて言うのもなんですが、ビジネス書を読んで成功した人の話なんか聞いたことないですけどね。作ってる我々が成功してないんですから(笑)。

B それを言ったらダメですよ(笑)。まぁ、景気が悪くて社会全体が落ち込んでいるときに一番売れるジャンルですから、今のうちにせいぜい稼いでおかないと、ってことでしょうね。

(構成/中島光子)

「書店さんには言えないけれど......」
Amazonあってのビジネス書!

 マネー系、勉強系、スキルアップ系、ノウハウ系、自己啓発系......本文中でも紹介したが、ビジネス書のなかのジャンルはいまや細分化が進みすぎて、書店に足を運んでビジネス書の棚を見ても、どれを買えばいいのか、選ぶことが難しくなっている。そんなときに読者を助けてくれるのが、オンライン書店・Amazonだ。当然、作り手側である編集者もその動向には気を配っているという。

「Amazonのサービスのなかで、ビジネス書編集者が気にしているのは『この本を買っている人はこちらの本も買っています』という形でAmazonから利用者に提示されるオススメ機能。自社から出た本が大ヒットにはなっていなくても、ここで売れ筋の本とひとまとめになっていれば、売り上げが見込めますからね。ビジネス書の売り上げは、Amazonへの依存度がとても高くなっています」(ビジネス書編集者)

 また、Amazonのシェアが拡大している要因として、アルファブロガーの存在は欠かせない。彼らにブログで紹介してもらうべく、出版社は献本まで行っているのだ。

「若いサラリーマンなどでビジネス書を購読する人は、ネットとの親和性が高い場合が多い。ブログなどをマメにチェックしたり、オンラインでの買い物に抵抗がない人が多いのです。だからアルファブロガーの小飼弾や、彼と同じように著名なブロガーである聖幸、smoothなどのブログは必ずAmazonのアソシエイト登録をしていて、アフィリエイトで稼いでいる。それらのブログを読んだ後、そこに貼られたアフィリエイトから、Amazonにジャンプしてそのまま書籍を購入する、という流れができているのです。それに、サラリーマンだと平日は書店に行く時間がない人もいるでしょう。そういった人がAmazonでビジネス書を購入する。だから、長年お世話になっている書店さんには言えませんが、『Amazonさまさま』という感じですね」(別のビジネス書編集者)

 忙しいビジネスマンは、書店で考える時間も惜しい、ということか。でも、「アルファブロガーの評価に従って本を買い、Amazonからススメられて本を買い、知的生産術ノウハウを本から得ようとする」って、どこまでも自分でものを考えない人になってるんじゃ......。


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