サイゾーpremium  > 連載  > 稲田豊史の「オトメゴコロ乱読修行」  > オトメゴコロ乱読修行【51】/『82年生まれ、キム・ジヨン』日韓のフェミニズムの今

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

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 韓国における2018年度の合計特殊出生率、すなわち「女性が生涯に産む子どもの数」は0.98だった。深刻な少子化が叫ばれる日本ですら1.43なのでちょっとした異常事態である。

 その理由は、2016年に韓国でベストセラーとなった小説『82年生まれ、キム・ジヨン』を読めば一目瞭然だ。「キム・ジヨン」とは1982年生まれの韓国人女性にもっとも多い名前。33歳既婚、昨年娘が生まれたと説明されるキム・ジヨンは、物語の冒頭からいきなり精神に変調をきたしている。その理由は、彼女が象徴している“ごく一般的な韓国人女性”が、生まれてこのかたずっと、韓国社会に根強く残る男性優位・男尊女卑に苦しめられてきたからだ。

 まず、娘を産んだ母親は「息子を授かれなかったこと」を姑に謝罪することからスタートだ。男は女より食事の献立が豪華で、教育にかける金も男児優先。どんなに優秀な女性でも、就職先、給与、職位、そのすべておいて、平凡な男より上に行くことすら難しい。結婚すれば、即座に“産む機械”としての機能を親族一同から期待される。

 妊娠したら妊娠したで、さらなる地獄が待っている。満員電車を避けるために時差出勤すれば同僚から嫌味を言われ、車内では渋々席を譲った乗客に罵倒される。ベビーシッターを雇う経済的余裕がない場合、会社を辞めるのは問答無用で女。それでキャリアがパーになることに、夫は何か問題でも? という顔をする。

 こうしてキャリアも夢も捨て、夫の理解も得られないキム・ジヨンは、子育てで心身ともにヘトヘトになる。保育園に娘を迎えに行ったある日の帰り、テイクアウトの安いコーヒーを公園のベンチで飲んでいると、近くにいた男性同士の会話が聞こえてきた。「いいご身分だな」「害虫」。帰宅した彼女は夫に言う。「私はたった1500ウォン(約140円)のコーヒーを1杯も飲む資格がないの?」。その後、彼女は狂ってしまう。そりゃあ、出生率が1を割って当然だ。

 もちろん日本も負けてはいない。就活での女子劣勢や就業環境の男女格差やマミートラック問題やマタハラや子育て無理ゲー問題については、韓国ほどではないにせよ、その7掛けか8掛けくらいの惨状程度は日々告発されているからだ。

 ……というシビアな現実を未来の為政者候補たちに一発かましてくれたのが、国内フェミニズム界のゴッドマザーこと、我らが上野千鶴子先生である。時は平成31年4月12日、我が国の最高学府である東大の、あろうことか入学式の祝辞で。壇上に立った上野は、東京医科大の不正入試問題で女子が不当に差別されている件を皮切りに、以下のような内容をスピーチした。

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