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連載
【プレミアム限定連載】アメリカン・トゥルー・クライム第10回

地の果て・アラスカ州から殺人旅行を繰り返したシリアル・キラー

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――犯罪大国アメリカにおいて、罪の内実を詳らかにする「トゥルー・クライム(実録犯罪物)」は人気コンテンツのひとつ。犯罪者の顔も声もばんばんメディアに登場し、裁判の一部始終すら報道され、人々はそれらをどう思ったか、井戸端会議で口端に上らせる。いったい何がそこまで関心を集めているのか? アメリカ在住のTVディレクターが、凄惨すぎる事件からおマヌケ事件まで、アメリカの茶の間を賑わせたトゥルー・クライムの中身から、彼の国のもうひとつの顔を案内する。

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アラスカのシリアル・キラー、イスラエル・キース。

 2012年2月1日午後8時頃、アラスカ州アンカレッジにある小さなコーヒー店でアルバイトをしていたサマンサ・コーニック(当時18歳)は、店を閉める準備をしていた。すでに店の周囲は暗闇に包まれていたが、彼女のもとに最後の客が訪れた。顔を覆うスキーマスクを被った男は、コーヒーを注文。極寒のアラスカ州では、そうしたマスクを被る姿は見慣れた光景だった。彼女は男のために、この日最後のコーヒーを淹れ、カウンターへ運ぶ。

 そこで彼女を待っていたのは、銃口を向ける男の姿だった。男はサマンサの手首を結束バンドで縛ると、深々と降り積もる雪の中、誘拐したのだ。

 翌日、犯罪とは縁遠かった町で、市民と警察による大規模な捜索が開始される。3週間後、サマンサのボーイフレンドに、彼女の携帯電話からメッセージが送られてきた。

「コナー公園にあるアルバートの写真の下。彼女可愛いな」

 謎めいたメッセージをもとに警察がコナー公園に向かうと、掲示板に貼られたアルバートという犬探しのポスターの下に、サマンサの写真が入ったジップロックを発見。怯えた様子で目を見開いたサマンサと、数日前に撮影したことを示すためか、日付入りの地元新聞が写されていた。そこには、彼女の銀行口座に30000ドルを振り込むよう身代金を要求する紙も同封されていた。サマンサの両親は市民からの寄付金を集めると、すぐに現金を振り込んだ。娘が生きて帰ってくることを信じて。

 それから数日後、事件は急展開をみせる。アラスカ州から遠く離れたアリゾナ州で、サマンサの口座の現金が引き出された。防犯カメラにはサングラスで変装をした男の姿が捉えられていた。その後、男はニューメキシコ州、テキサス州と移動し、ATMから現金を引き出し続ける。警察は防犯カメラの映像をもとに捜査を進め、滞在先のホテルから車を走らせようとしていた男にたどり着いた。停車させた車の中で、サマンサの携帯電話とデビットカード、そして大量の現金を発見。男が提示した免許書には、イスラエル・キーズと記されていた。

 ここでついに、サマンサ誘拐の容疑者は逮捕された。だがこの時、イスラエルがシリアル・キラーであることは、まだ誰も知る由もなかった。

厳格な両親のもとで暮らした少年時代

 1978年1月7日、イスラエル・キーズは、ユタ州リッチモンドで9人兄妹の長男としてこの世に生を受けた。厳しいキリスト教原理主義者の両親は、子供たちの名前を聖書から引用し、彼にはイスラエルと名付けた。

 彼が生まれて間もなく、一家はワシントン州スティーブンス郡に移り住む。経済的に恵まれない環境だった一家は、林に囲まれた通り沿いに立つ小さな小屋で生活を開始。厳しい冬を迎えると、電気も通っていない小屋で薪を燃やして暖をとる生活を送った。イスラエルは学校には通わず、ホームスクールで教育を受け、神への冒涜と両親が判断すれば、映画や音楽などのポップカルチャーに触れることも許されなかった。そして週末になれば、両親と共に白人至上主義の色濃い教会に通い続ける日々を送った。孤立した環境で育ったイスラエルにとっては、それが普通だった。しかし、彼が初めて自分の“異変”に気がついたのは、彼が14歳の頃だった。

 友人と行動をするようになった彼は、空き家に侵入するという遊びを繰り返していた。ある日、忍び込んだ家の中で猫を発見すると、イスラエルは躊躇なく射殺した。気味悪がった友人は、彼を避けるようになっていったという。また、妹が飼っていた猫がゴミを漁ると問題になった時も、彼は猫を林に連れて行き、腹部に向かって発砲。死にゆく猫を見ながら笑った。

 常軌を逸した行動で、さらに孤立を深めていった彼であったが、後に彼が営む建設業の才能を見つけるのも、ちょうどこの頃だった。イスラエルが初めてキャビンを建てたのは、まだ16歳の頃だった。

 1990年代後半、一家は再び住まいを変える。母親は、キリスト教原理主義者からモルモン教徒へと変わる。だがその信仰は定まらず、今度はメーン州スミュルナに移り住み、アーミッシュ・コミュニティでの生活を開始。近代的な生活様式を営まず、昔ながらの農耕や牧畜によって自給自足をするこの集落で過ごす中、母親は環境になじめず、再び信仰を変えていく。2度3度と信仰を変える母親は、それゆえに周囲からは気味の悪い女性として変わり者扱いされ、カルト扱いされていたという。

 そうしたこともあって、イスラエルは17歳の頃、とうとう両親の信仰に嫌気が差し始めた。一家の絶対的な存在であった神の存在に苦しみ、無神論者となることを決意。彼の不信心を知った両親は、イスラエルを勘当する。彼は家族を捨てて旅に出た。

 1998年、イスラエルは自ら軍に入隊する。3年間の軍隊生活の末に除隊した後は、9歳年上のガールフレンドと再びワシントン州へと移り住み、幼少時代から培った才能を活かして、建設業を営み始めた。仕事は順調だった。結婚こそしなかったが、2人の間には娘が生まれた。

 2007年3月、2人は知人の勧めもあって、娘を連れてアラスカ州へと移住を決意。新天地でも建設業を営み、 寡黙だが確かな腕を持ち、指定した時間の5分前には準備を整えている彼の姿は、すぐに評判の職人として、地元住民に知られていった。彼を雇った住民は、一様に真面目で娘思いの男と太鼓判を押していた。サマンサ誘拐事件が起きるまでは……。

“殺人中毒”を自称する男が語りだした複数の犯行

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イスラエルが用いた殺人キット。

 2012年3月13日、誘拐容疑でイスラエルは逮捕されたが、依然としてサマンサの捜索は続いていた。連日続いた取り調べに対して、彼は沈黙を守り続けたからだ。しかし逮捕から18日後、FBIの捜査によって追い詰められたイスラエルは、その重い口を開き始めた。

「彼女はもう、死んでるよ」

 そして彼は、おぞましいサマンサ殺害の全容を、淡々と語り始めたのだ。

 イスラエルは彼女を誘拐後、ガールフレンドと娘が眠る自宅のガレージで強姦し、窒息死させた。身代金要求の為の写真を撮影した時には、すでに死んでいたことを告白。さらに、写真に写る彼女の見開いた目は、糸で縫いつけて強引に開けさせていたこと。死体をバラバラにし、ビニール袋に入れてマタヌスカ湖へと運び、厚く張った氷をチェーンソーで切り抜いて死体を捨てたこと。その場で釣りを楽しんだこと。そして、その帰りに娘の小学校へ向かい保護者面談に出席し、その夜、釣った魚を鍋料理にして娘に食べさせたことを滔々と語った。

「あなたが知りたいことを全て話しますよ。もっと話さなきゃきけないストーリーもあるんです」

 イスラエルは、捜査官にそう告げると、過去の犯行を語り始めたのだ。

 殺人が趣味と豪語する彼は、建設業で金を稼いでは全米を飛び回り殺人を繰り返していたというのだ。バーモンド州では、中高年の夫婦宅を襲った。寝ていた2人を起こして手首を縛って誘拐し、近くの廃墟にある地下室で夫を椅子に縛り、上の階で妻を強姦。2人を殺害し、地下室に遺棄した。さらに、複数の州に、銃や、ロープ、ゴミ袋、排水管洗浄剤などを入れた“殺人キット”を、あらかじめ用意しておき、手ぶらで訪れると殺人を繰り返していたのだ。自らを“殺人中毒”と表現するイスラエルは、そうした行為を働く為に、2007年から2012までの間に20回も飛行機でアラスカを出ており 、資金調達のために銀行強盗まで働いたというのだ。

 イスラエルは、14年間に渡って家庭的な父親と、冷酷な連続殺人鬼の二重生活を送っていたのだ。

崇められたいわけではないーー身勝手すぎる結末

「今、直面している問題は、誰かが私の事をバカバカしいテレビのトゥルー・クライム・ショーにしようとすることだ」

 イスラエルは取調室で、コーヒーカップを握りながらそう呟いた。

 過去に存在したシリアル・キラーの中には、自分の犯した罪によって浴びるスポットライトに快感を覚える者も少なくない。しかし、彼は自分の名が新聞や、インターネットに載ることに抵抗を示し、特にテレビ番組のネタに扱われることに嫌悪を示した。10歳になる娘が将来、自分のことをインターネットで調べるのを恐れていたのだ。

 また、彼はそうしたショーに、人々が夢中になることも知っていた。アメリカにはこうした実録犯罪物のテレビ番組が多くあり、人気を博している。一線を越えて、殺人鬼を英雄視する者も一定数存在する。手紙の交換をしたり、面会と称して直接会いに行く者もいる。有名な殺人鬼ともなれば、ファンクラブもあるほどだ。彼らを祭り上げるのは男だけではない。殺人鬼に恋心を持つ女性のことを「プリズン・グルーピー」と呼ぶが、ロックスターの追っかけのように、殺人鬼に夢中になり、中には獄中結婚をする者もいるのだ。

 しかし、イスラエルは、自分を崇める者達に興味を持つようなタイプのシリアル・キラーではなかった。彼は、一刻も早く、この世から去りたいと考え始めていた。

「俺はもう全てを終わりにしたいんだ。俺は刑務所から一生出れないことを知っている。俺にとって、それは死刑と同じなんだよ」

 そして2012年1月21日、裁判開始の3カ月前、イスラエルはカミソリの刃で手首を切り自殺をした。警察は少なくとも11件の殺人に関与していると見て捜査を進めていたが、イスラエル亡き今、その数は把握しきれていない。

 14年間に渡って殺人旅行を行ったイスラエルの被害者は、今も全米中に眠っているかもしれない。

井川智太(いかわ・ともた)
1980年、東京生まれ。印刷会社勤務を経て、テレビ制作会社に転職。2011年よりニューヨークに移住し日系テレビ局でディレクターとして勤務。その傍らライターとしてアメリカの犯罪やインディペンデント・カルチャーを中心に多数執筆中。

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