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佐々木俊尚の「ITインサイド・レポート」 第92回

“拡散力”から“信頼力”へ…コンテンツの質の底上げとネイティブ広告の意外な関係

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進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!

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『広告なのにシェアされるコンテンツマーケティング入門』(宣伝会議)

 ウェブメディア界隈ですっかり認知された「ネイティブ広告(アド)」というワード。ネガティブな文脈で語られることもある言葉だが、低クオリティなコンテンツも散らばるウェブメディアにおいて、この状況を変化させる可能性があるという。広告費のありかたの変化と、コンテンツの関係とは?

 メセナという言葉がある。今ではあまり聞かれなくなったが、企業が文化や芸術を支援する活動のことで、企業の金によって美術展を開催したり、ライブコンサートを開くというようなものだ。日本では1980年代のバブル期に注目されるようになり、その後、数は減ってしまったが、企業の社会貢献活動のひとつとして定着はしている。

 最近、やたらとネット業界で話題に上ることが多いネイティブ広告は、単純化してしまえばメセナに似たようなものである。質の高い記事をクライアント企業の予算によって制作し、ユーザーのもとへと送り届けるという点が共通しているからだ。広告予算の少ないチープな編集部が質の低いコンテンツを制作する体制よりも、ずっと高い質の記事をつくることができ、それは最終的に、企業がメディア空間の質の高さを担保する未来像へとつながっていくことになるのだ。

 これは企業、ユーザー、メディアの三者にとって、いずれもメリットがある。

 企業は質の高い広告コンテンツによって、自社の知名度を高め、ブランド価値を上げることができる。ユーザーは無料で、質の高いコンテンツを得ることができる。そしてメディア企業は、予算を潤沢に使った質の高いコンテンツを制作する喜びを得て、そして収益も得られる。

 メディアの構造が変わっていく中で、メディア企業のあり方自体も大きく変わろうとしている。インターネットの普及から20年、2000年代に入ると、メディア企業はポータルサイトや検索エンジン、SNSなどのプラットフォームにパワーを奪われ、今後は単なるコンテンツ供給者として弱々しく生き延びていくだけだと思われていた。プラットフォームに情報流通のインフラを握られ、チープなディスプレイ広告を薄利多売するしかない状況に落ち込んでいたからだ。日本でもメディア企業の関係者が集まると「どうしたら、これから儲かるんでしょうねえ」「コンテンツの質を上げるのは、単価を考えると難しい」とグチばかりがこぼれる雰囲気が蔓延する状況だったのだ。

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