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法社会学者・河合幹雄の法痴国家ニッポン【20】

実刑にはならないチノパンと 道交法に見る"運転主体"という問題

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法と犯罪と司法から、我が国のウラ側が見えてくる!! 治安悪化の嘘を喝破する希代の法社会学者が語る、警察・検察行政のウラにひそむ真の"意図"──。

今月のニュース

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「チノパンに罰金100万」
2013年1月、静岡県沼津市のホテルの駐車場で、千野志麻(本名・横手志麻)元フジテレビアナウンサーが、男性を自動車ではねて死亡させる事故が発生。逃亡や罪証隠滅の恐れがないことから千野アナは逮捕されず、同年12月に静岡区検察庁が自動車運転過失致死罪で略式起訴。静岡簡易裁判所の略式命令に従い、千野アナは罰金100万円を即日納付したが、今も活動を休止している。


 少し前の話ですが、チノパンこと千野志麻・元フジテレビアナウンサーが起こした交通事故のことを憶えておいででしょうか? 2013年1月、静岡県沼津市のホテルの駐車場で彼女は男性を自動車ではね、死亡させてしまいます。このニュースに接した多くのドライバーは、改めてハンドルを握ることの怖さと責任の重さを心に刻んだことでしょう。

 一方で同年12月、静岡簡易裁判所は千野アナに対し、罰金100万円の略式命令を出します。この処遇については、結果の重大性に比して罰が軽すぎると感じた人が多かったようで、特にネット界隈では、千野アナが逮捕されず実刑にもならなかった理由について、「父が沼津市議会議員、夫が福田康夫元首相の甥という名門だけに、警察・検察が配慮したのでは?」などという、うがち過ぎな意見が少なからず見受けられました。

 交通事故は、誰もが加害者や被害者になり得る最も身近な“犯罪”です。にもかかわらず、千野アナの一件に対する巷の反応からは、いざ交通事故を起こしたとき、法がどのように運用され、どんな処罰を受けるのかという実態がいかに一般に知られていないかがよくわかる。というのも、専門家から見れば千野アナへの処遇は、少なくとも今日の日本においてはまず妥当といえるものだからです。そこで今回は、日本における交通犯罪、特に死亡事故に対する一般認識と処遇が時代ごとにどう変遷し、その結果として現在どんな状況にあるかを解説することにしましょう。鍵になるのは、交通事故によって罰せられる主体は誰なのか、という点です。

 はじめに、ここ日本において、道路交通に関する法律がいかなる経緯で制定されたかを見ていきます。自動車が日本に初上陸したのは19世紀末。以降半世紀ほどの間、自家用車という意味での自動車は、従来の馬車や人力車に替わる、ごく一部の富裕層の持ち物でした。日本初の信号機が東京・日比谷交差点に設置されたのが1930年のことで、第二次大戦の終わり頃までは、バス・タクシーなどの公共交通や業務用車、軍用車を除き、自動車などあまり走っていない状況が続きます。

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