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第1特集
悲しみのアイドル映画20年史【1】

アイドル映画の20年史 アイドルたちが"ドキュメンタリー"となった悲しき地獄

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──古きよきアイドル映画の時代は、とうの昔に終わりを告げていた。それでは、現在のアイドル映画はどのようなものなのか? 97年の『20世紀ノスタルジア』から峯岸みなみの「ボウズ映像」まで、すべてを飲み込んでいくアイドル映画の欲望を「ドキュメンタリー」という視点から徹底分析を加える!

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「ドキュメンタリー」で見る悲しみのアイドル映画20年史
安倍なつみの息切れから、あっちゃんの過呼吸へ─。

 アイドル映画はアイドルを映す鏡である。それは悲しいまでにアイドルのあり方を映し出す。ならばアイドル映画の歴史を追ってみよう。そこには、アイドルの歴史が刻まれているはずだ。

 第1次アイドル黄金期である80年代、『セーラー服と機関銃』【1】(薬師丸ひろ子、81年)や『時をかける少女』(原田知世、83年)などの角川映画から『おニャン子ザ・ムービー 危機イッパツ!』(おニャン子クラブ、86年)まで、数多くのアイドル映画が製作された。それらをいま鑑賞すると、どこか牧歌的な印象さえ受ける。アイドルがまだ偶像であり得た時代。そこではアイドルは、絶対的なフィクションでいられた。

 その構造に裂け目を生じさせる巨星が現れる。その名は広末涼子。90年代以降のアイドルの礎をつくった女だ。

 90年代のアイドル冬の時代、駆け出しのアイドルを使ってサブカル系映画監督たちが映画を撮る、という流れの中で、『20世紀ノスタルジア』【2】(97年)という作品が生まれる。70年代に『初国知所之天皇』などの前衛的作品を生み出したことで知られるシネフィル映画監督・原将人の手による同作は、広末にビデオカメラを持たせ独白させるなどの手法を駆使し、彼女を1人の少女としてスクリーンの中に立ち上がらせる。その生っぽさ、ドキュメント性。ここに、「“独白”する“リアル”な少女」(「メタフィクショナリズムとドキュメンタリズム)を構成要件とする、現代アイドル映画が誕生する。

 一方で90年代後半に入ると、アイドルブームは再び盛り上がりの機運を見せ始める。安室奈美恵、MAX、SPEED、そして何より時代の革命児となったのは、97年に結成されたモーニング娘。(以下、モー娘。)だ。彼女たちへと国民を熱狂させたのは、『ASAYAN』(テレビ東京系)が断片的に発信する舞台裏の悲劇であった。視聴者は、切り取られた少女たちの生の声を自らの手でつなぎ合わせ、物語を作り上げていく。そこには、言葉の正しい意味における「ドキュメンタリー」があった。

 モー娘。のデビューは、『20世紀ノスタルジア』公開翌年の98年。この年には、SPEED主演の『アンドロメディア』で島袋寛子がアイドルを演じ、『モーニング刑事。』ではモーニング娘。が実名で登場。このメタ的ともいえる自己言及は、同じくモー娘。が主演を務めた00年の『ピンチランナー』【3】に引き継がれる。

『ピンチランナー』は、マラソンをテーマに少女たちの友情を描いた作品だが、注目すべきは、モー娘。をはじめとする出演者たちが劇中で実際に「ひたちなか全国少女駅伝大会」に参加している点だ。その裏側は当然ドキュメンタリーとして『ASAYAN』にて放送され、後藤真希という新エースの登場によるストレスから見事に太ってしまった安倍なつみが苦悶の表情を浮かべながら走る姿が映し出される。ファンはそのドキュメント性に涙し、多くの物語を紡いでいくこととなる。

 しかし、アイドル映画ドキュメンタリー化の嚆矢となったモー娘。擁するハロー!プロジェクト(以下、ハロプロ)勢はこの後、時代と逆行するように古きよきアイドル映画路線へと身を沈めていく。“ももち”こと嗣永桃子(当時9歳)が主演を務めた『仔犬ダンの物語』(02年)、石川梨華と藤本美貴がW主演した『17歳~旅立ちのふたり~』(03年)の監督・澤井信一郎は、奇しくも『野菊の墓』(松田聖子、81年)などを手掛けた古きよきアイドル映画の巨匠であった。

 この後、AKB48(以下、AKB)が牽引する「アイドル戦国時代」が到来するまで、芸能界は一時的に再びアイドル冬の時代を迎える。その間隙を埋めるかのように映画界では、シネフィル映画監督たちが、宮﨑あおい、蒼井優、長澤まさみなど多くの若手女優を輩出していく。彼女たちは映画界のアイドルではあったが、アイドルそのものではなかった。そのため、モー娘。が先鞭をつけたアイドル映画ドキュメンタリー化の流れは、しばらく停滞することとなる。

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