荻上チキの新世代リノベーション作戦会議
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荻上チキの新世代リノベーション作戦会議 第10回

自殺は個人の問題ではない! 社会問題解決のため、我々がなすべきこと【後編】

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眼前の当事者の救済と長期的な環境作りの両輪

荻上 せっかくですので、自殺統計で明らかになった、特に強調すべき成果、特筆すべき傾向というのをあらためて語っていただけますか。

清水 やはり、地域によって亡くなる人の職種や立場が違うし、それぞれの属性によって抱えている要因も違うという、地域特性の存在ですね。失業率や有効求人倍率の問題が高いからといって一律に自殺が増えるということではなくて、その問題が連鎖、拡散しやすいような地域状況にあるときに、自殺の問題として表面化してくる。秋田では経営者の自殺率がどんどん下がっているのに対して、北海道では土木建築業者の自殺率が、青森であれば農林漁業者の自殺が多い。東京でも、足立区では失業者の自殺が多いし、練馬区では主婦の自殺が、新宿区では20代女性の自殺が多いとか、地域によってどういう職種、どういう立場の人が多く亡くなっているのかは、大きく異なっている。

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荻上チキの新世代リノベーション作戦会議 第10回

自殺は個人の問題ではない! 社会問題解決のため、我々がなすべきこと【前編】

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若手専門家による、半熟社会をアップデートする戦略提言

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■今回の提言
「社会からの『排除』解消に政権をもっと利用しよう!」

ゲスト/清水康之[NPO法人ライフリンク代表]

──社会の現状を打破すべく、若手論客たちが自身の専門領域から日本を変える提言をぶっ放す! 今回のゲストは、NPO法人「ライフリンク」代表として自殺問題に取り組む自殺問題に取り組む清水康之氏。13年連続で自殺者が3万人を超えるこの国で、その対策が待ったなしであることは一目瞭然。今為すべきことで、できることはなんなのだろう?


荻上 今回お招きしたのは、自殺対策支援センター「ライフリンク」の代表である清水康之さんです。先日、菅直人首相らが「一人ひとりを包摂する社会」特命チームを作り、「一人暮らし高齢者、児童虐待、不登校、DV、離婚、貧困、非正規雇用、孤独死、自殺」といった問題やその可能性を抱えた人たちが孤立しない社会を作るために邁進するという旨を発信しました。この特命チームのメンバーに、貧困問題の湯浅誠さんと並んで抜擢されたのが、清水さんでした。

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荻上チキの新世代リノベーション作戦会議 第9回

明日にはあなたも当事者に!? "関心鎖国"日本で始めるべき対話とは【後編】

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「観察者」と「当事者」 その垣根を越えて

荻上 正しい目的は、非暴力的で正しい手段でしかなし得ない、と。軍政に対して武装蜂起で対立することをよしとせず、あくまで包摂的な場を作ってその場の魅力を高めることによって、人々を自発的にインクルードしていくことを理想とする。それは、特に支配体制によって批判自体が許されない社会にあっては、戦略的にも正しい判断だといえます。

 もちろん、正しい目的のためには、時として逸脱した手段を利用するというプラグマティズムもまた、あって構わない。僕としては、両方の立場ともに支持できるんですが、あえて対立構造を作らない運動の構築を日本に喚起しようと思うとき、大野さん自身がお感じになっていることはなんですか?

大野 08年にわたし自身が発病して、あらためて気づいたことがあります。タイミングとしては、大学院に進学して助成金でタイに行くことが決まった中だったんですけど、向こうで立ち上がることもできなくなってしまって、日本に戻り闘病する羽目になったわけです。ここで自分の立ち位置が、難民を研究するアカデミックな専門領域の座から、医療や障害の問題の当事者の座へと一気に転化してしまったんですね。で、医療難民のような経験をして一番愕然としたのが、自分たちの問題に対して関心を持ってほしいと社会に対して思っている人自身が、実は同じくらいの苦しみを抱いてるはずの他の領域に関しては、まったく無関心であったりするということ。まさしく、私自身がそうであったわけです。だから、この断層を突き通すことが、もしかしたら自分なりの役割なのかな、とだんだん思うようになりました。そうなるまでが、本当に大変だったんですけど......。いかに大変だったかは、連載を読んでいただければ。

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荻上チキの新世代リノベーション作戦会議 第9回

明日にはあなたも当事者に!? "関心鎖国"日本で始めるべき対話とは【前編】

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若手専門家による、半熟社会をアップデートする戦略提言

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「日本の社会運動の今後は、 スーチー氏に学ぶべし!」
ゲスト/大野更紗[作家]

──社会の現状を打破すべく、若手論客たちが自身の専門領域から、日本を変える提言をぶっ放す! という本連載、今月のゲストは、大学院生で作家の大野更紗さん。難民問題をはじめ、ビルマの民主化運動の研究と支援をしながら、自身も自己免疫疾患系の難病と闘う大野さんと、"関心鎖国"たる日本の現状となすべきことを考えます。

荻上 ここ2回の本連載では、対中韓関係で高原基彰さん、対ロシア関係で廣瀬陽子さんにご登場いただくという「外交シリーズ」で日本の内憂外患について考えてきましたが、今回はさらに一般の日本人が目を向けることの少ない「外」と「内」、2つの難題と身をもって闘われている大野更紗さんをお訪ねしています。

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荻上チキの新世代リノベーション作戦会議 第7回

偏向報道に騙されるな! 外交問題で重視すべき実益【後編】

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「実事求是」の 東アジア・リテラシーとは?

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高原基彰氏の著書『現代日本の転機』

高原 今回のデモについては、政権内部の権力闘争と関係があるとか、いろいろ報道がなされています。

 中国の偏向報道といっても、若い世代はわかっていて、自国の情報についても、外国、特に英語圏のメディアのほうが正確だと普通に思っています。でも反中国的言説に対しては、突発的に反感が拡大したりもする。前述のように、複雑なんです。

 よくある誤解として、完全に政府に洗脳された大多数の国民と、犯罪者扱いされている「反体制派」の2種類しかいないと思っている人が多いみたいですが、現実はまったく違う。確かに既存のマスメディアは、政府の情報統制下にあります。でもその内部でも、政治改革の進まない現状を憂う人は多い。官製メディアの記者が、匿名でネットに、表で書けないことを投稿するなんてことがたくさんある。一方で、「もっと改革は必要だが、急激にやって国が崩壊しちゃ困る」という意見もある。現体制が崩壊してもいいという「反体制派」と、「体制側」の二分法で考えると、その中間に幾層ものグラデーションがあるのを見逃すことになる。

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荻上チキの新世代リノベーション作戦会議 第7回

偏向報道に騙されるな! 外交問題で重視すべき実益【前編】

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■今回の提言
「一枚岩でない相手国の情報を知り、賢い対中外交を」

ゲスト/高原基彰[社会学者]

──社会の現状を打破すべく、若手論客たちが自身の専門領域から日本を変える提言をぶっ放す! という本連載、今回は東アジア研究を専門とする社会学者の高原基彰さん。尖閣諸島問題を発端に、政局から民衆レベルまで日中関係をめぐって緊張が走るこの状況をどのようにとらえ、隣国とどうかかわっていくべきなのでしょうか?

荻上 今回は、東アジア、特に中国の外交問題をどう受け止めるべきかという、これまでと比べても論争的なテーマを扱います。お相手は、韓国・中国などに滞在しながら、社会学者の立場から東アジア研究をされてきた高原基彰さん。現在、尖閣諸島での船長拿捕事件をきっかけに、日中関係が一気に緊迫化しています。それぞれの政府の外交姿勢に対して、互いの国内では「弱腰だ」という政府批判の突き上げを含んだ反日デモ、反中デモが起こるなど、国民感情が悪化しているという状況です。

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荻上チキの新世代リノベーション作戦会議 第6回

なぜ「ニート」は話題になったのか!? 社会問題は結果を求めよ!(後編)

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社会学が果たすべき「社会問題化」への回路

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井出草平氏の著書『ひきこもりの社会学』。

荻上 ねじれた状況を解きほぐし、「なぜその問題へのコミットメントこそが重要なのか」というアカウンタビリティを果たしながら啓発していく、そうした社会科学者のロールモデルが求められているわけですが、なかなか可視化されにくい面がありますね。急いで補足すると、これは「即時的に役立たない研究者は無意味だ」という叫びではない。文献講読、参与観察、統計調査、アウトリーチ活動、大衆への血肉化。「専門知というバトン」をリレーしていく中では、一見「意味があるかはわからない」作業も重要です。ただし、いずれも最後は社会的機能に還元されるため、専門家に限らず、「どういう参与を果たすのか」という役割自覚が重要だということです。

井出 やはり、端的に言えば英米系の社会学者のキャリアパスが参照先になっていくと思います。日本ではイギリスのブレア政権のブレーンとなったアンソニー・ギデンズが有名ですが、アメリカで言えばクリントン政権に影響を与えたアミタイ・エツィオーニは外せない。

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荻上チキの新世代リノベーション作戦会議 第6回

なぜ「ニート」は話題になったのか!? 社会問題は結果を求めよ!(前編)

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■今回の提言
「社会学者は言説分析から、 行政へコミットを目指せ!」

ゲスト/井出 草平[社会学者]

──社会の現状を打破すべく、若手論客たちが自身の専門領域から、日本を変える提言をぶっ放す! という本連載、今回は社会学者の井出草平さん。もはや社会に定着しきった「ニート」「ひきこもり」という言葉が生まれた背景から、若者論のこれまでの流れ、そして社会学は今この状況下で何ができるのか? 自戒を込めて考えます。


荻上 今回お招きしたのは、07年に『ひきこもりの社会学』(世界思想社)を上梓された社会学者の井出草平さんです。90年代末から00年代頭にかけて、「(社会的)ひきこもり」や「ニート」という概念が浮上し、それまで想定されてこなかった社会問題が若年層を中心に広がっていることが「発見」されました。これらの概念は、基本的には「社会から逸脱してしまった彼らを、いかに包摂していくか」という目的のために唱えられたものですが、メディアで拡散されていく過程で、多くの論争を引き起こし、時には「甘えだ」「叩き直せ」といった若者叩きの文脈で、政策論議にとってはノイズとしか言いようのないバッシングにもさらされました。

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荻上チキの新世代リノベーション作戦会議 第5回

データと専門知を駆使してもっとマシな政治を始めよう!【後編】

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実効的な政治システムを作っていくために

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菅原琢氏の著書『世論の曲解』

荻上 分析のための言葉を再提案することで、政治観察過程におけるエラーを縮減したい、ということですね。しかし今の日本の政治制度では、しばらく「スローガン競争」は終わりそうにありません。

菅原 そもそも政治家というものが、とにかく選挙のために生きている点に大きな問題があるわけです。個々人の資質の話ではなくて、「〇時〇分の新幹線で地元に帰って盆踊りを踊って」みたいな生活を毎日続けていれば、誰だってまともな政治判断をするためのスキルや知識の獲得に時間がかかるし、結局政策がわからない「選挙の専門家」のまま政治家人生を終えてしまうかもしれません。

荻上 票取りの名人が民意の代弁の名人であるとは限らず、政治過程や政策提言のプロフェッショナルになる時間は限られてしまっていますね。菅原さんの本来のご専門である選挙制度論を踏まえると、現状をどのように「改革」すべきと思われますか。

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荻上チキの新世代リノベーション作戦会議 第5回

データと専門知を駆使してもっとマシな政治を始めよう!【前編】

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■今回の提言
「評論家の思いつき言説を中和し、政局談義を政策論争へ置き換えよ」

ゲスト/菅原 琢[政治学者]

──社会の現状を打破すべく、若手論客たちが自身の専門領域から、日本を変える提言をぶっ放す! という本連載、今回は、政治報道が騒がしい今こそ気になる、政治とメディアと世論をめぐるお話です。

荻上 今回ご登場いただくのは、政治学者の菅原琢さんです。菅原さんは、昨年末に上梓された『世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか』(光文社新書)にて、これまでメディアで語られてきた「世論の物語化」がいかに恣意的で実態と乖離してきたかを、実証的なデータの蓄積を元に明らかにされています。例えば2007年参院選での自民惨敗に対し、「小泉構造改革の行き過ぎに対する反動」というような解釈を行うのは誤りで、実態は「小泉構造改革への逆行への反発」という真逆の解釈が妥当である、という具合ですね。

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“超”現代哲学講座
哲学者・萱野稔人の
“超”現代哲学講座
『国家、権力、そして暴力とは何か?知的実践による解説。』

映画でわかるアメリカがわかる
町山智浩の
映画でわかるアメリカがわかる
『映画を通してズイズイっと見えてくる、超大国の真の姿。』

おなじみのアフロ君がくさす、毎月の気になるニュース。
花くまゆうさくの
カストリ漫報
『おなじみのアフロ君がくさす、毎月の気になるニュース。』


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