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第1特集
各界の賢人が選定! 我が人生に影響を与えたこの1作!!

【本橋信宏】邦画史上最悪のラストシーンといわれる映画がトラウマ

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――たった1本の映画が人生に影響を与えた、あるいは人生を変えた、という人は少なからずいるだろう。では、各界で活躍するあの人物は、どのような作品から影響を受けたのだろうか? あらゆる業界の賢人に登場いただき、至極の1本を聞いた――。

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(写真/石川真魚)

著作家・評論家
本橋信宏

もとはし・のぶひろ 1956年4月4日生まれ。政治思想からサブカルチャーまで幅広い分野で執筆活動を行う。2023年、『僕とジャニーズ』(イースト・プレス)で話題沸騰中。


人生観を変えた作品といえば、一択、『マタンゴ』(本多猪四郎監督・円谷英二特技監督。1963年公開・東宝)しかない。

私が小学1年生の夏休みに観た映画、いまだにトラウマだ。ヨットのブルジョア男女7人が嵐に遭い南海の孤島に漂着した。難破船に残された「キノコを食べるな」という日誌を発見する。だが食糧が尽きて、1人、2人……自生しているキノコを食べてしまう。すると、マタンゴというキノコ人間になってしまうのだ。クラブ女性歌手役の水野久美がヴァンプ的色気を放ち、目を惹く。ついには水野久美までキノコを食べてしまい、森の中で「オホホホホ」と大学助教授の久保明を妖しく誘うのだ。ネタバレとなるので結末は伏せるが、ラストシーンは邦画史上最悪と評されている。

マタンゴ上映の前年1962年夏。東宝が放った怪獣映画『キングコング対ゴジラ』が大ヒットし、私は父に連れられて銀座で観た。大満足した私に、父は今夏は怪獣映画だ、と『マタンゴ』を観せてくれたのだが、最後にクルッと振り向く久保のビジュアルが忘れられない。

1963年の夏、東宝は明らかにおかしかった。スカッとさわやかな怪獣映画ではなく、子どもたち相手の夏休みにもっとも似合わない映画を上映してしまったのだ。映画館の入口で、マタンゴぬり絵をもらったが、そんなもの、家でぬりつぶしても、トラウマを再発動するのがオチだった。本映画が私の人生にいかに影響を及ぼしたのか、自分自身でもよくわからない(キノコはキライじゃない)。

通奏低音として、人生には予測のつかない暗澹たる闇があることを知ったおぼえがあるのだ。

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