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第1特集
クリエイティブ ツールを牛耳るAdobeの歴史

売り上げは2兆円超え! 教育現場も掌握するAdobe“帝国”研究

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――出版・印刷業界からデジタルアートの分野まで、広く愛されるツールを世に送り出してきた企業Adobe。クリエイターにとってなくてはならない存在となっている同社について、その歴史と共に分析していく。

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(絵/ぱいせん)

Adobe Inc. 概要

1982年にアメリカ合衆国カリフォルニア州で設立されたIT企業。イラスト制作用の「Illustrator」、画像編集・加工用の「Photoshop」、動画編集用の「Premiere」ほか、クリエイティブ関係のデジタルツールを数多く開発・販売し、90年代におけるDTPの普及や2000年代のウェブ・動画技術の躍進を牽引した。国際標準化機構が国際規格として承認した電子文書フォーマットPDF(Portable Document Format)も同社が開発したもの。2010年代以降はデジタルマーケティング方面や、AI開発にも積極的に乗り出し、株価がおよそ10倍に上昇するなど著しい成長を遂げている。

設立年:1982年/従業員数:約2万6000人/会長兼CEO:シャンタヌ・ナラヤン

PhotoshopやIllustratorを筆頭に、今やデジタルアートにおいて欠かせないツールを開発・提供しているのがAdobe Inc.(以下、アドビ)だ。

アドビは、1982年にアメリカ合衆国カリフォルニア州にて、印刷機器を手がけていたゼロックスが創設したパロアルト研究所に共に勤めていたジョン・ワーノック氏とチャールズ・ゲシキ氏によって設立された。84年にプログラム言語「PostScript」を発表。これは、民生のプリンタでも商業印刷並みに美しい出力を可能にする画期的な製品だった。続けて、87年にはグラフィックツールIllustrator、90年の画像加工ツールPhotoshopを発売すると、それまで職人的技術を必要としたグラフィックデザインやエディトリアル、高価で大規模な装置が必要だった画像補正をPC単体で可能にし、結果としてグラフィックアートや写真業界に新規の人材を次々と参入させることとなった(初期のIllustratorのパッケージには、ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』が採用されており、これは過去のアートと現代のテクノロジーの共鳴をイメージしているという)。

アドビはその後、DTP(卓上出版)において強大な存在感を発揮するようになる。同社の歴史をまとめた書籍『The Adobe Story 出版革命をデザインした男たち』(著:パメラ・フィフナ― 訳:新丈径/ASCII/2003年)によれば、DTPという言葉自体が、Appleの「Macintosh」、アドビが開発した「PostScript」、そして後にアドビに買収されるAldusのレイアウトツール「PageMaker」の3つで印刷物をつくる行為として、85年に命名されたものである。99年にはレイアウトツールInDesignを発表し、IllustratorとPhotoshopとの連携を強化したことで、商業印刷におけるクリエイティブツールの市場を席巻したのだった。

1990年代は同時に、パソコンでビデオ映像を編集するDTV(DeskTop Video)時代の幕開けでもあった。IllustratorとPhotoshopの成功により、グラフィックデザインと静止画像の加工に関するノウハウを蓄積したアドビは、91年には映像編集ツールPremiereをリリース。当初こそ同業他社製品の後塵を拝していたが、94年には“映像版Photoshop”ともいえる映像加工ツールAfter Effectsを世に送り出すと、映像作品制作の現場で広く使用されるようになり、アドビは印刷・出版、映像を含むデジタルアートの分野を牽引するソフトウェア会社の地位を確立する。

2003年に、これら数々のクリエイティブツールの連携を強化・統合したツールCreative Suiteを発表。13年には同ツールの機能を月額課金制のサービスCreative Cloudへと完全移行させた。

設立当初の従業員数は創設者2人だけだったアドビは、01年には従業員数3043人、通年収益は約12億ドル(日本円で約1600億円)にまで成長し、20年後の21年時点で従業員数約2万6000人、通年収益は過去最高となる157億9000万ドル(日本円で約2兆円)を記録した。18年のNetflixの通年収益が157億ドルだったと言えば、その勢いを想像できるだろう(日本円換算はいずれも22年8月時点のもの)。

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