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第1特集
サノスはSDGsを“強行”した

『エターナルズ』真の評価は10年後? MCUが推し進める新しいヒーロー

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――マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)ではこれまで、現代アメリカの社会問題をサブテクストに置き、評価を高めてきた。そして最新作『エターナルズ』でも、SDGsのムーブメントとシンクロする形で、多様なヒーロー像を描いている。映画プロデューサー、産業医、映画系編集者が集まり、それぞれ評価した。

――10人のヒーローに黒人、アジア人といった多人種をキャスティングしたり、同性愛者や聴覚障害者などのマイノリティなヒーローも描くマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)26作目『エターナルズ』【1】。ストーリーのテーマも含めて話題のSDGsに配慮するなどこれまでのMCU作品とは異色を放った内容で、賛否を巻き起こしていますが、今回は産業医、映画業界出身の編集者、映画プロデューサーといったみなさんにお集まりいただき、いろいろ伺っていきたいと思います。まず、みなさんがご覧になった感想はいかがでしたか?

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【1】『エターナルズ』
21年11月5日公開。7000年も人類を守ってきたエターナルズによる新たなヒーロー映画。10人のヒーローはすべて初登場で、人種等、多様性あるキャスティングや設定が物議を醸した。シリーズ化されるかどうかは未定。(絵/河合 寛)

大室正志(サブカル好き産業医。担当企業は30社以上) 個人的にはおもしろかったですよ。

稲田豊史(映画業界出身の編集者。SDGs本のライティングを手掛けた経験も) 私も大絶賛。なんならMCU作品で上位のおもしろさだった。私が本来のMCU作品が苦手だから、異色の本作がハマっただけかもしれないですが。

伊丹丹(フリーの映像作品プロデューサー) 実は私は退屈で寝ちゃいました。作品に対する批評は賛否が分かれていますけど、強調したいのは明確に結果が出なかったこと。世界の興収的には約4億ドル(国内興収約11.8億円)で、伸び悩んだ前作の『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(同約4.3億ドル)を下回ってる。国内では371館もの劇場で公開されましたが、上映館数184館の『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』(国内興収約15億円)にもおよばない(苦笑)。製作費は2億ドルもかけたし、志や作り方、時代の要請として入れ込んだものも全部正しい。ただ、それをお金払って観たいかというと、世の中の人は意外と冷淡だったということなんでしょう。

大室 当初のMCU作品をはじめとするヒーロー映画って、例えるならファミレスのハンバーグみたいなものだったと思うんです。誰が見てもわかりやすい善悪二元論で派手なアクションで敵を倒す、欲望直結の味。だから、深く考えずにおいしく食べられた。でもそれが進化して、美食家もうならせる高級ハンバーグとして『ダークナイト』みたいな作品が生まれた。それらが一般にも受け入れられた状況を見て、こんなに高級な(=コンテクストが高い)ハンバーグを食べてくれるなら、SDGs的なテーマ、例えるなら食べにくいニンジンなんかも刻んで入れて“ニンジンハンバーグにしちゃおうぜ”みたいなことが、今回の『エターナルズ』だと思うんです。私はこのニンジンハンバーグがおいしく感じた。

稲田 私もこのニンジンハンバーグを食べてみて実際おいしかったし、おいしいという発見がうれしかった。つまらないと評価する人の中には「アクションの派手さに欠ける」「クライマックスで盛り上がらない」と指摘する人もいますが、それってニンジンがまずい、つまり「盛り込まれたSDGs性が余計だ」とは公に言いづらいから、そういう言い方でしか苦言を呈せないようにも感じますね。

大室 この『エターナルズ』という“ニンジンハンバーグ”に否定的な人は3つのタイプがいる。ひとつ目は「肉汁たっぷりの普通のハンバーグが食べたかった人」、2つ目は「ニンジンを摂らなきゃいけないことはわかるけど、ハンバーグとニンジンは別で食べたかった人」、もうひとつは「試みはわかるけど、このニンジンハンバーグがまずかった人」。

伊丹 私はそのニンジンハンバーグがうまく化学反応を起こしてないなと感じたな。SDGs全部のせの変な幕の内弁当のような。そう感じる人も少なからずいたから興収も稼げず、賞レースにも入らない中途半端な作品という扱いを受けたんじゃないかと思いますね。

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