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第1特集
エロい(?)「くノ一」像の創り方【1】

ミニスカで網タイツの女忍者はいなかったの!? 戦後になってから創られた史実にはいない「くノ一」

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――時代劇やアニメなどでは定番のキャラクターである、女の忍び「くノ一」。実はこのくノ一、後世の創作物において作り出された架空の存在であるというのは、あまり知られていない。それでは、歴史上いなかったとされるくノ一は、どのようにしてそのイメージが作られていったのだろうか?

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(絵/藤本康生)

東京五輪の開会式、日本の伝統文化的な演出として歌舞伎や木遣り唄が披露されたが、海外の人々の中には「忍者」の姿を見たかった人もいたかもしれない。

というのも、忍者観光を進める全国の自治体によって組織された「日本忍者協議会」が海外10カ国を対象に実施した世界規模の“忍者グローバル調査”では、海外での忍者の認知度は98.7%という数字もあり、驚くほど高い。統計はないが、おそらく『ドラゴンクエスト』や王貞治と長嶋茂雄、松井秀喜よりもはるかに高い数字だろう。

そんな世界的に高い認知度を誇る忍者だが、実際に黒い忍び装束を着て、手裏剣を使っていたという根拠は乏しく、世間が抱くそのイメージと史実とでは大きく異なる点も多い。

さらに、「くノ一」の名称で知られる女性の忍者も歴史上、実は存在が認められておらず、学術的には完全に空想の産物とされている。

それでは、マンガやアニメ、時代劇でおなじみのくノ一は一体どのようにして生まれ、世間に広まったのか? 本稿では、網タイツとミニスカ風の装束に身を包む妙にエロいくノ一の誕生と変遷の歴史を大真面目に追った。

女性を意味する隠語 史料の中のくノ一とは?

「海外でも『NARUTO-ナルト-』や過去のハリウッド忍者映画が好きな人の中では、くノ一の知名度はかなり高いと思います」

そう語るのは、元国際忍者研究センター研究員のクバーソフ・フョードル氏。欧米のドラマや映画に忍者が登場するものは少なくないが、くノ一も例に漏れず、海外での人気も高いようだ。ただ、そのイメージは日本におけるものとは異なる。

「80年代以降の作品には、欧米独自のくノ一像とも呼べるものが現れます。冷酷な戦士としての面が非常に強いことが海外のくノ一の特徴で、例えばアメリカの『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』には、敵対する忍者組織の幹部に『カライ』という女性の忍者キャラクターが出てきますね」(同)

そんな海外でも高く認知されているくノ一が、まさか本家である日本の史実においては存在しないとは……。ショックを受ける海外のマニアも多そうだ。

「私も三重大学大学院の忍者・忍術学コースで、最初にくノ一の存在がフィクションだと聞いたときはショックでした。やっぱり実在してほしいですもんねぇ」と心を痛めるのは、滋賀県甲賀市の地域おこし協力隊で、日本忍者協議会職員の福島嵩仁氏。同氏は続ける。

「忍者はいうなれば下級武士みたいなもので、女性の武士がいなかったのと同様、女忍者も存在しないという考えが歴史学では主流です。実際、女忍者の存在や女忍者を指す言葉として『くノ一』が出てくる史料はありません。まあ、史料がないから本当に女忍者はいなかったともいえない部分はあるので、そこは歴史のロマンということですかね(笑)」(同)

江戸時代前期の忍術伝書である『万川集海』には、「くノ一の術」という章が存在し、「隠れ蓑の術」という章の中にも「くノ一」の単語が出てくるそうだが……。

「『万川集海』に出てくる『くノ一』とは女性を意味する隠語で、女忍者の意味はありません。『くノ一の術』とは単に女性を使った術のことで、忍者として教育された女性がいたわけではないんですね。例えば台所など男性の忍者が潜入しにくいところに、自分の息のかかった女性を使って忍び込ませ、その女性から情報を聞き出すというのが『くノ一の術』の中身です」(同)

情報を聞き出すといっても、諜報活動をするわけではなく、あくまでも、なじみの女性に手伝ってもらう程度だったという。しかし、くノ一の存在を否定されてしまった今では、実際にこうした忍術が使われていたのかどうかも含めて、「忍術書の内容にどこまで信ぴょう性があるのか?」 といった疑問も湧いてしまう。

「確かに、具体的な隠密の仕事を記録に残すとは考えづらく、実際にいつどこで使われたといった記録などは残っていません。ただ、代々伝えられてきた術を後世にまとめるという『万川集海』の執筆の経緯、目的や意味を踏まえると、全部が全部、虚構というわけではないと考えられます。

また、歴史的な史料としても認められているものに、藩から伊賀の忍者たちへ通達された文書の中で、忍者とその眷族(妻や子ども、親類)も一緒に偵察を行ったことが読み取れる記述がありますので、もしかしたら女性の忍者もいたのかもしれません」(同)

一方で最近は「Fate/Grand Order」や「パズドラ」などのソーシャルゲームで、実在する歴史上の人物として「望月千代女」がくノ一のキャラクターとして登場している。しかし、望月千代女が忍者だったという説も、日本近世文学の吉丸雄哉氏の研究で、すでに非の打ちどころのない形で否定されているそうだ。

「ネット上では『歩き巫女の頭領』と望月千代女を紹介するブログ記事なども目立ちますが、歩き巫女は諸国を行脚してお祈りやイタコといった呪術をなりわいにする人で、忍者とは別の存在です。武田信玄の部下である望月盛時の妻だった千代女は、盛時の死後、信玄から歩き巫女たちを預けられ、甲斐・信濃の巫女頭領として諸国の偵察をしていたといわれますが、史実とは異なります。吉丸先生の研究によれば、歴史考証家の稲垣史生氏と忍者研究家の名和弓雄氏が望月千代女のくノ一説を取り上げ、昭和の後半に忍者や忍具について解説する忍者本などで脚色されるようになり、尾ひれがついていったようです」(同)

やはり、くノ一は存在しなかったようだが、他方でこの稲垣氏と名和氏の「望月千代女のくノ一説」は海を越えて史実とされつつある。

「海外ではマーシャルアーツとしての忍術を教えている団体が、名和先生と稲垣氏の『望月千代女=くノ一実在説』を広めたのではないかと思います。例えば80年代、世界各地に道場を開いていた武神館という団体で、忍術を学んだステファン・K・ヘイズは、『Ninja』という4作からなる本の中で、くノ一や望月千代女、あるいは実践的なくノ一の戦い方に関する記述を残しています。まあ、道場としては女子生徒も歓迎したいので、くノ一のイメージはありがたかったのでしょう」(クバーソフ氏)

『水戸黄門』の由美かおるでくノ一=ミニスカが定着!?

それでは、完全にフィクションの存在であるくノ一のイメージはどのように世間に定着し、形づくられていったのか? 『忍者の誕生』(勉誠出版)で前出の吉丸氏は、曲亭馬琴『開巻驚奇侠客伝』など、江戸時代の文芸・演劇作品に妖術使いの下位分類として忍術使いが登場するものの、たいていは「姫」である女性の妖術使いで、外見にも「忍び」らしさは感じられないと紹介している。

明確に物語の本文の中で「女忍者」と記され、忍者装束に身を包み忍術を使うキャラクターが登場するのは戦後、49年に富田常雄が執筆した『猿飛佐助』(太虚堂書房)まで時代が下るようだ。

「現代の忍者小説らしい要素が備わった同作で、甲賀流の佐助と戦ううちに、やがて恋心を寄せる伊賀流の女忍者が初めて登場します。佐助はこの作品で大変なモテ男で、50年代の忍者ブームでは小説などで女忍者が続出するようになりました。女忍者の呼称にくノ一を定着させた作品として、特に重要な作品が山田風太郎の『忍法帖』シリーズです」(福島氏)

59年の『甲賀忍法帖』(光文社)は異能バトルマンガの祖ともいわれ、2000年代に『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』(講談社)としてリバイバルされるなど、今なお高い人気を誇る。

山田は60年『くノ一忍法帖』(講談社)の作中でも、女忍者を指してくノ一とは表記しておらず、あくまで女性の隠語としてくノ一を用いたが、同作が映画化されるほどの人気作品となったことで、くノ一は女忍者を指す単語として普通名詞化する。

これらの作品に登場する女忍者は男性主人公に対するサブヒロインとして位置付けられることが多く、もちろん程度の差はあるが、必然的にくノ一はお色気要員としての性質が強化されていった。

ざっくり言うと、ミニスカ風の忍び装束や、敵に捕まりやすいドジっ子といった属性を備えたくノ一像だ。これを決定づけたのが、ドラマ『水戸黄門』(TBS系)で「かげろうお銀」を演じた由美かおるだ。

「ミニスカ姿のくノ一が初めて登場したとされているのは63年の映画『真田風雲録』ですが、64年の『くノ一忍法帖』の映像化作品では、女忍者は普通の女性用着物を着用していました。同年代のほかの映像作品で描かれる女忍者は男性と同じ忍者装束であり、60年代はミニスカ派閥と男忍者と同じ忍び装束派閥が並立していた時代であるといえそうです。しかし、80年代になると、『水戸黄門』で隠密として描かれたかげろうお銀が、入浴シーンに象徴されるセクシーなくノ一像を一気に定着させていきます。かげろうお銀のビジュアルには特撮ものなども影響を与えたとされており、72年の特撮作品『快傑ライオン丸』(フジテレビ)のヒロイン、沙織の存在も大きいと考えています」(同)

このような80年代の映像作品で確立されたくノ一のイメージは、今も広く共有されている。

「男性と同じような忍者装束を身に着けたくノ一も完全に消えたわけではなく、80年に放送された司馬遼太郎原作の『風神の門』(NHK)や、82年の『おんな霧隠才蔵 戦国忍者風雲録』(フジテレビ)といったドラマに登場するくノ一は、男性と同じ忍び装束です。今も『忍たま乱太郎』(NHK)では露出度が高くないピンクの色違い装束ですね。ただ、少年マンガなどでのくノ一は、ゲームが原作の『がんばれゴエモン』(講談社)のヤエちゃんのように、完全なお色気担当を課せられることが多いです」(同)

お色気担当から脱却? くノ一像の変わり方

いろいろな派生形はあるにせよ、“くノ一”の人気の背景には、男性のスケベ心があり、くノ一は日本人男性の性的な願望を反映させる形で、たびたびフィクション作品に登場してきたといえよう。

ちなみに、先述した富田常雄の『猿飛佐助』では、「煮るも焼くも妾のみはお任せすべき運命」という、女忍者のセリフもあるらしい……。

ということは、70年近く前から、くノ一像のベースにあるのは、窮地に陥った女性の姿が見たいという男心であり、くノ一の魅力の本質、核の部分は戦後間もない頃からあまりアップデートされていないといえよう。

ちなみに、海外では忍術自体にマーシャルアーツや武道の一種というイメージが強いため、日本人がイメージするようなミニスカをはいたくノ一像は特に欧米ではなかなか見られず、映画などでも主流ではないという。

「忍術道場に入会すると道着として忍び装束を着ますが、男女で違いはありません。生徒を集める道場側としても、女忍者にあまりエロいイメージを持たれたくないですよね(笑)。また、80年代のアメリカ映画『Ninja III: the Domination』には、くノ一らしき女忍者が登場しますが、私が見た限り、海外の映画では男性の忍者も女性の忍者も同じ忍び装束であることが多いです」(前出・クバーソフ氏)

相対的に日本人のゆがんだ性的な願望が、如実に表れてしまっているようにも思える……。こうした状況を弁明するわけではないが、前出の福島氏は平成以降のくノ一が登場するフィクション作品の傾向について、エロだけが重視されているわけではないと、次のようにも語る。

「くノ一像には男性と対等に活躍する女性としての魅力も当然あって、近年は女忍者が主人公の作品も着実に増えています。くノ一が主人公になってヒットした作品として『あずみ』(小学館)はひとつの転換点で、かっこいい『くノ一』像は、若い女性読者からも支持されていくようになりました」

確かに、純粋な腕力勝負に主眼を置くフィクション作品では、いまだに男女別の対戦カードが組まれる作品も多い。それに比べると、異能バトルにカテゴライズされる『バジリスク』や『NARUTO』など、忍者同士の忍術バトルは男女関係ない戦いを作中で繰り広げやすい印象もある。

この先のくノ一像というのは、さらに強い女性へと変化していくのだろう。

(文/伊藤綾)

まだ60年しか経っていない「くノ一」像を形成する作品群

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1961年……『くノ一忍法帖』
山田風太郎の時代小説。5人の女忍者が信濃忍法を駆使して、豊臣秀頼の子種をもらい受けようとする。

1963年……『真田風雲録』
東映の映画。本作に登場する渡辺美佐子演じる真田十勇士のひとり「むささびのお霧」は、「元祖ミニスカくノ一」と言われている。

1964年……『くノ一忍法帖』
山田風太郎の同名小説を東映が成人映画化。女忍者を主人公にした映画やオリジナルビデオ(OV)の元祖とされている。

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1972年……『快傑ライオン丸』
フジテレビ系で放送されていた子ども向けの特撮番組。女忍者の沙織の衣装はパンチラを狙って、あえてミニスカにしたという。

1986年……『水戸黄門』
ドラマ自体はTBSで69年から続いていたが、86年の第16部より、由美かおるが演じる「かげろうお銀」が登場。

1991年……『くノ一忍法帖』
64年と同じく原作は山田風太郎の同名小説。OVだが一応劇場公開もされシリーズ化。

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1992年……『餓狼伝説2』
SNKの対戦型格闘ゲームには、不知火舞という肌の露出の激しい、全然忍んでいないくノ一が登場する。

1994年……『あずみ』
小山ゆうのマンガ。厳密には忍者ではなく刺客だが、腕と脚が丸出しの、ノースリーブの着物を着ている。

1995年……『水戸黄門外伝 かげろう忍法帖』
入浴シーン含め、かげろうお銀があまりにも人気になりすぎてついにスピンオフのドラマが作られた。

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1996年……『デッド オア アライブ』
コーエーテクモゲームスの対戦型ゲーム。主人公格のキャラクターが、くノ一の「かすみ」。最近は、バカンスのビーチでずっと水着である。

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