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第1特集
米国ラッパー“一発屋”量産の構造【1】

消費サイクル加速の原因とは?米国ラッパー“一発屋”量産の構造

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――この10年のアメリカの音楽産業を振り返ると、次から次へと若いラッパーが大スターとなった。しかし、1曲のメガヒットで時代の寵児となったものの、その後は鳴かず飛ばずの“一発屋”も多く、しかもラップ・ミュージックの“消費サイクル”はどんどんと加速していったようにさえ見える。なぜ、こんな状況になったのか――。

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リル・ナズ・X「MONTERO(Call Me By Your Name)」のMV。悪趣味だと批判もされたが、同曲は全米1位を獲得し、一発屋の汚名を返上した。

2019年、リル・ナズ・X(コラム記事内【1】)の「Old Town Road」(発表は18年)が米ビルボードのシングルチャート1位を19週連続で保持するという記録を打ち立てた。同曲はラップとカントリーをミックスしたネタ色の強い曲であり、またリル・ナズ・Xは当時19歳の新人だったこともあり、誰もが一発屋で終わると考えていた。しかし彼は、自身が同性愛者であることを告白し、21年3月にホモフォビア(同性愛嫌悪)を逆手に取った楽曲「MONTERO(Call Me By Your Name)」で再び1位を獲得すると共に、センセーショナルなミュージックビデオ(以下、MV)も話題を呼んだ。

もっとも、これは稀有な例であり、特に10年代からアメリカのヒップホップ界はラッパーの消費サイクルが加速し、一発屋が量産されているように見える。例えば、15年に「Panda」をメガヒットさせたデザイナー(コラム記事内【2】)はもはや過去の人であり、17年に17歳で発表した「Gucci Gang」がバズりにバズったリル・パンプ(コラム記事内【3】)もすっかり影が薄くなった。ここでは、そんなシーンの構造を分析したい。

まず、ヒップホップを中心とする音楽・カルチャー系ニュースサイト「FNMNL」を運営する和田哲郎氏は、消費サイクルが加速した背景をこう語る。

「ひとつは、音楽の聴き方としてSpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービスがメインになっていることが挙げられます。Spotifyの会長は『アーティストは3~4年に1枚作品を出しているようじゃ、これから先は食っていけない』といった発言をしているんです。要は、アルバムじゃなくてもいいから、どんどんシングルを切ってプレイリストに食い込んでいくのが、アーティストの生きる道だと。また、ヒップホップジャーナリストのNozがツイッターで『今のアーティストがやっていることは自分のPRじゃなくて、SpotifyやApple MusicのPRだ』と発言していて、これも今のシーンを象徴していると思いました」

この状況は全音楽ジャンルに当てはまるが、アメリカのメインストリームの音楽はヒップホップであり、ゆえにプレイリストを重視する傾向が目立つのだ。

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ヤング・サグが率いる〈YSL Records〉のコンピレーション『Slime Language 2』

「ヤング・サグが今年4月に、自身のレーベル〈YSL Records〉から『Slime Language 2』という23曲入りのコンピレーションアルバムを出しましたが、その1週間後に8曲追加した31曲入りのデラックス版を出したんです。これもストリーミング対策で、要は2週連続でプレイリストに曲を入れることで再生数を稼ごうというわけです。でも、これが映画だったら、本編が公開された翌週にディレクターズカット版が公開されるようなもの。そういうおかしなことが音楽業界ではむしろビジネスの常道のようになっている。ひとりのアーティストの作品としてのアルバムという考え方が希薄になっているのを感じます」(和田氏)

ケンドリック・ラマーやタイラー・ザ・クリエイター、フランク・オーシャンなどアルバムの美学にこだわり続けるラッパーもいる。だが、大多数のリスナーがストリーミングを利用する以上、アルバムの存在感が薄れるのも仕方がない。

また、ラッパーたちは注目を集めるためにSNSを常に更新し、露出を絶やさずにいるが、それも消費サイクルを加速させる一因になっている。

「特にラッパーは、音楽だけでなく自身のキャラクター性をアピールする必要があるし、それとSNSは非常に相性がいい。みんながこぞってインスタグラムやTikTokを更新する中、ラップのフレーズなりダンスなりがミーム化するわけですが、その消費期限がどんどん短くなっている。例えば、ドレイクの『Hotline Bling』(15年)のダンスは長い間ネタにされ続けていましたが、今は個々のミームが『これ、本当に流行ってる?』という感じで現れては消える状況です」(同)

さらに、17~18年頃はリル・ヨッティやリル・パンプ、XXXテンタシオン、6ix9ineといった炎上マーケティング的に注目を浴びるラッパーも多かったが、今はその手法も陳腐になっている。

「いくらバカなことをやっても同じことをしていては飽きられるというのは、リル・パンプなどを見ていると感じます。他方で、当初は一発屋だと思われていたのに、実は成功しているラッパーがリル・ナズ・X。彼はゲイであることをカミングアウトするなどソーシャルイシューに対して自分なりのメッセージを持ち、それを踏まえて楽曲やMVを制作している。『MONTERO』のMVは悪趣味だともいわれていますが、SNSでの露出も含めて緻密にセルフプロデュースしている印象があり、それが彼を一発屋で終わらせなかった要因ではないでしょうか」(同)

そもそも米ヒップホップ界で一発当てること自体、奇跡に近い。そして、1回でも当たればミリオネアやビリオネアに。例えば、14年に出したデビュー・シングル「Trap Queen」と、翌年発表した2曲のシングル、1stアルバムが立て続けに大ヒットしたフェティ・ワップ(コラム記事内【4】)はその後めっきり見なくなり、気がつけばセレブが爆買いするNetflixの番組「ゴージャス・ショッピング:ロサンゼルス」(18年)に出演。あるいは、「Mo Bamba」(17年)で知られるシェック・ウェス(コラム記事内【5】)は、今年3月にフランスのプロバスケットボールチーム(2部)に入団している。

「ビルボードで1位を獲れば、浪費しない限り一生食べていけるくらいの大金が手に入りますからね。ラップには金稼ぎの手段という面もありますし、それが叶ったことで満足し、過酷なゲームを降りて資産運用に回したり、自分の本来やりたかったことをやる人も出てくるでしょう。ただ、ラッパーは金遣いが荒い人も多いので、少し心配でもありますが」(同)

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