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「マル激 TALK ON DEMAND」【165】

【神保哲生×宮台真司×米村滋人】法律と医療制度で見るコロナ対策論議の根本的欠如

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[今月のゲスト]
米村滋人
[東京大学大学院法学政治学研究科教授・内科医]

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『医事法講義』(日本評論社)

――欧米諸国の100分の1程度の感染者数にもかかわらず、早くも医療逼迫や医療崩壊が騒がれている日本の新型コロナ対策。世界屈指の病床数を誇っているものの、なぜこのような事態に陥っているのだろうか。その背景には日本の医療体制と、それをめぐる法制度に問題があると現役の医師でもあり、法学者でもある米村滋人氏は看破する――。

神保 日本でも新型コロナウイルスの感染者数急増が連日報じられています。それはそれで大きな問題なのですが、もしかすると感染者数の増減よりももっと重要なことなのに、どういうわけか日本ではほとんど論じられていない問題があると思います。今日はその問題を真正面から見ていきたいと思います。ゲストは内科医で法学者でもある米村滋人さんです。米村さんは東大の医学部在学中に司法試験に一発合格した方で、それ以来、法学者と医師の二足のわらじを履き続けられています。今も東京大学大学院法学政治学研究科の教授を務めながら、週に一度、東京都の健康長寿医療センターで勤務医をやられている方です。

宮台 面白いですね。個人的にうかがいたいことがたくさんあります。

神保 医療に詳しい法律家であり、法律に詳しいお医者さんでもあるんですね。東大法学部の教授でありながら、今もお医者さんを続けているのは、何か理由があるのでしょうか?

米村 両方のことをきちんとやっていないと、わからないことがたくさんあるからです。今回のテーマとも関係しますが、医療現場の中の情報は、実はほとんど外に出てこない。一般の方が報道を通じて見聞きする医療関係の情報は非常に断片的で、やはり法律の研究をしたり、教育したりする上でも、医療現場にいることは重要だと思います。週一度であってもやらないよりはよほどいい、ということで続けています。

神保 まず素朴な疑問から入らせていただきたいのですが、日本のコロナの感染者数は確かにここに来て増えています。しかし、増えているといっても欧米と比べると、アメリカの100分の1、フランスやイギリスの数10分の1程度です。人口あたりの感染者数を国別のグラフで比較すると、欧米の感染者が急増しているのに対し、日本の感染者数は地を這うほど少ない水準にあることがわかります。ところがその日本で、すでに「医療が逼迫している」という話を毎日のように聞きます。それでは、日本の医療インフラも欧米の100分の1程度しかないのかといえば、人口あたりの病床数は日本が世界一だそうです。世界一多くの病床を持つ日本が、この程度の感染者数で医療が逼迫するというのは、どういうことなのでしょうか?

米村 一言でいえば、日本の医療体制の組み方が悪い。確かに病床数は世界一ですが、実はICUの病床数は非常に少ない。言ってしまえば、それほど重症ではない患者さんを受け入れる病床が圧倒的に多く、本当に重症の人を受け入れる病床が少なくなっているんです。

 この状況がなぜ生まれたのかということも問題ですが、そういう環境でずっと医療をやってきた国でパンデミックの患者が大量に出てくると、やはり重症化した人を受け入れることが難しくなります。また、一つひとつの医療機関の規模が大きくないケースが多く、その中であっという間にキャパシティオーバーになってしまうというところがある。

神保 ということは、実際に逼迫はしているんですね。

米村 コロナ患者を受け入れている医療機関は逼迫しています。そして、それを助けてくれる援軍に当たるような人がまったくいない。日本の医療機関はいわば中小零細企業が乱立している状態で、その中で受け入れている医療機関は孤軍奮闘しているわけですが、全体で見てみるとまったく逼迫していないところもたくさんある。そこからヘルプが出ない構造になっているんです。

神保 一部の医療現場が崩壊の淵にあるような状況なのに、それ以外の、大半の医療機関ではベッドが余っていると。なぜそれをある程度、均等化できないのでしょうか。特に、今回のような緊急事態が起きた時に、なぜ空いているベッドを重症者向けの病床に転換できないのでしょうか。2~3月の段階ならいざ知らず、もう12月ですから、さすがに「転換する時間がなかった」という説明は受け入れ難いと思うのですが。

米村 根本的な問題として、感染者を受け入れるかどうかを誰が決めているかというと、基本的にそれぞれの病院が独自に決めています。具体的には、各病院の院長レベルの人たちなんです。行政は要請はするが、強制はできません。例えば高齢者をたくさん抱えていて、感染が広がったら危ないから受け入れられない、という病院も当然ありますし、あるいは感染症や呼吸器の専門家がいないから対応できない、というところもあるでしょう。いくら時間がたっても、スタッフが増えるわけでもなければ専門家が来るわけでもなく、状況が変わらなければその判断は変わりません。そうして、全体のごく一部の医療機関だけでコロナ患者を受け入れるという状況が続いてしまっています。

日本における公立病院の割合は2割……が意味するもの

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