サイゾーpremium  > 特集  > 政治・経済  > 【中学受験】と受験メディアの功罪

――中学受験をテーマにしたテレビドラマ『二月の勝者』(日本テレビ)が来年放送されるという。巷でもますます盛り上がる中学受験業界だが、これをあおってきたメディアには責任はないのだろうか? 専門家の意見から、その問題点、功罪を見ていきたい。

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『二月の勝者』(高瀬志帆/小学館)第2巻のワンシーン。

「中学受験は課金ゲームです」

 これは、「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載中のマンガ『二月の勝者』のコピーであり、セリフでもある。柳楽優弥主演でドラマ化され今年7月から放送される予定だったが、新型コロナの影響で放送は延期となっている。主要な舞台である中学受験塾の教室はまさに密な環境になってしまうため、撮影が困難になったのだろう。しかし来年には放送予定とのことで、単行本のセールスも盛り上がりを見せている。

 さて、冒頭に挙げた「課金ゲーム」というキーワードが登場するのは、単行本の第2巻、ある中学受験生の両親の会話においてのシーンだが、それに先立って主人公である新人女性講師の先輩が、中学受験塾の費用のシステムを説明する。いわく、小学6年生の場合「まず週3日1日4時間半の月謝が4万1000円。春期講習5万1000円。ゴールデンウィーク特訓5万3000円。前期日曜特訓6万円。夏期講習18万2000円。勉強合宿10万5000円。志望校別特訓10万8000円。弱点克服特訓9万6000円。冬期講習7万7000円。正月特訓4万5000円。すべて受けると、年間で126万9000円(模試代・テキスト代含まず)」。

 こうした進学塾にかかる費用について、ある生徒の家庭では受験に消極的な父親が、「それだけの金をかけて、落ちたら誰が責任取んの?」とスマホゲームに課金しながら難色を示す。そこに母親は「子どもに『課金』してクソ強いキャラに育てよーとして何が悪い。課金ゲー上等!」と言い放つのだ。

 現在、中学受験開始時期のスタンダードは、新4年生。つまり小3の2月である。始めるきっかけとして一番多いのは、新聞でも大々的に宣伝している無料の全国テストだ。ここで、小学校では成績上位のはずの子どもの偏差値が予想以上に低いことにショックを受け、このまま公立中学に行かせていいのか悩んだあげ句に、中学受験塾に通わせ始める……というのが一番多いパターンとされている。そして、小4小5小6と、学年が上がるごとに塾代も上がっていく。最初は無料で後からオプションで稼いでいくその集金スタイルは、確かにスマホゲームの課金システムとよく似ている。

 実際、中学受験というのは“お金”次第の課金ゲームなのだろうか?『偏差値30からの中学受験合格記』(学研)など、中学受験についての多数の著書がある、エッセイストで教育・子育てアドバイザーの鳥居りんこ氏は、こう話す。

「中学受験も、私立中学の学費もそうなんですが、巧妙だと思うのは、だいたい年間100万円ちょっと、主婦がパートで頑張って働けば稼げるくらいの金額になっていることですよね。この値段なら、『私がパートに出るから受験させたい』と母親が言えるという。本当にそれを狙っての価格設定なのかまでは、わかりませんけど」

 とはいえ、中学受験は金を出せば誰でも志望校に入れるほど簡単なものではない。実際、『二月の勝者』にも触れられているが、中学受験生の実に7割は、第一志望校に受からないのである。鳥居氏は中学受験に失敗したため、親が子どもの人格まで否定し、その人生まで台無しにしてしまった例を、たくさん見聞きしてきたという。

「受験した学校すべてが不合格になった場合だけでなく、第一志望に受からなかったケースでも、その結果を受け入れられず、子どもを叱責したり罵倒したりして、子どもの精神状態を悪化させてしまう親がかなりいるのです。それに対して、反抗して、親の言うことをはねのけられる子どもならまだよいですが、中学受験時代から親の言う通りに勉強してきた素直な子ほど、親に人格を否定されると自分は価値のない人間だと思ってしまう。第一志望でなかった中高一貫校に進んだものの、そうやって人間性を否定されて不登校になったりひきこもりになったりする中高生は、かなりの数にのぼります」

 実際に、高校中退者のためのフリースクールや通信制高校には、私立中高一貫校をやめた生徒が相当数在籍しているという話もある(前記事参照)。

 読売新聞オンラインの「中学受験サポート」などで学校取材記事を執筆するフリーライターの小山美香氏も、こう話す。

「中学受験のデメリットとして挙げられるのは、小学校時代にがむしゃらに受験勉強をした結果、せっかく私立中学に合格しても、そこで燃え尽き症候群のようになり、勉強しなくなるケースがよくあることですね。これは特に男子に多いです。さらにエスカレートすると、中高一貫校でも高校に上がれなくなったり、上がれても成績が足りず、留年するのが嫌で高校中退になってしまう。そこからひきこもりになるケースもよくあります。これは名門中学でも起こる事例です。中には19年6月に起きた元農林水産省事務次官の父親がひきこもりの息子を殺害したように、事件に発展することもあります。この元農水事務次官の息子も都内の名門私立中高一貫校で落ちこぼれてしまい、卒業後にひきこもりになってしまった経緯がありました。ここまで最悪のケースには至らなくても、中学受験に合格して勉強しないままでいると附属の高校に上がれず、別の高校を受験せざるを得なくなる。これはその生徒の人生に決していい影響を及ぼさないと言っていいでしょうね」

 合格したらそれでめでたし、とは必ずしも限らないのである。

ゆとり教育が加熱のきっかけに

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