サイゾーpremium  > ニュース  > カルチャー  > 【ヒプノシスマイク】をヒップホップ的に徹底分析!
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HUNGER(写真/cherry chill will)

 現在、巷を騒がす音楽原作“キャラクター・ラップ”プロジェクト「ヒプノシスマイク」。総勢18人による声優が、架空の世界を舞台に登場するキャラクターを演じ、ラップでバトル――。2次元コンテンツということもあって声優オタを中心に、腐女子もキャバ嬢も歓喜! という女子向けかと思いきや、実はじわりじわりとヒップホップ・カルチャーへも浸透してきている。その内情を覗いてみれば、「チェケラッチョ!」「ヨーヨーヨー!」といった、いわゆるステレオタイプのラップを披露するわけでなく、日本語ラップシーンを代表するアーティストが、声優陣へ楽曲を提供しているというのだから侮れない。

 本企画では、あまり語られていない「ヒップホップ・カルチャー的に斬るヒプノシスマイク」を検証。そのジャッジを下すラッパー代表として、レペゼン仙台のヒップホップ・グループ〈GAGLE〉より、生粋のリリシストであるHUNGERを招聘。そして彼がメガヒット・コンテンツに忖度せぬよう、合いの手で発言を促す役割として元音専誌出身の本誌編集部佐藤、そして司会を務めるヒプマイ関連取材経験者の筆者も加わる形の座談会形式でお届け。果たして、ヒプノシスマイクの音楽的精度は、いかに……!?
(文/高木“JET”晋一郎)

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MEMO「ヒプノシスマイク」とは?
キングレコードが仕掛ける男性声優18人によるラップバトル・プロジェクト。「武力抗争が根絶され、男性に変わって女性が覇権を握るようになったH歴」という架空の都市が舞台で、それでも絶えない武力抗争は「ヒプノシスマイク」を用い、ラップバトルで優劣を決めるという法案を制定。〈シブヤ・ディビジョン〉〈シンジュク・ディビジョン〉〈イケブクロ・ディビジョン〉〈ヨコハマ・ディビジョン〉など、各ディビジョン代表のMCグループがバトルをし、勝利した地区は決められた分の他の領土を獲得することができるという物語。ラップバトルで使用される楽曲は、Zeebraやラッパ我リヤなどのベテラン勢から、KEN THE 390、サイプレス上野、Creepy Nutsなどの次世代を担うアーティストが提供しており、その完成度の高さがヒップホップ・シーンでも徐々に話題に。7月からはアニメ化も決定している。

――今回の企画は、HUNGERくんに「ヒプノシスマイク」(以下、ヒプマイ)を音楽的見地から分析してもらおうと思うんですが、そもそもヒプマイはご存知でしたか?

HUNGER 日本語ラップを代表するラッパーの面々が多く参加していることもあって存在は知ってたんですけど、深く掘り下げたことはなかったので、今回サイゾーからの依頼でしっかり勉強してきました。

編集部佐藤 「さまざまな発見があった」とのことので、炎上させない程度にHUNGERの背中を押していきたいと思います。

――まず、率直に感じたことからお聞きします。

HUNGER 「キャラクターであるラッパーが自分でリリックを書いていない」という部分からですかね。

――ヒプマイは「キャラクター」を演じる「声優」が「ラップをする」という構造になっています。その意味でも、ラップする主体はキャラクターという「架空の存在」になる。ゆえに、一般的なラップのように「ラッパーが主体としてリリックを書き、ラップをする」というアプローチではありません。

HUNGER ラップが生まれたアメリカでも、ラッパー自らがリリックを書かずに、ほかのソングライターが書いている、ということもめずらしくないですからね。

――例えば、過去には「ドレイクはゴーストライターを雇ってるんじゃないか?」という疑惑が話題になりました。ゴーストまでいかなくても、映画脚本でいう“スクリプトドクター”のようにリリックの精度を上げ、整理する役割の人もいるようです。

HUNGER ラップは“リアルさ”や“本人性”という価値観が大事にされてきた背景があって、それは日本語ラップにおいても同様。また、それぞれのラッパーが持っている、オリジナルのフロウやスキルもある。なので僕の場合、「誰かにリリックを書いてもらい、それをラップする」という行為は想像ができない。でも、ヒプマイのようにリリックの提供を通し、未経験者にラップをさせたり、そのラッパーが持つスキルをあてがい、かつそれを後進に生かすという発想は面白いと感じました。

――持ち得るスキルを個人だけで抱えて絶やしてしまうのではなく、それを相伝していくというか。

HUNGER そういう部分を「ヒプマイ」が意外な角度から解放してきた、という考え方もできるなと。

――ヒプマイで歌詞を提供してるメンツの多くが現役のラッパーであり、仮歌もおそらくほとんど作詞したラッパー勢のものであることが、それぞれの作品から感じられますよね。

HUNGER そこで気づいたのが「ラッパーはプロデューサー的な側面を持ち合わせている」ということ。ラップは基本的に一人称で書くことが多いから、第三者へ曲を提供するとバランスは崩れるのかな? と思ったんですけど、まったくそんなことはなかったですね。

編集部佐藤 いわゆる「ボースティングする」部分も、そのキャラクターの職業やバックグラウンドを生かして書いている。

HUNGER それがいい形で表れていたのが、自分の曲で使うのはためらってしまうけど、キャラになりきって自分の特長をうまく落とし込んだ、ヨコハマ・ディビジョン:MAD TRIGGER CREWのメンバー碧棺左馬刻(CV:浅沼晋太郎)の「G anthem of Y-CITY」でした。

碧棺左馬刻(MAD TRIGGER CREW)/「G anthem of Y-CITY」(作詞:サイプレス上野/作曲:ALI-KICK)

――この曲はヨコハマ・ディビジョンの1st『BAYSIDE M.T.C』のオープニングを飾る曲です。

HUNGER 「G anthem of Y-CITY」はタイトルからもわかる通り、G・ファンクとギャングスタ・ラップをベースにしているんですけど、リリックを手がけた(サイプレス)上野くんの悪フザケじゃなくて“良フザケ”をしていますよね。横浜はG・ファンクはもちろん、ウエストコースト・ヒップホップの影響が強い地域だけど、上野くんはそれとは違うスタイルで活動をしているラッパー。だけど、そういったシーンに対する夢や憧れもあって、その音楽性や地域性も(トラックメイカーの)ALI-KICKのビートによってうまく落とし込んでいる。

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(写真/cherry chill will)

――サイプレス上野とロベルト吉野名義では、横浜のヒップホップの代表格であるOZROSAURUSを客演に迎えた「ヨコハマシカ」という楽曲もあります。

HUNGER そういった憧れのような感覚で見てきた先輩やシーンのスタイルを、ある意味でキャラクター化して楽曲に織り込んだのが「G anthem of Y-CITY」だと思うんです。つまり、ヒプマイの自分とはスタイルが違うキャラクターに横浜のシーンを投影し、キャラになりきった上で歌詞を書いている。そこから上野くんの横浜シーンへの偏愛を感じるんだけど、シーンの先輩への「ビックリスペクト!」のような媚びは感じないし、客観的な視点と冷静さもリリックに落とし込んでいますね。

編集部佐藤 ヒプマイの地域性というのは、現実の街と参加しているラッパーのレペゼン文化ともつながっているし、ヒップホップ文化における“フッド感”という概念も意識している。

――「ヨコハマ≒横浜」のように、カタカナにすることで架空の街(ディビジョン)と設定しつつ、現実の街ともニアリー・イコールでもある、という設定はされています。その上でヨコハマのサイプレス上野だったり、オオサカのCreepy NutsやHIDADDY(韻踏合組合)、ナゴヤのnobodyknows+など、実際の地元出身者や地域に根ざしたラッパーが制作に参画しています。

HUNGER その土地を書くときのさじ加減やディテール表現の巧みさは、「その土地を知ってるからこそ」書けますからね。まったく関わりのない作詞家がリリックを手がけたら、極端になってしまったり、脇が甘くなったりしてしまったかもしれないし。

どついたれ本舗/「あゝオオサカdreamin'night」(作詞・作曲/Creepy Nuts)
白膠木簓(どついたれ本舗)/「Tragic Transistor」(作詞:HIDADDY/作曲:ALI-KICK)

――オオサカには堺出身のR-指定を擁するCreepy Nutsと、大阪アメ村を代表する韻踏合組合よりHIDADDYが楽曲制作に参加しています。「あゝオオサカdreamin' night」では、オオサカ・ディビジョン:どついたれ本舗の3人がマイクを握っていて、中でも天谷奴零を演じるベテラン声優の黒田崇矢(54歳)さんのパートはスゴく興味深いんです。

HUNGER まるでポエトリー・リーディングのようなラップをするキャラクターの人ですね。

――黒田さんの低音で低温によるラップによって、そういった風に聴こえるんですけど、3連符のフロウや「間」のため方が、現行最先端のラップ・スタイルになっていて、とてもスキルフルな構成になっているんです。それをラップに落とし込んだ黒田さん、ひいては声優という職業のポテンシャルの高さにR-指定も驚いていました。

HUNGER 黒田さんの声質が最大限に映える構成、リズムパターンにしていますよね。彼だけでなく、ほかのキャラにも別のフロウとリズムを与えているし、ラップの醍醐味でもある掛け合い部分でも3人の役柄を生かしている。

編集部佐藤 そのことをCreepy Nutsが自分たちのラジオ番組『Creepy Nutsのオールナイトニッポン0』で話したことで、リスナーがヒプマイに興味を抱き、逆にヒプマイ好きがCreepy Nutsを聴き始めるきっかけにもなったという相乗効果も生まれたようで。

HUNGER DJ松永くんのビートも素晴らしい。和モノっぽくもスピード感のあるビートで、良い意味でスッと聴き流せるんだけど、ラップにもビートにもスキルがしっかり込められているから、「Creepyは脂が乗ってる」と否応なく思わされる。しかも大阪らしく漫才の感触もあって。

――白膠木簓(CV:岩崎諒太)が「お笑い芸人」という職業(設定)なので、そこは落語好きのR-指定も腕の見せどころだったんでしょう。

HUNGER さらにオオサカにはHIDADDYが手がけた「Tragic Transistor」があって、白膠木簓というキャラがラップしているのに、聴いているだけでHIDADDYの顔が浮かび上がってくる。アウトロも含め、完全に韻踏合組合らしさが出てますね。

――まさに地元に根差したフッド感の極みというか。

HUNGER ヒップホップは「その地域の中の自分」が大事。だからラップで自己を語りながら、同時に地域性があぶり出されていく要素もある。その意味で言うと、ヒプマイは「架空の街」という前提があるけど、その土地が持つ素晴らしさをラップに落とし込めている。

――確かにオオサカはそれが色濃く反映されていて、まるで「じゃらん」のように“大阪の見所”を客観的に、時には偏見込みでラップしてますからね。

HUNGER つまり、パンチが効いている個性の強い地方都市は、ヒプマイ作品で非常に表現しやすいメリットがありますよね。近い将来〈センダイ・ディビジョン〉を作る機会があったら、ぜひともよろしくお願いいたします。

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