プレイリスト啓蒙運動
日本の音楽業界が再び注目している「プレイリスト」。今や音楽を聴くスタイルは受動的であり、各サブスクのサービスもキュレーターを立てて独自のプレイリストを公開している。そこにアーティストの楽曲が加えられることによって、検索される手間が省かれ、幅広いリスナーに聴いてもらえる利点がある。
『billboardを呼んできたサラリーマン 電鉄会社の傭兵たちが作った夢の棲家』(ダイヤモンド社)
握手券やバージョン違いの限定盤などでファンに複数枚買わせる販売手法。このCDの売り上げ枚数をかさましする手法は、現在でも坂道グループやジャニーズなどのアイドルグループに脈々と引き継がれているわけだが、そこに密接に関係しているのがオリコンチャートである。1968年に正式にスタートしたオリコンチャートは、日本の音楽業界内における絶対的な指標として長らく機能していたが、現在、その信頼度は大きく揺らいでいる。
「今の時代、オリコンチャートを注視している音楽業界の人間は、ほぼいないんじゃないでしょうか。社内でも『オリコンはオワコン』と言われています」
こう語るのは、メジャーレーベルでディレクターを務めるA氏。さらに外資系CDショップに勤務するB氏が、小売店の立場から証言する。
「店舗で面出しするシングルやアルバムで、『オリコン○週連続1位!』などとポップに書くことは、この数年ほとんどない。あっても一部のアイドル系や声優関連の商品のみです。一昔前はレコード会社から送られてくる販促用の資料にも『オリコンチャート初登場1位』といった見出しが躍っていましたが、今はそうした売り文句はまったく見なくなりました。現在は『iTunesダウンロードチャート1位』や『YouTube再生回数1億回突破』など、すべてがネットと直結するものばかりです」
オリコンの信頼性が失速した直接的な理由は、そのチャートの集計方法にある。B氏の発言からも推測できるように、今の音楽流通の主流となりつつあるデジタルリリースやストリーミングなどを軽視し、いまだにCDの売り上げ枚数中心で集計を行っているからだ。
「米ビルボードのチャート【1】は約5年前から純粋な売り上げ枚数だけに頼らない集計方法へとシフトし、数カ月前や数年前、果てには数十年前の楽曲までもが登場するユニークなチャートになっています。最近ではマライア・キャリーの『恋人たちのクリスマス』が発売から25年目にしてトップに輝くというニュースが話題になりました。そうした集計方法を国内のビルボード・ジャパンも受け継いだことで、今もっとも参考になるチャートになりました。特にこの1~2年は音楽業界に限らず、テレビ局に勤める人も参考にしている。YouTubeやサブスクといったストリーミングサイトでの再生回数はもちろん、ラジオでのエアプレイ回数や(ツイッターでの)ツイート数、カラオケで歌われている曲なども含め、全方位型で独自のチャートになっていることも興味深い。オリコンもそうしたデータを集計した上でのランキングと謳ってはいますが、とても反映しているとは思えないような毎度おなじみのアーティストが並ぶチャートでしかありません」(前出・A氏)
『オリコン』
「オリコンランキング」などのヒットチャートをはじめ、芸能や音楽の最新情報を提供する老舗企業。昨今「オリコン初登場1位」という言葉の重要性は低下してきている。
直近のオリコンとビルボード・ジャパンの週間シングル・ランキングを比較した場合、実はアーティストのラインアップにほとんど差異はない。しかし19年の「年間ランキング」を見れば、その違いは歴然だ。オリコンでは上位10位を独占しているAKBや坂道グループ、ジャニーズなどのアイドル勢が、ビルボード・ジャパンには誰ひとりとして10位以内に入っていないのだ。A氏の発言にもあるように、実際オリコンチャートにもCDの売り上げ以外も反映されているわけだが、その集計比率が異なる。かといって一方的に批判を受けているオリコン側も、手をこまねいているだけではない。
「オリコンは社内で売り上げ枚数の調整を行っているんです。例えば、AKBのような特典ありきで、ひとりが数百枚、数千枚単位を購入した場合などは、すべてを売り上げ枚数としてカウントしないんです。そのため抜き打ちの調査員を販売の現場に派遣することもある。ただし、全国の販売現場に調査員が行けるわけもないので、集計できたデータを元に平均的な売り上げ枚数へと微調整しているようです」(前出・A氏)