――ヒップホップだけでなくパンクやメタルも流し、観客のモッシュを生み出す――。そんな従来のヒップホップDJ像を覆すプレイをしているのがFUJI TRILLだ。彼のルーツと野望とは?
(写真/橋本美花)
クラブでの光景を思い返してみる。「Now I'm in the limelight 'cause I rhyme tight」(The Notorious B.I.G.「Juicy」)。そこでは巧みなライムを吐き出すラッパーが脚光を浴びている。対してDJは、職人かたぎの“裏方”としてイメージされることが多い。「エサ箱漁る背中にブラックライト/Mac Book覗くフェイスにブルーライト」(RHYMESTER「Deejay Deejay」)。しかし、従来のヒップホップDJ像を打ち破るスターDJがいる。それがFUJI TRILLだ。
「DJでも表現は多様なほうがいいと思うんです。自己表現として作家性のあるプレイをしたい」
ラップ・ミュージックのみならずメタルやパンクをも織り交ぜたプレイで観客のモッシュを演出するスタイルは、ヒップホップDJの新たなあり方を体現している。
横須賀で育った彼の家庭環境は、ある種、特別なものだった。母親はデザイナーで、環境問題に取り組むことも。一方、父親は元チーマーで、並行してサイコビリーのバンドのボーカルを務め、一時期はタトゥーの彫り師もしていた。
「小さい頃から家にはタトゥーの入った大人たちが出入りしてて、よく遊んでもらいました。最初の音楽体験も、父親の影響で知ったセックス・ピストルズで、今でもDJでかけたりします」
FUJIの身体にも多様なタトゥーが見られるが、初めて入れた“TRILL”の文字も父親の手による。
「彫り師が未成年にタトゥーを入れるのは禁止されてるから、父親とは昔からハタチになったら入れてもらう約束をしていました。で、ハタチの誕生日に父親に頼んだら、緊張しちゃって……。最終的に途中で放り出して、『金やるからほかのとこに行け』と(笑)」
中学生の頃、エミネムやZeebraなどを介してヒップホップと出会った。そして、日本語ラップの祭典「BBOY PARK」で見たDJたちのプレイに刺激を受け、自らもDJになることを決心。2000年代に勃興したダーティ・サウスと呼ばれるアメリカ南部産ヒップホップを摂取し、Cherry Brown(現・Lil'Yukichi)やKNUXらとTRILL GRILLZというユニットも組んでいた。
「ずっとDJとして、十分生活できる活動はしていました。フロアの雰囲気を見ながら、USのヒット曲を混ぜて盛り上げる。もちろん、お世話になったDJの方もたくさんいますし、その時代があったから今の自分があります。でも、昔憧れたパンクやメタルやヒップホップのミュージシャンたちのように、アーティストとしてDJで表現したいと数年前に決意して、それが今のスタイルにつながる大きな転機になった。しかも、最近のヒップホップの主流はトラップというビートだけど、良い意味でヒップホップのさまざまなフォーマットが崩れて、自由で多様。自分の理想を実現できる時代が来たと感じています」
また彼は今、KNUXとのプロデュース・ユニット、OVER KILLとしても活動し、フレッシュなラッパーらと共同で楽曲やミュージック・ビデオを制作している。
「ダークでバイオレンスな音楽がテーマです。タイプ・ビートといわれるものみたいに、YouTubeとビート販売サイトを使ってトラックを売ることはせず、化学反応が起こせそうなラッパーに照準を合わせて曲を作り、コラボするという方針です」
では今後、何を目指しているのか――。
「来年のオリンピックで海外から人が大勢来て、日本のクラブ・シーンを独自で面白いものだとアピールするチャンスなので、その地盤を固めたいですね。海外のパーティに出ることもあるけど、平日からクラブでモッシュが起きるのは日本くらいじゃないかな」
もちろんそれは、FUJIのプレイがあってこそだ。彼がさらに盛り立てるだろう日本のヒップホップは、世界にどのように映るのだろうか。
(文/韻踏み夫)
(写真/橋本美花)
FUJI TRILL(ふうじ・とりる)
神奈川県横須賀市出身。2004年よりDJとして活動を開始し、地元の米軍を相手に研さんを積む。ヒップホップにとどまらない幅広い選曲やグルーヴ感がリスナー、DJ、イベンター、プロモーターから支持され、現在は年間250本以上のイベントに出演する。日本全国のみならず、韓国や台湾などアジア各地でもプレイし、過去にはヨーロッパ・ツアーも2度行った。また、KNUXとのプロデューサー・ユニット、OVER KILLとしても活動し、16年にはEXILE TRIBEの『HiGH&LOW ORIGINAL BEST ALBUM』に収録されたANARCHY、SWAY、CRAZYBOYがラップする楽曲「FUNK JUNGLE」をプロデュース。最新シングルは、Red Eyeとの「POCKET」(ジャケット写真)。