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町山智浩の「映画がわかるアメリカがわかる」第140回

『トム・オブ・フィンランド』ナチスに魅了されたゲイ・カルチャーの知られざる革命家

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『トム・オブ・フィンランド』

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第二次世界大戦下のフィンランドでは、旧ソ連から身を守るため、ドイツ軍が駐留することになった。軍に徴兵されたトウコ・ラークソネンには、ナチスは恐怖そのものだった。同性愛者を収容所に送り、処刑する、そう、トウコはゲイだったのだ……。監督:ドメ・カルコスキ、出演:ペッカ・ストラングほか。8月2日劇場公開予定。

 鋲を打った革ジャンと革の帽子のバイカー・ファッションは、1970年代後半の「ハード・ゲイ」のアイコンで、ヴィレッジ・ピープルやフレディ・マーキュリーでおなじみだが、革ジャン姿のバイカーを初めて扱った映画はマーロン・ブランドの『乱暴者』(53年)だ。もちろん暴走族の話で、ゲイとは無関係。その10年後、ケネス・アンガー監督の『スコピオ・ライジング』(63年)がゲイ的欲望の視線でバイカーを描いた。この2本の間にバイクとゲイを結びつけた者がいる。

 トム・オブ・フィンランドというイラストレーターの作品が、57年頃からアメリカで出版された。鉛筆で緻密に描かれた、全身筋肉の塊のようなバイカーたちが素肌に直接革ジャンを着て、にんまり微笑み、パツンパツンのパンツには巨大なペニスがくっきり浮かび上がっていた。このイラストが、「ハード・ゲイ」のイメージを作ったのだ。

 映画『トム・オブ・フィンランド』は、その描き手、トウコ・ラークソネンの生涯を描いている。

 トウコは1920年、フィンランドに生まれた。20歳の頃、隣国ソ連が攻め込み、 彼も軍に招集された。人口400万人の小国フィンランドは大国ソ連から身を守るため、ナチス・ドイツに頼るしかなかった。20万人以上のドイツ軍がフィンランドに駐留した。ナチスは同性愛者を収容所に送り、処刑していたから、ゲイであるトウコにとってナチスは恐怖と憎しみの対象だった。しかし、ナチスの軍服は、トウコを性的に魅了した。彼はナチスの兵士たちの同性愛行為を想像し、それを絵に描いた。ある日、トウコはソ連兵が落下傘で密かに降下するのを目撃し、ナイフで刺殺した。死んだソ連兵は四角い顎に濃い口髭の、まさにトウコの愛してやまないタイプだった。そのソ連兵は、トウコの描く男たちに面影を遺すことになる。

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