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「マル激 TALK ON DEMAND」【151】

【神保哲生×宮台真司×谷本哲也】医師、そして大手メディアと製薬会社の利益相反

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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知ってはいけない薬のカラクリ(小学館新書)

[今月のゲスト]
谷本哲也[内科医]

――医師と製薬会社の利益相反は、多くの問題を引き起こす。医師が特定の製薬会社と癒着すれば、患者にとって最適な薬が処方されない危険性が生じるからだ。「ディオバン事件」で、製薬会社と医療機関の利益相反が白日の下に晒された日本では、いまだに製薬会社から医師への利益供与が広く行われていると、谷本哲也氏は指摘する。

神保 今回のキーワードは「利益相反」。誰もがお世話になったことのある、医薬品をめぐる医師と製薬会社の利益相反問題を取り上げます。

 ゲストは内科医で、『知ってはいけない薬のカラクリ』(小学館新書、19年4月刊)の著者、谷本哲也さんです。谷本さんには以前、この番組で「ディオバン」問題についてお話しいただきました。おさらいの意味も含めて、究極の利益相反で、刑事事件にまで発展したディオバン問題について、その後の状況も含めてご説明いただけますか?

谷本 事件の原因となった臨床研究の実施は2000年代が中心で、その頃の医師と製薬会社の関係は、かなりルーズなところがありました。当時、「ARB」という高価な高血圧薬をめぐり、多くの製薬会社が競争を繰り広げた。その中でまず、ノバルティスファーマという会社が、京都府立医科大学や千葉大学、名古屋大学など、有名大学に寄付金を入れ、医師が臨床研究を行い、国際的な医学論文として世界中に発表したんです。ARBは血圧を下げるだけでなく、心臓や脳の病気の予防にもなるすごい薬だ、と宣伝され、日本中で処方されて、年間売り上げが1000億円以上、累計1兆円以上という、ものすごい利益を上げました。

 ところが、脳や心臓の病気を予防できるということが、実は嘘っぱちだったということが、さまざまな統計の結果から判明。有名大学から発表されていた査読付きの医学論文はすべて捏造で、撤回されました。そして、データの作成に製薬会社の社員が紛れ込んでいた、という非常に驚くべき事件です。

神保 そこでデータの改ざんもあったと。その後、ディオバンは高血圧の薬として販売されていますが、その製薬会社社員の裁判は今も続いているんですね。

谷本 最高裁で争っていますが、一審、二審とも無罪となっています。その理由として考えられるのは、このような事件は誰も想定しておらず、そもそも取り締まる法律がなかったこと。「Evidence Based Medicine (EBM)」といって、臨床的なデータに基づいて治療法を決めるんだと言われ始めたのが1990年代からで、薬事法は戦後の時代に作られたものですから。国際的な一流雑誌で世界中にエビデンスだと公表し、データを捏造して薬を売る、というEBMを悪用した前代未聞の事件でした。

神保 医薬品をめぐる日本の利益相反の実態を、まざまざと世界に見せつけてしまったわけですね。実は僕自身、アメリカで中毒を蔓延させている「オピオイド」問題を取材しているのですが、アメリカでは今、オピオイドの処方箋を乱発した医師に対する刑事告発や、製薬会社に対する損害賠償請求が相次いで起こされています。

 オピオイド鎮痛薬「オキシコンチン」の製造元であるパーデュー・ファーマは、オクラホマ州政府との間で2億7000万ドル(約300億円)の損害賠償の支払いで合意。僕の知る限り、少なくとも45の州政府から同様の損害賠償訴訟を起こされているので、最終的な賠償金の総額は天文学的な数字になります。もちろん、パーデューが破産せずに賠償を払えればの話ですが。ほかにもジョンソン・エンド・ジョンソンやテバ、インシスなどが訴えを起こされています。ジョンソン・エンド・ジョンソンはさすがに規模が大きいので潰れないと思いますが、インシスはすでに破産宣告に追い込まれています。

 パーデューがオキシコンチンの承認を受けたのが97年。その後、オキシコンチンが普及するのに比例して、オピオイド依存症が蔓延し、今や死者が年間で5万人、中毒者は400万人とも500万人とも言われる状態です。

 遅きに失した感はありますが、アメリカではようやくここに来て、医師と製薬会社の癒着にメスが入り始めている。翻って、ディオバンのような世界の恥となる事件があった日本で、今、その問題がどうなっているかと思えば、谷本さんが書かれたように、いまだ利益相反で溢れています。宮台さん、その象徴となっているのが、製薬会社が医師などに無料で提供する「弁当」だってことを知っていますか?

宮台 弁当問題は重要です。僕らは大学の入学試験にかかわりますが、公立大学なので弁当の予算は1000円です。ひとつの業者に固定してはいけないということで、ローテーションで回しており、不味ければ大ブーイング。試験に参加する先生たちは、もっぱら弁当の話題で盛り上がっています。

神保 谷本さんは、製薬会社が医師に提供する弁当の中身次第で、処方される薬が決まってしまうという現実があると指摘しています。今回調べてとても興味深かったのは、弁当屋さんのウェブサイトに行くと、製薬会社向けの特設ページが用意されているんですね。わざわざ製薬会社向けのページが用意されているのは、その業界ではそれだけ広範に弁当がツールとして使われているということの反映なのでしょう。よくできていると思うのは、やたら2500円の弁当が多いこと。実は製薬会社の業界団体の申し合わせで、弁当代は3000円までに抑えるという取り決めがあるそうなんです。2500円の弁当にお茶をつけて消費税を乗せると、きれいに3000円以内に収まると。弁当屋さんも、いろいろ考えているんですね。

莫大な金額が製薬会社から医師へ流れるカラクリ

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