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【特別対談】現代日本と宗教の関係Ⅱ

【社会学者・橋爪大三郎×宗教学者・島薗進】キリスト教徒の世界支配

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――本誌3月号より始まった、社会学者と宗教学者による対談企画。前回は、イスラム国問題に揺れる日本において、中東、そして欧米諸国とは全く異なる宗教観を持つ我々日本人の根底にあるもの、について話を進めていった。

【第一回「現代日本と宗教の関係」はこちら】

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島薗氏。(写真/江森康之)

 前回に引き続き、宗教学の第一人者・島薗進と、社会学の第一人者・橋爪大三郎の両氏による、「人類の衝突」をテーマにした対談企画。これまでは、「日本と世界の文明はどのように構成され、どこに向かおうとしているのか」という問題を、さまざまな方面から論じ合う、白熱の展開となった。

 先月号でお送りした第一回では、冷戦の東西対立から、世界がいくつかにブロック化してきたという文明構造の変化の問題に始まり、国民国家から、ネーション的民族性へという21世紀の潮流に対する分析が行われていった。

 そして、前回の目玉は「日本特殊論」であっただろう。世界の中で日本が特殊な存在だとしたら、それはどうしてなのか。それを読み解くキーワードは、日本における「儒教」と「国家神道」。儒教の影響が日本においてそれほど大きくなかったとしたら、より深い深層には何があったのか? そして、国家神道は今でも日本の中に生きているのか、それともなくなったのか──。これらの論題について、島薗氏と橋爪氏の見解は時に一致し、時に異にしながら、歩を進めていった。

 その流れを受けた今回の第二回は、引き続き儒教と国家神道の問題を扱いながら、戦後平和主義や集団的自衛権をめぐる問題、キリスト教徒の世界支配、そして、今の日本が描き得る共通の未来とは何か──という領域にまで話が及んだ。2人の碩学による丁々発止の議論を誌上再現する。

橋爪 日本人は、自分のアイデンティティは儒教にある、と思っている節があります。でも私に言わせれば、それは自分がどういう規範に基づいて行動しているか、自分でもよくわかっていないからそういう思い込みが生じてしまっている。

 わかりやすくするため補助線をひとつ入れると、江戸時代のシステムには、武士という社会階層が無条件で存在しています。ところが、これを儒教の秩序の中にどう位置づけるべきか、当の儒教は考えない。もしもこれをきちんと考えると、武士は存在してはいけないという結論になってしまうからです。

 武士の重要な特徴は、ビジネスをするのが禁止されていることです。農業も商業も工業も、あらゆる生産活動に従事することが禁じられている。武士は税金を集めて行政を行ないますが、実際にコメを商いするのは商人で、マーケットは武士がコントロールできないところに存在している。これが江戸時代の原則だった、政経分離なんです。

 一方、中国や韓国では、マーケットは文人官僚がコントロールしていて、政治が経済を管理している。だから政経分離どころか、政治と経済が一致しているわけで、日本のほうが近代に近かった。その日本の武士の秩序が、明治維新で近代的なシステムに変わろうとしてまずできたのが、財界です。財界という、ビジネスの論理を体現した人々が、自律的に行動し、マーケットのメカニズムを作る。それから官界ができて、官僚が大蔵省や法務省、商工省などのヒエラルキーを作って政治を行う。さらに議会や政界、学界などが並立的に発生し、それぞれ異なった秩序として運動する。この仕組みは実は、儒教的ではないんです。儒教的に統治するのであれば、これらの業界すべてを官僚がコントロールするのが正しくて、中国では清朝も国民党も共産党もそうなっていたのに、日本ではそうなっていない。

 中国的な官僚中心システムの中でも、近代化はできます。ただし、今の中国の近代化のやり方は、明治日本が近代化で真似したヨーロッパのやり方とは少し違っている。そして、表向き宗教を排除している中国では、そのシステムを維持するために、宗教に相当するものが必要になる。最初はそれが儒教だったのですが、儒教がお払い箱になると、次にイデオロギーが必要になります。今はイデオロギーに代わるものを入れ替えている途中のようで、その結果何が出てくるかは、まだわからない。わからないけれども、何かは必要なんです。

 ところが、日本の場合はどうかというと、宗教は必要ない。かつて国家神道というものがありましたが、これが表面から消えてしまっても、日本というものさえあれば、日本は日本として機能するんです。

島薗 話が現代に近づいてきました。今お話しされた中国についての分析は、国家体制とは別に民衆生活のほうから中国を見ると、儒教体制やイデオロギーに組み込まれない生活領域が広範に存在していて、そこから常に反乱が起こってくるという歴史を踏まえていますね。現在の法輪功などもあっという間に広まってしまいましたし、道教の影響力も無視できない。儒教と他の思想を組み合わせるということは、中国はずっとやってきて、今の共産党もかなり儒教や諸宗教を利用しています。

 しかし中国の官僚層も今、一生懸命に思想の入れ替えをしているという話がありましたが、官僚層自身も出世のためというプラグマティックな動機以外には共産党に所属している理由がよくわからないという状況なのではないかと思います。そういう意味では、思想的なアイデンティティが拡散している。

 一方、韓国の場合はキリスト教がかなり広がったので、キリスト教に対抗し得るビジョンを求めている層が常にあります。とりあえず南北の分裂国家の統合というビジョンでアイデンティティが維持されているところはありますが、北朝鮮では檀君神話(天孫の檀君が古朝鮮を開き始祖となったという、朝鮮半島に伝わる建国神話)をまだ利用したり、韓国はナショナリズムに向かったりという要素もたくさんある。

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