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拉致問題はどうなる? 本当は北朝鮮に利用された安倍首相と日朝関係の未来

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横田めぐみさんと金正恩(三五館)

 安倍晋三首相は9月30日、前日に行われた日朝協議で北朝鮮から「拉致被害者調査の現状の詳細は平壌に来て特別調査委員会のメンバーから聞いてほしい」と通告されたことを明かした。

 一方、その日朝協議当日の29日に発売された「週刊ポスト」(小学館)では、その“日朝秘密交渉”の内幕が報じられている。同誌によれば、外務省は8月と9月に計3回の秘密交渉を行っており、その時点で北朝鮮から「拉致被害者の生存者はゼロ」「調査の結果がでるには1年程度かかる」と告げられていたというのだ。

 果たして、その真相はどんなものだったのか。その全容を探るべく、日朝関係に詳しい外務省関係者(A)、主要紙外信記者(B)、北朝鮮問題研究者(C)、公安関係者(D)を集めて座談会を開催した。

A 確か、安倍首相の電撃訪朝説を最初に報じたのも「週刊ポスト」でしたよね。外務省局長の動きまで筒抜けだと思うと……正直、怖いなと思いました。

B 要するに、かなり正確な記事だったということですよね?

A はい、私が把握する限りは(苦笑)。

C 記事内には拉致問題対策本部のことも書かれてましたけど、どうせならその拉致問題対策本部の警察キャリア達が民主党政権時に官邸に取り入って二元外交【註1】をしたこと、それが結局は北朝鮮に利用されたことにも切り込んで欲しかったですね。

D それは私も同感です。そもそも、拉致問題対策本部で情報収集を行っている警察や公安調査庁からの出向者たちは、日本国内で拉致被害者の生存情報が取れないことなんてわかってるんですよ。その上で、情報収集のためにあてがわれている9億円の機密費を“活用”して、古巣に戻った時にも使える”協力者”をいかに獲得するかということしか考えていない。

A 拉致対策本部に配置されているのは15名程度ですからね、単純計算で、年間に使えるひとりあたりの経費は6000万円。皆、もとのポジションに戻ったらそんな予算はあてがわれていませんから、この予算を使って次の仕事につなげようと必死で、肝心の拉致被害者問題の解決には向かっているのかいないのか……。

D 結局、その予算も使い切らずに外務省の奴らに持って行かれたりしているみたいですからね。表向きにはかなり力を入れて取り組んでいるように見せていますが、大した成果は上げられていないんですよ。

――そんな中でも、先日の日朝協議には「いよいよ解決に向かうのか」という大きな期待が寄せられていましたが、なぜ北朝鮮は国家間の約束をこうも簡単に破ったのでしょう?

C いや、北朝鮮からしてみたら、「先に約束を破ったのは日本」だと思っているはずですよ。

A ご存知の通り、2002年に合意された「日朝平壌宣言」【註2】によって、5名の拉致被害者が一時帰国しました。これが、今日に続く交渉の始まりとなったわけですが、北朝鮮にとっては、拉致被害者の帰国は一時的なものであり、日本政府が拉致被害者を「返還」しなかったという認識ですからね。

C 北朝鮮にしてみれば、天皇にも等しい金正日が「謝罪」したにもかかわらず、日本側がそれを反故にしたようなものでしたからね。

B その後、拉致被害者の家族が帰国し、安倍内閣、福田内閣と日朝協議が継続し、08年8月の「日朝実務者協議」では北朝鮮が拉致被害者の再調査を行うこと、日本側が見返りとして人的往来の制限を解除することで合意したわけですが……合意直後の同年9月1日に福田康夫首相が急きょ辞任を表明した。北朝鮮としては、合意に基づいて調査を開始するのに、日本側の当事者が先に席を立ってしまったと感じたはずです。

D 当時、北朝鮮は確かに、拉致被害者の再調査を行うつもりだったんですよ。その証拠に、北朝鮮大使館ともいうべき朝鮮総連の議長らは、同年9月5日に訪朝するための航空便まで予約していました。北朝鮮から「再調査を行うので議長らは訪朝できるようになる」と連絡があってのことだったのでしょう。

C 結局、そうした不信感もあって、当時の日朝協議は走り出す前に止まってしまっていたんです。なので、今年5月の日朝ストックホルム合意【註3】で動き出した日朝協議というのは、08年のスタートラインに戻ったというだけの話なんですよ。

D まったくその通りです。再調査が合意され、日本が人的往来の制限を解除した途端に朝鮮総連議長が訪朝したということまで、まったく同じ構図です。

北朝鮮は米朝対話優先! 袖にされた日本

――これまでの経緯は分かりましたが、北朝鮮はなぜ、今回拉致被害者の調査結果通告を先延ばしにしたのでしょうか。

B 専門家がテレビのワイドショーなどでも解説していたように、北朝鮮は実質的な再調査は終えていると思います。あれだけ国家権力が強大かつ国民への統制が厳しい国で、国内にいる外国人の状況を把握していないはずはないですから。拉致被害者の状況は把握しているけれども、日本に通告しないだけです。

C 元々、日本人拉致の目的はスパイ機関で日本語教師をさせることでしたから、スパイ機関の内情を知ってしまった人を返すわけにはいかないのでしょう。それに、スパイ機関の人間は北朝鮮で最も優遇されているので、何十年も暮らしているうちに生活基盤もできていたり……。

D 私は少し違うと思いますね。情報機関というのは秘密主義です。いくらスパイに日本語を教える教師といえども、重要な情報にはアクセスできないはずです。また、保秘のために個々人が知れる秘密の範囲は非常に狭いので、仮にスパイ機関で働いていた者が帰国しても、北朝鮮にとって重要な情報が日本に漏れることはありません。これはAさんや私が北朝鮮に亡命しても日本政府が痛くもかゆくもないのと同じでしょう(笑)。

A 確かにそのとおりですね(笑)。北朝鮮は先に帰国した5人の拉致被害者が北朝鮮での出来事に口を閉ざしているのを知っているので、ほかの生存者を帰国させても問題ないと思っているはずです。

――そうであれば、調査結果を先延ばしした理由がますます分かりませんが。

B 重要なファクターは、今秋の米国中間選挙です。米国は11月に上院の3分の1、下院の全員が改選となる中間選挙を迎えます。中間選挙では大統領の与党が政権運営を批判され議席を減らすことが多いのが通例です。今回の選挙では、「イスラム国」による米国人斬首が投票行動に大きな影響を与えているんですよ。

C そのことと日朝協議になんの関連性が?

A 米国では、「野蛮人によって米国人が斬首される」という恐怖感が蔓延しているんです。と同時に、オバマ政権の外交の弱さが露呈したわけです。そのため、オバマ大統領が強硬策を取って事態を早急に解決しなければ、票が強硬派の共和党に流れるということですね。 実際、オバマ大統領がシリア空爆を命じたのも、そのためでしょう。

B 現在北朝鮮に拘束されている3人の米国人について、米国では彼らが処刑されるのではないかという懸念が広がっているんです。そのため、オバマ政権にとっては彼らの救出が緊要の課題であり、北朝鮮にしてみれば、今が米朝対話のできるチャンスなわけです。

D 確かに、拘束された米国人が特使派遣を要請しましたね。北朝鮮の外務大臣が15年ぶりに訪米して国連総会で演説したのは、米国が対話の誘い水を出してきたと判断したからかも知れませんね。

B 北朝鮮の政治目的は米朝協議を経て平和協定を締結し、朝鮮半島から米軍を撤退させることですから、米朝対話ができる環境にあれば、日本を放って置いて米国との対話を優先するのは当然なんですよ。

――日本が袖にされている現状というわけですか……。しかし、大事なのは今後だと思いますが。

A 来年の政治日程がポイントになるでしょう。来年は日韓国交正常化50周年です。このため、終戦記念日前後で歴史認識問題が最大化します。同時に、来年9月は自民党総裁選です。当然、安倍首相は続投を狙うでしょう。さらに、同10月には朝鮮労働党創建60周年を迎えます。金正恩は党大会開催に向けて成果を上げる必要があるのです。

C つまり、日本・北朝鮮・韓国が相互牽制しつつ、それぞれが利益を追及する必要がある時期が来年夏ということですね。

B 日本は韓国からの歴史認識問題の追及をかわすために、北朝鮮と手を結ぶポーズをとる。日朝が拉致被害者が帰国する道筋をつけることで、安倍首相は支持率が上がって総裁を継続し、北朝鮮は国交正常化。すわなち経済支援の目途がついたことを成果に党創建60周年を迎える、というシナリオなんでしょうね。

D まさか、安倍首相と金正恩が裏で手を結んでいるとは思いませんが……そうやって考えると、北朝鮮が「調査結果には1年程度かかる」と通告してきたのは、日朝ともに好都合と言えますよね。出来レースと捉えられても仕方がないわけだ。

A 日本政府が北朝鮮と結託し、拉致被害者をカードとして一挙両得を狙っているなんてあり得ないとは思いますが、しかし、来年夏が日朝関係の今後を占う上で重要な時期であるのは間違いないと思いますよ。
(文/山野一十)


[註1]二元外交
日朝関係においては、国交が正常化していないため、本来は外務省が窓口となって北朝鮮との外交を行うが、被害者家族のケアや拉致被害者関連の情報収集を行うために設置された拉致問題対策本部が北朝鮮と直接外交関係を持ってしまったがために、双方に対し、北朝鮮が違う対応を取るという事態に陥った。

[註2]日朝平壌宣言
2002年9月17日、小泉・金正日会談にて拉致問題等を解決して国交正常化交渉を行うべく合意したもの。

[註3]日朝ストックホルム合意
日朝両政府が今年5月下旬、ストックホルムでの局長級協議にて合意した事項。北朝鮮は拉致被害者のほか、拉致の疑いがある特定失踪者および帰還事業で渡航した日本人妻、終戦前後に領域内で亡くなった日本人の遺骨?などを包括的に調査するべく、特別権限を持つ委員会を設置すると約束した。


北朝鮮高官の訪韓の背後に 「金正恩暗殺未遂」クーデター説


 日本では拉致問題解決の延期に肩を落としていた10月4日、黄炳瑞(ファン・ビョンソ)総政治局長ら3人の北朝鮮高官が『アジア大会2014韓国仁川』の閉会式に参加するため、韓国・仁川を電撃訪問した。実が、この電撃訪問の背景に「金正恩暗殺未遂」クーデターがあるとの情報を入手したため、北朝鮮事情通を直撃した。

「北朝鮮でクーデターが発生し、金正恩が暗殺されそうになったという話が一時出回ったのは確かです。しかし、これは事実ではないでしょう」(日本政府関係者)  クーデターが起こってないことは、電撃訪問した高官の中に黄炳瑞総政治局長が含まれていたことからも明らかという。

「クーデターが事実であれば、軍を監視してクーデターを防止する役目である総政治局長が訪韓する訳がありません」(同)  公安関係者はさらに、こう付け加える。

「北朝鮮で金正恩に反旗を翻せるような人物はいません。そういう人物はとうの昔に粛清されてます。ただし、そんな金正恩に意見できる存在がゼロかというと、そうではありません。北朝鮮のパワーゲームを見る上で最も重視しなければならないのは、実は金正恩を取り巻く女性たちなのです」

 女優出身で妻の李雪主(リ・ソルジュ)、党幹部の人事を掌握するといわれる妹の金ヨジョン、そして金正恩の妹で金正恩の叔母にあたる金敬姫(キム・ギョンヒ)、この3人が今、宮廷時代劇さながらに熾烈な女の争いを演じているというのだ。

 前出の日本政府関係者は続ける。

「電撃訪問の前日、都内のホテルで韓国建国記念日パーティが開かれ、政府関係者や情報関係者が勢ぞろいしました。しかし、電撃訪問を知っているはずの韓国大使館からは一言も説明ががありませんでした」

 外交交渉に秘密はつきものであるが、クーデター説の真相もあやふやなまま。日本だけが蚊帳の外に置かれる状況はいかがなものか。


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