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宇野常寛の批評のブルーオーシャン 第51回

ほんとうに「社会を変える」には

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──既得権益がはびこり、レッドオーシャンが広がる批評界よ、さようなら!ジェノサイズの後にひらける、新世界がここにある!

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『大きな字だからスグ分かる!ツイッター入門 基本のキホン編』

 この原稿を書いている7月初旬、安倍政権が憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認する動きを見せている。僕個人は、こうした動きはあまりにも性急であり、手続き上も当然許されることではないと思う。しかしこれを批判するリベラル勢力の言説は、大きく空回りしていると言わざるを得ない。「強引な手続きを踏んででも対応しなければいけない現実(アジア情勢)がそこにある」という主張に対し、「強引な手続きは良くない」という反論は既に織り込まれてしまっていて、ほとんど効果はない。もちろん教条的左翼が行っている、まるで安倍政権が今すぐにでも侵略戦争を始めようとしてると言わんばかりの印象操作は完全に逆効果だ。いま必要なのは、安倍政権の軍事・外交戦略ではむしろ国家の安全を脅かす愚作だと批判することだ。そしてそのためにはいわゆる「お花畑」とは一線を画した、現実主義的な軍事・外交戦略の具体的な提示が必要だ。平和外交路線と護憲こそが、国家の安全と平和につながることを具体論で示すべきなのだ。さらに言えば、重要なのはこの右傾化の流れで日本が外交戦略を誤って貴重な人命が損なわれることがないようにすることで、決して道具に過ぎない憲法の条文を守ることではない。僕は少なくともこの流れでの改憲には反対だが、長期的には防衛力としての国軍の存在を容認したものに改憲した上で、日本が国際社会で平和勢力として活動していくのが望ましいと考えている。

 まあ、20年前ならいざ知らず、こうした意見も今の20代、30代には珍しくない中庸的なもので、問題はすでにこうした中庸をどう政治的な勢力に結集していくか、なのだと僕は考えている。僕は安倍政権誕生直後から、新しいリベラル勢力の結集の必要性を論じているが、今はその実現はジャーナリズム主導では難しいと考えている。理由はシンプルで、それはインターネットの言論空間が機能していないからだ。年齢分布的に、若いリベラル層の結集がメディア上で発生するとしたら、それは新聞・テレビではなくインターネット以外にあり得ない。しかしインターネットの言論空間は、震災後の3年でもはや死に体だ。いわゆる「ネトウヨ」「放射脳」といった陰謀論者がはびこり、そして自称「良識」的な層もまた、特にツイッター上ではいまやすっかりワイドショーの劣化コピーに成り下がっている。ツイッターはいま間違いなく、週に一度悪目立ちした人間や、失敗した人間を集団であげつらい、「自分たちは良識の側の人間だ」と安心する文化に、言葉の最悪な意味で「テレビ的な」文化に染まりつつある。これが意味するのは現在のツイッターは、テレビと同質のワイドショー的関心で動員されるポピュリズムの空間でしかないということであり、ここから持続的な運動体や政治勢力が生まれるとは考えにくい。もちろん、「維新の会」的なポピュリズム勢力の拡大を期待することはできるだろうが、ポピュリズム勢力はその定義的に持続性が弱い。

 では、どうするか。僕の構想はたびたび話しているように、こうした新しい中庸勢力は、若い世代が生活のレベルで連帯する組織をまずは実現し、そこを支持母体にした政治勢力を展開するべきだ。自民党にとっての農協や医師会、公明党にとっての創価学会がまず必要なのだ。たとえば、戦後的中流から労働環境的、社会保障的に排除された世代を対象に共済組合的な組織を立ち上げて、社会保障や子育て支援を目的に連帯する。そしてこの団体が圧力団体として機能する。ポピュリズムに対抗できるのは、別のポピュリズムでも熟議の理想でもなく、組織票だ。そしてこうした組織票は、ソーシャルなコミュニケーションではなく、生活の要求を媒介にしか成立しない。これがメディア上のちょっとした「空気」に左右されない、強靭な政治勢力を形成する方法なのではないだろうか。

 こういってはなんだが、新しい中庸勢力はいまのインターネットの中で完結している限り、決して勢力を伸ばすことはできない。大事なのは、メディアのちょっとした風向きの変化に付和雷同する層を啓蒙し、説得することではなく、彼らにカジュアルなリツイートとは別の次元で思考せざるを得ない場を与えること、生活のリアルと直面する、現世利益に支配されるコミュニティを与えテレビ論壇、ツイッター論壇から切り離すことなのではないか。いまの僕はそう考えている。

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うの・つねひろ
1978年生まれ。企画ユニット「第二次惑星開発委員会」主宰。批評誌「PLANETS」の発行と、文化・社会・メディアを主軸に幅広い評論活動を展開する。著書に、『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、『こんな日本をつくりたい』(共著/太田出版)など。

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