サイゾーpremium  > 特集2  > 【「DRESS」編集長】に聞く、コンサバ回帰とデフレ文化の終焉

――前ページまではユースカルチャーのひとつであるギャルとギャル雑誌の衰退について、制作者たちの声を伝えてきたが、さらに上の世代の、また異なるタイプの女性ファッション誌には今どんな状況が広がっているのだろうか? 「美ST」(光文社)で“美魔女”を生み出し、その後giftを設立し、「DRESS」を創刊したベテラン編集長・山本由樹氏に尋ねた。

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 僕は2002年から女性ファッション誌の編集に関わっているのですが、この12年の間で、女性の「洋服との向き合い方」が変わってきていると感じています。雑誌側が「何をどう着るのか」を提案するスタイルから、「自分は何を着たいのか」という、自分が発信するスタイルに変わってきている。ファッションが「対ひと」、つまり「どう見られるか」を中心に考える世代から、「対じぶん」自分自身にとってどうなのかということを考える人のほうが多くなってきているのだと思います。

 それは洋服に限らず、日本の消費構造そのものが、そうなってきているのかな。団塊ジュニア世代は、自分がいいと思うものがいい、という「自分ブランド」第一世代。バブル世代の女性と違って、団塊ジュニア世代の人にとって一番大事な価値観は「自分にとって共感できるかどうか」。自分の感性や価値観という形のないものをずっと信じて生きてきた人たちなので、ある意味、一人ひとりの間口が狭いんです。そして若い世代になればなるほど、そういう人は増えていく。だから若い女性に向けた雑誌ほど、だんだん細分化していくんだろうなと思います。

 もうひとつ、団塊ジュニア世代の特徴として、自分がもう中年になってるってことを自覚してない人が結構多いんです。「私はこれが着たい」と考えるから、20代30代と自分の好きな格好をしてきた。それが40代になると「歳相応」というか、体型や似合う服装も変わっていくから、本当はファッションも変わっていくべきなんだけど、そのあたりの自覚があまりないので、若い頃読んでいた雑誌でまだまだ大丈夫という人がいっぱいいると思うんです。例えば「BAILA」(集英社)のような雑誌もすごく売れてますけど、作ってる側の想定よりも、読者の年齢層は少し上がってる可能性はあると思う。

 その一方で、最近気になる現象があります。今の20代前後って、コンサバティブに戻ってきているように思うんです。例えば「結婚したい、家庭に収まりたい、専業主婦が夢」と考える人が増えている。ファッションが個別化するのとは逆に、生き方は保守化しつつあると思う。ファッションで例を挙げると、ストッキングってバブル以降一旦廃れたけれど、最近また履いてる若い人が増えた。あれは足をキレイに見せたいから履くわけで、「人の目からはどう見えるか」っていう思想の象徴みたいなものじゃないですか。人からどう見えるのかを大事にする層も、若い世代では増えつつあるのかもしれません。去年あたりから「CLASSY」がすごく売れているそうで、実売が90%超えているらしい。それって、世の中が少し保守化しつつあることの証明かもしれない。「CLASSY」のスタイルって、人の目を意識したファッションですよね。団塊ジュニア世代的な「自分ブランド」という発想は、デフレ文化の象徴ともいえると思う。安いファストファッションブランドには「リアリティ」があって、共感できる。でも景気が良くなるにつれて、そういったリアルな自分自身にも飽きてきている部分もあると思うんです。

 アベノミクスで輸出産業は過去最高益、主要銀行も過去最高益という状況で、見た目はすごく景気が良くなっている上に2020年には東京五輪もある。リーマンショックや大震災という、人の気持ちや消費意欲を落とす出来事を経て、時代が再び浮わついてきた感じはありますね。その結果、「リアル」のみを売りにする雑誌が厳しくなっているのかな、と思う。僕はそのあたりの若い子の雑誌にはほとんど詳しくないけれど、ギャル雑誌が休刊するのもきっとそういったところに理由があるのだろうし、「ほどほどのレベルで、自分の生活を肯定してくれるものがいい」という風潮が終わりつつある。

 雑誌が「リアル」を重視して、読者に寄り添いすぎたことの弊害は大きいと思います。今は誰もがSNSをやって、個人がメディア化して「リアルな情報」を発信する力を持った時代ですよね。読者全員が情報の発信者という前提で読んでいたら、雑誌のポジションは相対的に下がってしまう。そういう読者に対して、雑誌の売りが「いかに”使えるか”」というところから早く脱却しなくてはいけない。そこで判断されているうちは、他の雑誌にいつでも取って代わられるでしょう。「内容は似たようなものだったら付録で選ぶ」とか。それに、センスのいいキュレーターが個人的に発信する情報を見ているほうが、より早くリアルに欲しいものが見つかるわけで、雑誌は「情報」を取捨選択するだけじゃない価値観を打ち出さないと。「DRESS」編集部でも最近は「共感」だけでなく「共感を裏切ること」も考えようよ、とよく言っています。矛盾してるようですけど「読者の声にたくさん耳を傾けて、共感を知って、そしてそれを忘れてプランを考えよう」とスタッフには指示しています。

 giftの顧問でもある秋元康さんが以前、「学級委員が作った雑誌は面白くない」って言ってたんですよ。クラスの中で不良だったり、ちょっと悪いこと知ってる奴が作ったほうが面白い。学級委員の言うことは多分正しいし、皆が共感できるかもしれないけど、雑誌としてはつまらないものになるんじゃないかな。

 数字の話でいうと、「DRESS」は創刊号は広告が2億5000万円集まって話題になりましたけど、その後は結構大変でしたよ。今年2年目に入って徐々に戻ってきてますけど、企業の宣伝費もかつてより多くない上に、その中で雑誌の占めるポジショニングがそんなに高くない。それは男性女性誌問わず、一部の雑誌しか潤ってはいない状況です。

 でもやっぱり女性誌って、やってて面白いんですよ。男に比べて女の人ってポジティブだし、人生を主体的に生きて選択している。実は男のほうが、意思を持って人生を選び取る生き方、ライフスタイルを示した雑誌って少ないんですよ。男の生き方のほうが受け身ってことですかね。女性たちの持っている、その健全性みたいな部分が僕は一番好きですね。

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山本由樹(やまもと・ゆき)
1962年生まれ。光文社「女性自身」編集部を経て、02年より「STORY」の創刊チームに参加。05年同誌編集長に。09年11月「美STORY(現・美ST)」創刊、両誌の編集長を兼任。12年7月退社、9月に新会社「gift」を設立し、新雑誌「DRESS」を創刊した。
◯「DRESS」7月号現在発売中。(毎月1日刊行)

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