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佐々木俊尚の「ITインサイド・レポート」 第73回

デジタルメディアが質の低い広告で稼ぐ時代は終わりを告げるか?

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進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!

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単純にニュースサイトとしても洗練されたデザインの「Quartz」。スタートは2012年と、まだ2年弱。

 ニュースサイトにアクセスするとさして見たくもないエロマンガの広告が表示され、スマホのブラウザを開いてもスクロールの先に延々と広告がついてくる……。ユーザーにとって決して快適とはいえない状況が普通になっていたウェブ広告の流れが、ついに変わる時が来たかもしれない。

 最近、ネットメディアの世界では米国の「クォーツ(Quartz)」という新しいビジネスニュース媒体の話題でもちきりだ。

 クォーツのウェブのデザインはかなり斬新だ。スクロールするとどんどん次の記事が表示されていき、左に記事一覧、右中央に記事というシンプルきわまりない構成。さらに重要なのが、広告の扱い方だ。通常のディスプレイ広告とは異なり、記事と記事の間に、写真を大きくあしらった「ネイティブ広告」と呼ばれる広告記事が埋め込まれている。純粋な他の記事と同じデザインで、内容も従来からあったようなPR広告的なものではなく、単体で読む価値のあるコンテンツになっている。

 これはデジタルメディアにおける広告のあり方を変えるかもしれない。

 デジタルメディアの広告は、誰にとってもあまり嬉しくない方向へと流れてきている。できるだけページビュー(PV)を増加させ、さらに広告のインプレッション(露出数)や広告在庫も増やしていくため、広告の単価は下落し続けている。そしてこの下落する単価をカバーし、メディアのページビューをお金にするために、画面の四隅に広告を配置させるという、かなり汚らしいデザインを受け入れてきた。これはアリ地獄のようなもので、メディア側は自分自身がつくった悪夢にはまりこんでしまったようなものだった。どんどん広告単価は値下がりし、そして結果としてブランド力が下がり、ビジネスモデルも不安定になっていく悪循環だ。この背景には、ネット広告は数値による効果測定が容易だったということがある。確かに、クリック率やインプレッションなどの数値を使えるようになったのは素晴らしかった。こうした数値は、「広告は本当に効果があるのか?」というクライアント側の長年の疑念に答えを与えるものだと思われたからだ。

 しかしそれが完全に実現したかというと、そうではない。その広告が本当に見られたり読まれたりしているのかを証明するのは難しく、さらにどのような人がその広告を見て、その人の行動や判断にどう影響を与えたのかはわからない。一方で、クリック率などの数値は、広告効果をあまりにもシンプルに単純化しすぎている。この結果、数ばかり多くて単価が安く、パフォーマンスの悪い広告コンテンツを大量に生みだしてしまっている。ネットは情報発信のハードルが低く、しかもこれまでは検索エンジン最適化(SEO)さえしっかり行えば、くだらないコンテンツであってもある程度はPVを増やすことができた。これによって広告を出す場所は供給過剰になり、質の低いコンテンツを激増させてしまうことになったのだ。

 そうやって機械的にPVを増やし、広告を大量に配置することで、読者はますますネット広告から離れていっている。質の低い読者はそれでも広告をクリックしてくれるかもしれないが、本来ターゲットにすべき質の高い読者は激しい広告離れを起こし、メディアやクライアントのブランド価値も下がる一方だ。こういうやり方は長続きしないはずだが、今までのところはこの質の低いやり方でなんとか収益を上げることが可能だったため、多くの人が「くだらない」と思いながらも、維持されてきてしまった。

 スマホ時代にはこの数値化された広告が再び活性化されるだろうという願望も業界から出てきていて、実際、クリック率が上がったという話もある。しかしそれも「新奇さ」「物珍しさ」が続く間だけの幻想だろう。アメリカでは、スマホのモバイル広告ではクリック率と商品購入・成約率の間に相関関係がほとんどないという衝撃的な調査結果も提出されている。スレートというメディアは「クリックの40%は不正なクリックか、そうでなければ間違えてクリックされてしまったものだ。アメリカ人は指が太ってるので、間違えて押しちゃうことが多いんだろう」と皮肉り、「太った指効果」なんて呼んでいる。笑えないジョークだ。

 一方で、テレビCMや看板広告など、数値化できない非ネットの広告の意味がなくなったかといえば、まったくそんなことはない。屋外のアップルの美しい看板広告や、質の高いテレビCMは、いまも視聴者や読者、通行人の目を惹きつけ、クライアントのブランディングに強く寄与している。ネット広告のこの堕落と、非ネット広告の素晴らしさの溝を埋める方法はないものなのか。

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