サイゾーpremium  > 特集  > 「本当はやりたくない」【動画広告】代理店の本音
第1特集
1兆円市場目前ネット広告最前線!【2】

「実は動画はやりたくない……」代理店の本音に見える動画の現状

+お気に入りに追加

――近年、YouTuberなど、ネット動画で稼ぐ人々が出現している半面、広告の送り手側も動画コンテンツに力を入れているという。これまで「今年こそ来る」と言われてきた動画コンテンツにいま、広告分野が力を入れるそのワケとは?

1405_media_06.jpg
広告主のホンネ『ネットはやりたいけど失敗も怖い!……できれば安価でオナシャス』

 ここ数年、広告マンたちの間で決まり文句のように叫ばれてきた「今年は動画が来る」なる言葉が、ついに現実のものとなりつつあるという。

 確かに、スマホやタブレットの普及と、それに伴う公衆無線LANをはじめとしたインフラの拡充は目覚ましく、いまや走行中の地下鉄車内でも“バリ3”は当たり前。昨年1~3月期の時点ですでにスマホの世帯普及率(※総務省発表の平成25年度版「通信利用動向調査」による)がほぼ過半数に達していたことからしても、この1年でその数字がさらなる伸びをみせていることは想像に難くない。

 広告代理店、映像制作会社などを経て、現在はフリーのメディア・コンサルタントとして活躍する境治氏は、「動画が来る」とされる、その背景をこう語る。

「やはり要因としては、スマホの普及が圧倒的に大きいと思います。スマホを持てば、自然とSNSをやるようになりますし、そうなるとネットリテラシーの高くない、たとえば主婦層なんかが動画にふれる機会も増えてくる。そういったライフスタイルの変化がこれから加速度的に起きていくことを考えれば、バイラル広告などの動画コンテンツをめぐる動きが本格化するのは、もはや必然といっても過言ではないわけです」

 口コミによる伝播&拡散を期待して作られたバイラル動画の増加は、日ごろネットにふれることの多い、読者世代の肌感覚としても大いに納得するところ。また一方では、そんなバイラル動画の受け皿ともなっているYouTubeコンテンツの冒頭5秒に必ず流れる動画CM、いわゆるトゥルービュー広告を、「ウザい」と感じている読者も少なくないに違いない。

「しかも最近では、ウェブ上のバナー広告が実際には見られていないんじゃないかっていう“バナーブラインドネス”なんてことまで言われていて、受け手である消費者が情報をうまく取捨選択する時代になりつつある。そうなればなおさら、トゥルービューのような動画のニーズは将来的にもますます高まっていくはずです」(同)

 他方、そうした広告を制作する側は、これらの動きをどう見ているのか。大手広告代理店のA氏の見方は、境氏とは対照的だ。

「動画をやろうっていう機運が高まっているのは間違いないですけど、僕らの実感としては、ツイッターやフェイスブックが出始めのときに、よく分からないままいろんな企業が飛びついた状況とよく似ている気がします。もちろん、少ないお金で世界中の人に見てもらえれば、クライアントとしても願ったり叶ったりではあるでしょうけど、作れば自動的に見てもらえるほど、バイラルは甘くない。

 最近だと『進撃の巨人』とスバルの『フォレスター』がコラボした動画が1000万回を超える再生回数を記録したのがひとつの“事件”ではありましたけど、あんなのはレアケースもいいところ。実際は10万回を突破するのも難しいというのが現実です」

 A氏によれば、そんな不確かなものにお金と労力を割くぐらいなら、儲けの大きいテレビCMに注力したい、というのが代理店側の本音でもあるという。プロの広告マンである彼らに「やりたくない」とまで言わせる、その理由とは何なのか? A氏が続ける。

「当然、まだまだお金になる領域じゃないっていうのが一番のネックではありますけど、一方では、僕らがテレビで培ってきたノウハウが、YouTubeのような、視聴者があえてその動画を選択して見るようなコンテンツには、なかなか通用しないっていう問題もある。好感度の高いソフトバンクモバイルの“白戸家”のテレビCMを、わざわざ動画で見直す人はそんなにいないでしょう。

 そのうえ現実には、大のオトナが何カ月もかけて知恵を絞って作ったものが、素人投稿のアニマル動画にPVで負けるなんてこともザラにある。要は、いくら制作費が安く済んでも、それがテレビより優れた費用対効果(制作費÷視聴数)を生み出しているかっていうと、現状はまだまだ難しいってところが、僕らがイマイチ積極的になれない理由でもあるわけです。動画プロモーションには再生回数という“結果”のわかりやすさに比べて、本来の目的である購買意欲、いわゆる態度変容にどうつながったかという“効果”の部分が見えにくいという弱点もありますしね」

 どれほど動画の視聴環境が整ったところで、YouTubeだけでも全世界で毎分100時間分以上という猛烈な勢いで増殖している動画コンテンツの現状からすれば、お目当ての場所まで誘導するのも至難の業。となれば、A氏の指摘にあるように、大手の代理店側が、より費用対効果の大きいテレビCMを偏重してしまうのも致し方ない気がしなくもない。

100人の「いいね」より10人の「超いいね」

1405_media_07.jpg
YouTubeでは、最近、HIKAKINなどのYouTuberも話題に。

 だが、A氏と同じ広告マンでありながら、コンテンツとしての動画の有用性、将来性を高く評価する声もある。別の大手代理店に勤めるB氏は語る。

「メディア文化論的な視点で見ると“動画はテレビに勝るか否か”という二元論に陥りがちですけど、コミュニケーションツールとして動画が素晴らしいというのは、もはや紛れもない事実。コカ・コーラやレッドブルといったグローバル企業は、いわゆるトリプルメディアをうまく活用したマーケティング戦略を明確に打ち出していますし、実際、それが目に見える成果ともなっている。今年に入ってからの国内の活発な動きは、実は欧米ではすでに当たり前になっていたことでもあるんです」

 ここで言う、トリプルメディアとは、テレビCMに代表されるペイド(=paid)メディアと、サイトやメルマガなどを自社で運営・管理するオウンド(=owned)メディア、SNSをはじめとした消費者の口コミをメインとするアーンド(=earned)メディアの3つのこと。テレビCMで関心を持ってもらい、自社サイトで理解を促し、SNSで紹介してもらって、共感を広げるというのが、いまやマーケティング分野における世界的な原理原則になっているという。

「わかりやすく言えば、100人になんとなく“いいね”って思われるより、その商品やブランドを本当に理解した10人に“超いいね”って思われるほうがいいというのが現在のマーケティングの流れ。残りの90人を捨ててでも、心の底から好きになってくれる10人を確実に増やして、その人たちにメディアとして拡散してもらったほうが、結果的には効果があるとする考え方なんです」(同)

 前出A氏の言葉も、現場の実感がこもった説得力に満ちてはいたが、あらためてB氏の解説を聞いてみると、「動画が来る」という真意もおのずとクリアになってくる。テレビか動画かというペイドメディアの二者択一ではなく、トリプルメディアを相互に補完し合うツールとしての動画というなら、俄然“来る”のもうなずける。

「マスとパーソナルの中間にある手つかずのビジネスチャンスを各企業がオウンドメディアで取りこもうとする一大潮流があるからこそ、言いたいことをダイレクトに伝えられて、なおかつ情報量の多い動画の存在価値はより高まっていく。企業側が、より消費者が面白がってくれるコンテンツへの比重を大きくしていく必要性に迫られる中で、そこに自分たちの言い分をどうやって品よく落とし込んでいくかってことを考えたら、ツールとしてはやはり動画が最高峰でしょうからね」(B氏)

 とはいえ、トリプルメディアの一体的な活用を実践に移せているのは、こと国内においてはコカ・コーラをはじめとした外資系企業以外ではまだ数社。

「日本の企業は部署が違うと財布も別だから、テレビCMの窓口になっている宣伝部では何億という予算を動かしているのに、営業の一部門でしかなかったりするネット関係の部署になると、途端に1ケタ、2ケタ減るなんてことが往々にして起こり得る。

 テレビCMという旧来のシステムがあまりにもうまく回りすぎているから、これまでは販促的な位置づけでしかなかった動画にまで予算がつけづらい。出す側も受ける側も、なかなか軸足を移せないという側面もあるんです」

 前出・境氏がそう指摘するように、国内企業がマーケティング分野で世界標準に追いつくためには、まずは障壁となっている旧態依然とした国内企業の組織体系と、動画コンテンツの地位向上が急務と言わざるを得ないのが実情だ。

テレビ局も続々と参入

 とはいえ、そんな一筋縄ではいかない試行錯誤の続く中でも、動画を媒介として各メディアを横断する新たな動きは、続々と具体化しつつある。境氏が解説する。

「YouTube以外に受け皿となる動画サイトの必要性というものを、わりと多くの人が感じていて、直近では、東洋経済オンラインが、もう間もなく動画サイトをローンチさせることになっている。これはニューヨーク・タイムズが始めているサービス“ビデオ”なんかを意識したものになるようですが、もともと東洋経済にはウェブメディアの“勝ち組”というイメージもあるから、編集長の佐々木紀彦氏にかかるマーケティングの期待はかなり大きいと思われます」

 あとは、「SVOD(定額制動画配信)の『Hulu』を買収した日本テレビも動画には積極的で、ゆくゆくは月額課金に加えて、広告を乗っけたモデルというのも念頭に置いている。ネットで実験的にやっていた一部番組の無料配信でも想定以上の手ごたえをつかんだという話なので、次なる一手もおそらく考えてはいるでしょう。日テレとは一線を画したオリジナルコンテンツが売りのフジテレビの無料動画サイト『フジテレビ+』も、『世界一即戦力な男』というドラマを地上波並みのスタッフィングで始めていて、そこそこのPVを稼いでいる」(同)のだという。境氏は続ける。

「いずれにしても、出版社やテレビ局といった、これまでの非ネットメディアの担い手だった人たちが、動画のパートを持つようになれば市場は間違いなく活性化する。ただ、そこに広告をつけることができるかはまた別問題でスポンサー側からすれば『上乗せしないで、それぐらいサービスでやってよ』というのが本音。ネットでも広告が見られるってことに付加的な効果があることを明確に示せない限りは、ビジネスモデルとしては成り立たないのが現状でもあるわけです」(同)

 たとえば『進撃の巨人』のコラボCMのように、ある種の成功なくしては、市場の成熟はありえない。ただ漠然とにせよ、動画に対する期待感が高まっている過渡期のいまこそ、そうした明快かつポジティブな結果をクライアントたる企業側に示す必要があるだろう。
「企業もメディアも個人も、未知なる動画という文化に分け入っていくべく、それぞれの“強み”を駆使して戦いを繰り広げることになる新たな時代の幕開け」

 B氏がそう評するように、最先端を走るクリエイターたちが日々“戦い”を繰り広げて、それぞれの領域を融合させた新しい何かを作り上げる。それが受け手であるわれわれに、単なる広告としてではなく、自分から情報として発信したくなるようなコンテンツとして届くなら、広告のあり方も変わってくるはずだ。

(文/鈴木長月)

代理店の動画担当がお勧めする
いま見ておきたい! 企業PR動画

――動画の制作とPRの第一線で活躍する広告代理店の担当者がお勧めする、今見ておきたい企業PR動画をピックアップ!

1405_media_08.jpg

鉄道会社がブラックジョーク
【1】「Dumb Ways to Die」
http://www.youtube.com/watch?v=IJNR2EpS0jw

メトロ・トレインズ・メルボルンというオーストラリアの鉄道会社が、電車事故防止を啓発するために制作。ポップなキャラクターたちが、「まぬけな死に方」を、披露する。2013年のカンヌ国際広告祭にて、計28部門での受賞を果たした。


1405_media_09.jpg

女の子がかわいくて、ついつい釘付けに
【2】「【放送事故】生放送中に…いきなりBAN」
http://www.autoway.jp/cp/ban/

ニコニコ生放送の主がきわどい放送中に、BAN(運営から強制終了されること)されそうに高まったところに車が突っ込んできて、「これがホントの放送事故」というオチ。実は、タイヤ通販サイト「AUTOWAY」による広告動画。


1405_media_10.jpg

巨人との融合が見事!
【3】「FORESTER 進撃篇CM」
http://shingeki-forester.net/

2014年1月24日に、日本テレビの『金曜ロードSHOW!』内で放映され、大きな反響を呼んだ『進撃の巨人の実写映画とスバルフォレスター』のコラボCM。監督は、実写版のメガホンも取る樋口真嗣氏。映画版への期待も高まる!?


1405_media_11.jpg

狂気さえ感じるクオリティ
【4】「おにくだいすき!ゼウシくん」
http://zeushi-kun.jp/cm_archive/

JA全農が国産牛をPRするために制作したCMアニメ。アニメは、『秘密結社鷹の爪』でおなじみの映像制作会社DLEが手がけるほか、人気絶頂にある花澤香菜や、あの御大・大山のぶ代まで参加する声優陣が豪華すぎることも話題に。


1405_media_12.jpg

ストリートからモータスポーツまで
【5】「レッドブル 翼をさずける」
http://www.redbull.com/jp/ja

F1をはじめ、さまざまなスポーツのスポンサードをしているレッドブル。同社のサイトには、フリースタイルバスケやバイクなど、超絶テクニックを駆使した動画が満載。ウイングスーツなど、ほかでは見られないものも多数ある。


1405_media_13.jpg

企業PRの新しい手段を利用
【6】「日本コカ・コーラ」
http://www.cocacola.co.jp/

本文でも指摘した通り、オウンドメディアに力を入れるコカ・コーラ。本誌連載陣の宇野常寛氏もコラムを書くなど、カルチャーサイトさながらの充実ぶり。動画は、シンプルなものが随所に組み込まれているといった印象。


ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2022年6・7月号

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論
    • 音楽業界からの【賛辞と批判】
    • 【芸能プロ】的戦略が抱える2つの“矛盾”
    • 令和の【ジャニーズ・シングル】20選
    • 20年代のジャニーズ【ミュージックビデオ】

移ろいゆくウクライナ避難者

移ろいゆくウクライナ避難者
    • 移ろいゆく【ウクライナ】避難者

NEWS SOURCE

インタビュー

サイゾーパブリシティ