サイゾーpremium  > 連載  > 宇野常寛の批評のブルーオーシャン  > 【宇野常寛】『僕らのニュースルーム革命』
連載
宇野常寛の批評のブルーオーシャン 第41回

『僕らのニュースルーム革命』

+お気に入りに追加

──既得権益がはびこり、レッドオーシャンが広がる批評界よ、さようなら!ジェノサイズの後にひらける、新世界がここにある!

1310_az_horijun.jpg
『僕らのニュースルーム革命』

 僕の友人でもある元NHKアナウンサー・堀潤の初の著書『僕らのニュースルーム革命』(幻冬舎/書影欄外)が刊行された。堀は『ニュースウオッチ9』や『Bizスポ』などのニュース番組で知られたアナウンサーで、僕とはNHK・Eテレの討論番組『ニッポンのジレンマ』で知り合っている。

 堀は原発報道についての方針の違いなどから上層部と対立し、この春にNHKを辞め、以降はフリージャーナリストとして独自の活動を始めている。

 さて、本書を読み通すと、フリーランスになった堀の「狙い」が明確に浮かび上がってくる。堀が考えているのは、端的に述べれば硬直化した既存のマスメディアをインターネットの力で「蘇らせる」ことだ。堀の分析によればNHKに限らず、既存のマスメディアは制度的、組織文化的に硬直化して、その世界有数の高いポテンシャルを活かしきれていない(例えば番組のインターネット配信が進まないのは、はっきり述べれば地方局が既得権益を手放すことができないからだ)。

 しかしここを打破することで、ガラパゴス的に発達した日本のマスメディアは、同様に発達した日本のソーシャルメディアと融合し、ネットワーク上の集合知のメリットを最大限に引き出した報道を実現することができる、というのが堀の主張だ(具体的にそれは、パブリック・アクセスの日本への導入モデルの検討という形で本書では展開されている)。今の日本を変えるには、メディアを変えるしかない。メディアさえ変われば日本は変わる。堀のこの確信は、知り合った頃からまったく動いていない。

 僕自身、堀のこの主張には概ね賛同する。しかし、これは当人とも何度も議論していることだが「それだけ」では絶対にダメだ、とも思っている。例えば先の参議院選挙は(僕も含めて)「ネットで政治が変わる派」の敗北だった。ネット選挙が解禁されようがビッグデータが活用されようが、ニコ生で国会を中継しようが「それだけ」では少なくとも僕らが期待したレベルで政治は変わらない。むしろネット右翼や山本太郎のような、アレな連中がはびこるだけだ。システムを整備するだけではなくて、そこに成熟した文化がなければ社会を変えることはできないのだ。実際、堀が代表を務め、僕も関わる市民ニュース団体「8bitNews」には、陰謀論的な反原発論者たちの投稿が相次ぎ、良識的なユーザーからの強い批判を浴びた(この件では、陰謀論系反原発活動家と今すぐ完全に断交すべきだと考える僕と、慎重であるべきだとする堀との間に意見の対立もあった)。

 堀はその後、地道なワークショップを重ね、クラウドファンディングで資金を集めて、質の高い市民記者の育成に尽力している。僕はこの試みを支持するが、並行してもっと大きなレベルでインターネット上に政治文化を育んでいくことが重要だとも考えている。ネット世代の新しいホワイトカラーのための新しいスタンダードのようなものが、はっきり言ってしまえば朝日新聞や「文藝春秋」のようなものが(もちろん、既存のマスコミとは異なりオープンな形で)必要だと考えている。

 例えば、今の若い世代にとって新聞やテレビの提供するニュースがほとんど他人事のように思えてしまっているのは間違いないと思う。国内ニュースに特化し、政治報道は政局主体、経済ニュースは戦後的「ものづくり」主体、科学ニュースは少なく、文化報道では歌舞伎役者が死ねば天下の一大事のように大騒ぎするくせにアニメ声優が死んでもスルー。1万人も動員できたかどうか怪しい伝統行事を丁寧に紹介する一方で、3日間で50万人以上を集める世界最大級のイベント(コミックマーケット)はほとんど扱わない。そう、この国のメディアは「環境」や「システム」が変わるだけではなく、「中身」「文化」も変えないといけないのだ。

 先日、僕は堀の相談を受け、毎晩ニュース解説のネット放送をすべきだと提案した。解説するニュースは、堀の独断と偏見でセレクトして構わない。それ自体が既存マスコミのニュース報道へのアンチテーゼになるからだ。

 堀の始めた「ネルマエニュース」はほぼ毎晩、日付の変わる頃にひっそりと放送されている。気になる人は堀のツイッターをフォローするといい。「僕らのニュースルーム革命」は、もうすでに始まっている。

〈近況〉
「PLANETS」秋の別冊『あまちゃん』特集は10月発売予定です。この号が出る頃はきっと信じられないくらいの修羅場に……。想像したくないです(笑)。

うの・つねひろ
1978年生まれ。企画ユニット「第二次惑星開発委員会」主宰。批評誌「PLANETS」の発行と、文化・社会・メディアを主軸に幅広い評論活動を展開する。著書に、『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、『こんな日本をつくりたい』(共著/太田出版)など。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2022年6・7月号

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論
    • 音楽業界からの【賛辞と批判】
    • 【芸能プロ】的戦略が抱える2つの“矛盾”
    • 令和の【ジャニーズ・シングル】20選
    • 20年代のジャニーズ【ミュージックビデオ】

移ろいゆくウクライナ避難者

移ろいゆくウクライナ避難者
    • 移ろいゆく【ウクライナ】避難者

NEWS SOURCE

インタビュー

連載

サイゾーパブリシティ