サイゾーpremium  > 特集2  > 【メーカー社員】が大ブーイング! 「無意味だったトクホ」

──では、トクホ業界全体で実際に商品を開発しているメーカー側にとって、トクホビジネスにはどんな旨味があるのだろうか──。開発に携わる社員たちの声をもとに、日本健康・栄養食品協会(以下、日健栄協)の内実と、その”苦しい”懐事情について検証した。

1303_az_12.jpg
『特定保健用食品データブック』(南山堂)

 にわかに活気づくトクホ市場。そう聞くと、飲料や食品を手がけるメーカー各社がこのブームに乗っかって、競い合うように「トクホ」を開発しているようなイメージを抱くかもしれないが、現実はちょっと異なる。乳製品を扱う食品メーカーの営業マンが言う。

「うちもトクホは出していますし、もちろん開発もしていますが、そんなに力を入れている分野でもない。というのも、外から思われているほどおいしくないんですよ。トクホの許可を取るためには臨床試験もやらなくてはいけないので1~2年はかかるし、費用も数億円単位でかかります。なのに、苦労の割には売れないという商品のほうが多いんです。メッツコーラが売れたのは、トクホと炭酸飲料という意外な組み合わせがウケたから。加えて、あしたのジョーを広告に利用して、脂っこい食事をしてもトクホコーラを飲めば大丈夫というお手軽なイメージをつくったからでしょう。キリンさんの”マーケティング”の勝利です」

 概論でも触れた市場の減少を観るに、トクホは思ったよりも売れていない。トクホビジネスにかかわる者たちの反応の多くは、先の営業マンのように冷ややかだ。その理由を、某健康食品メーカーの社員が明かす。

「トクホコーラも黒烏龍茶も、カタカナの”トクホ”という言葉と国が効果を認めたというお墨付きを使ったイメージ操作であって、本来の”特定保健用食品としてのトクホ”の目的からは、大きくかけ離れています。本気でトクホビジネスをやってきた者たちからすると、そりゃシラけますよ」

 この言葉の真意は、トクホの成り立ちにある。前述の通り、厚生労働省が管轄となって、大手食品メーカーと共に「機能性食品」を制度化しようと動き始めた頃、中央官庁ならではの横やりが入る。問題となったのは「機能」という言葉。薬事法の医薬品の定義に「身体の構造、機能に影響を及ぼす」という文言があったため、医薬品の担当部局が「機能性食品」の名称とコンセプトに猛反発したのだ。

「そこで妥協の産物としてひねり出したのが、”特定保健用食品”という意味不明な言葉です。こういう成り立ちなので、今も、どっちとも取れる曖昧な表現しか使えない。初期のトクホの成分は乳酸菌が多かったのですが、許可された表示は”おなかの調子を整える”。これだと便秘にいいのか、下痢にいいのかわからないですよね(笑)」(前出・健康食品メーカー社員)

 結果、食品の持つ「機能」をうたえることに期待を寄せていたメーカー側からすると完全に期待外れとなったが、厚生省(当時)はトクホを取得するよう、大手の食品メーカーや医薬品メーカーに強く働きかける。当然、温度差が生まれ、商品化は進まず、制度の認知も限定される。そんな中、市場を一気に動かしたのが、99年に発売された花王の食用油「エコナ」だった。

「ジアシルグリセロール(DAG)という成分は確かに、食後に中性脂肪が上昇しにくい。そういう意味では”効果”のある商品を開発したわけですが、それ以上に花王が画期的だったのは、トクホをマス媒体で全面的かつ継続的に打ち出して、さらに関連商品を出すという、いわば”トクホ商法”を大々的にやり始めたことでした。それまで業界には、そんな発想はほとんどなかった」(同)

同業者につぶされた「エコナ」のトクホ商法

 だが、出る杭は打たれる。よそ者の突然の参入は、既存のメーカーにとっておもしろいわけがない。ほどなく「エコナ包囲網」が形成され、業界紙を中心に、疑問を投げかける情報戦が始まった。中でも、最も活発に働きかけている企業として記者たちの間で囁かれていたのが、「キユーピー」だったという。

「食用油だけならまだしも、マヨネーズやドレッシングも出し始めたので、黙っていられなかったのでしょう。キユーピーはある業界紙を隠れ蓑に、花王とエコナを執拗につけ狙っていました。国内のみならず、海外の研究データもウォッチして、DAGのネガティブデータが発表されれば、すぐさま『問題有り!』と報じる。これに呼応して、消費者団体が安全性に疑問あり、と行政に申し入れるという構図です。さらには、行政に直接データを持ち込んだり、政治工作も行っていたようです。当時、東京都の担当者は『また、キユーピーが来たよ』とぼやいてました」(食品関連業界紙記者)

 そして、引き金を引いたのが、09年9月の民主党への政権交代。エコナの退場には、ほぼ同時期に消費者庁が新設され、トクホが厚生労働省から消費者庁に移管されたことも影響した。初代の消費者庁担当大臣は、福島瑞穂氏。社民党唯一の閣僚で存在感のアピールが必要だった。また、消費者庁としても、消費者の味方であることを強く印象づける実績が欲しい。ここで、エコナの安全性問題に火がついてしまい、花王にとっては悪夢のタイミングとなったのだ。これにより、トクホ自体の信頼性も地に落ちる。

 しかし、消費者庁の”暴走”はさらに続く。エコナ問題を契機に、トクホの安全基準を、より厳しくする方針を示したことで、新しい成分の許可が実質的に頓挫したのだ。それまで進められてきた錠剤・カプセルタイプのサプリメントにトクホを拡大する動きも却下。消費者団体や左派系弁護士によって「トクホ廃止論」も唱えられ始めた。ここで、多くのメーカーは「トクホは終わった」と考えたというが、日健栄協をはじめとした業界団体は、アクションを取らなかったのだろうか?

「結果的に何もできなかったんです。日健栄協は昔から、大きな問題が起こっても動きが鈍い。ひとつには食品系、薬系、製造系など複数の団体の寄り合い所帯で迅速な意思統一が図りにくいという構造的な問題があります。もうひとつは、行政を抑えるための、政治のパイプが弱いこと。自民党の山東昭子参議院議員が20年近く会長を務めていますが、いわば名誉職でリーダーシップを発揮している訳ではありません。業界のために必死で汗をかいたという記憶はありませんね(苦笑)」(前出・業界紙記者)

 そうして、「トクホ」という制度が形骸化し、その響きだけがひとり歩きしていく中で、大手メーカーは「リスクのない成分を加えてマーケティングで売る」という方法を編み出していく。

「最近のトクホ飲料の多くは難消化性デキストリン(以下、難デキ)という成分を使っているのですが、これはトクホの”定番成分”。食物繊維なので大したリスクもなく、こぞって烏龍茶やコーラに添加するんですよ」(前出・健康食品メーカー社員)

 この難デキは、現在「松谷化学工業」という会社が独占して供給している。エコナ問題が起きた頃から毎年20%ずつ出荷量を伸ばし、12年には3万トンを突破した。その背景には、難デキが、個別審査で有効性・安全性を確認しなくてもトクホの表示許可を受けることができる、「規格基準型特定保健用食品」の関与成分だということが挙げられる。極端な話、異業種からトクホビジネスに参入することも可能なのだ。実際、そうした”サービス”を勧める企業もある。

 トクホ許可数1020品目のうち214品目の使用食品数を誇り、「トクホNo・1企業」をうたう「東洋新薬」では、商品設計から試験計画、許可取得までをトータルにサポートする「とくほおまかせパック」なるものを販売。さらには、マーケティング支援も行い、電通と「TSDウェルネス」というジョイントベンチャーも立ち上げているのだ。このマーケティングの重要性については、飲料メーカー社員も指摘する。

「トクホ飲料なんてあくまでイメージ戦略ですから、”なんとなく体によさそう”と思ってもらえれば十分なんです。だから、“脂肪にドーン!”みたいな漠然としたキャッチコピーでも、印象に残れば強い」

 事実、昨年12月、インターネット調査会社のマーシュが発表した「トクホに関するアンケート」では、96・6%の人が「トクホを知っている」と答えたものの、その意味まで知っていたのは4割に満たなかった。6割弱は「なんとなくわかる程度」だったという “難デキ”のような無難な成分とマーケティングを駆使して、消費者に”なんとなく”を売る。メーカー社員の多くが自覚しているように、「トクホビジネス」のメッキがはがれる日は近いのかもしれない。

(文/窪田順生)

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2022年6・7月号

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

移ろいゆくウクライナ避難者

移ろいゆくウクライナ避難者
    • 移ろいゆく【ウクライナ】避難者

NEWS SOURCE

サイゾーパブリシティ