サイゾーpremium  > ニュース  > 社会  > 対談 速水健朗×後藤和智 「俗流若者論」...
ニュース
若者を"食い物"にしているのは企業? メディア? はたまた論壇?

対談 速水健朗×後藤和智 「俗流若者論」にダマされるな!

+お気に入りに追加
0903_book_hayamizugoto.jpg
速水氏の『自分探しが止まらない』と後藤氏の『おまえが若者を語るな!』。ともに昨年出版された、若者を論じる上での必携書。

 ワーキングプア、ニート、フリーター......こんなキーワードとともに、2000年代以降、社会状況を背景に、盛んに論じられるようになった若者論。いわく「若者は劣化している」らしい。そこで、若者論の現状を探るべく、巷に溢れる若者論を「俗流」と一蹴し、一部から喝采と罵声を浴びた後藤和智と、自己啓発やケータイ小説にハマる若者を詳細にルポルタージュし、同じく一部から喝采と罵声を浴びた速水健朗の両氏に対論してもらった。

「世界最古の紙・パピルスに最初に書かれた文章は『最近の若者は......』である」なんてジョークがあるように、古今東西、世の大人たちは若者のあり方を嘆きがちだ。

 こと国内メディアにおいては、秋葉原通り魔事件やニート・ひきこもり、学力低下など、若者にまつわる問題が噴出したここ数年、社会学者や精神科医、評論家など、各界の識者によって「若者が変質・劣化した」と語られる機会は多い。

 しかし、『おまえが若者を語るな!』(角川oneテーマ21)の著者・後藤和智によると、若者論の大半は、学術的検証に立脚しない単なる印象論。「俗流」に過ぎないという。

 では、なぜ若者はそこまで白眼視され、俗流若者論が跋扈してしまうのだろうか?

──後藤さんは『おまえが若者を語るな!』で、本誌連載陣でもある宮台真司さんや宇野常寛さんの語る若者論を「俗流」と指摘していますよね。

後藤 だから、私は「サイゾー」の読者的には最悪のゴキブリ野郎ですよね、きっと(笑)。

速水 宮台信者だったことは?

後藤 大学2年までは「ミニミニ宮台君」でした(苦笑)。ただ『犯罪統計入門』(日本評論社)を読んだとき、検挙率低下の原因について、宮台さんは「地域のコミュニティが失われたから」と言うけど、実際は警察の方針が変更しただけで、重大犯罪の検挙率に変化はないことを知ってしまったんです。

速水 批判はファンゆえの反動なんだ(笑)。

後藤 いや、反動ではなく、「あれが間違いなら、ほかにも変なところがあるかも」と思ったんです。実際、著作の8割くらいを読み返したら、ブルセラやオウムについて語っていた90年代半ば、宮台さんは若者「擁護」派だったのに、98年以降、なぜか「人格の底が抜けている」「脱社会的だ」と若者批判を始めた。しかも、検挙率の話同様、その批判を裏付けるエビデンス(証拠)がないことが多かったんです。

速水 『おまえが〜』の宮台転向を分析する部分は面白かったんだけど、一方で、宮台さんは、メディアで何を言っても政策に結びつかなければ意味がないことに気づいて、戦略的に論を変えたんだとも思う。正論もスルーされれば意味がないし、若者論批判本を書いても、若者批判側の本がその何十倍も売れるんじゃ焼け石に水。同じく、人気論客をまとめて叩いて注目を集める後藤さんの本も「企画力が高いなぁ」とは思う一方、「2ちゃんねらーは喜ぶかもしれないけど、世間に届くかな?」という疑問があります。

後藤 企画やウケ狙いで書いたわけではないですよ。純粋に、彼らの論は統計的な根拠や実証性を持たないのに、若者を語る上でのスタンダードになりつつあると思うから批判するんです。

速水 あと、批評家の東浩紀さんへの批判についても「どうだろう?」という部分が多い気がします。特に「ギートステイト」(東浩紀、桜坂洋を中心とした、2045年の日本を予測するプロジェクト)については、あれはSFだから、根拠を求めてしまうのは少しおかしい。それに、批評家が、スタンダードになろうとか、政策を左右したりしようと思っては......。

後藤 いないかもしれない。ただ、人文系の論壇で彼らはウケるし、それを見たメディアが「これが若者の実態だ」と紹介して、変に波及することは多い。秋葉原通り魔事件のとき、東さんが多くのメディアに呼ばれたように。そういった若者論が「若者は大人にはわからない」という世代間の断絶を正当化する恐れはあります。

無戦略・無計画に売れっ子論客を狙い撃ち?

──なぜ若者論は波及しやすいんですか?

速水 商品価値があるからですよ。世代が違えば生き方や考え方が違って当然なんだけど、その違いを「劣化・退化」と言ってくれれば、自分が肯定される。誰もが自分が優秀だと思いたい。あと、市場の要請もある。「若者が消費しなくなった」みたいなのも、そう。

0903_goto.jpg
後藤和智氏。

後藤 ただ、それがマーケッターの内部資料として参照されるだけならまだしも、社会論に接近し過ぎです。若者の消費性向と「大きな物語の崩壊」「郊外化」みたいな言葉が安易に結びつけられている。そもそも若者が消費しないと、なぜマズいんですか?

速水 円高で輸出もダメだし、問題かも。

後藤 それはわかりますが、なぜ若者だけが叩かれるのか。車離れとか、旅行離れとかさんざん言われていますけど、実際には景気や賃金の問題でもあるんだから、与党の労働政策や、財務省、日銀も批判されるべきですよ。

速水 おっ、リフレ派ですね(笑)。あの報道を若者批判と捉えるのは後藤さんらしい。ただ、若者が消費しなくなったこと自体は結構正しい。新車が売れないのは事実ですし。当然、軽自動車や中古車が結構売れていることを指摘する必要はありますが。

後藤 でも、打開策を講じないで「若者が大変だ!」と騒ぐだけのメディアは考えものです。

速水 商品価値に加えて「面白い」というのも、みんなが若者論が好きな理由なんでしょうね。

後藤 その気持ちはわかります。宮台さんがウケたのも、90年代、若者を「面白く」論じたのが彼くらいだったからだし。

速水 宮台さんは社会学者なのに、アカデミズムの世界の言葉を使わず、世間に届くように話してくれている、ともとらえられる。逆に「社会システム理論によると......」とか言い始めたら「ごまかしてんだろ」とすら思えちゃう(笑)。

後藤 それがウケたから「社会学者=面白いことを言う人」と見られるようになったんでしょうね。

──そのせいか、最近は事件が起きると、メディアは、社会学者など、アカデミズム系の人にばかりコメントを求めますよね。

速水 さらに、秋葉原通り魔事件のときには売れっ子の学者がこぞって「事件について語るな」と互いを牽制した。「ついに椅子取りゲームが始まったか!」という感すらあります。本来、面白いことを言うのは雑誌のコラムニストの役割だったはず。専門家ではない立場から、学者には言えないことをズバッと書いたり。批評家の役割も、社会学者とは違う立場で物を言うことだと思うんですけどね。

後藤 コメントの横に「社会学者」と書かれるから、内容がエッセイ的であっても、受け手がそれを「社会学」だと思ってしまうのも問題。社会学には、もっと地味で堅実な分野もたくさんあるのに(笑)。

0903_hayamizu.jpg
速水健朗氏。

速水 やっぱり、宮台さんを倒したい?

後藤 とりあえず、宮台社会学は耐用年数切れだと思うので葬り去られるべきです。

速水 僕は協力はしません!(笑)ただ、葬るなら宮台さんより面白くならないと。

後藤 私は凡庸なことしか言えないからなぁ。

速水 でも、『おまえが~』のように、データを示しながら、俗流若者論の不備を身もフタもなく暴くやり口は面白いですよ。

後藤 そのせいで「エビデンス厨」って叩かれもするんですが(笑)。ただ、もう少しエビデンスにも目を向けてほしい。特に若者論では、通説や極論のほうがウケるのが気がかりです。最近だと(フリーターの立場からワーキングプア問題を語る)赤木智弘さんとか。彼は俗流若者論批判もしているんですが、一方で「自分の世代こそが被害者。高齢者を追い出せ」と、しきりに言いだした。

速水 秋葉原事件後の「(今の社会を作った世代を狙って)巣鴨とげぬき地蔵に突っ込め」発言とか?

後藤 最近だと、企業が内定取り消し者に補償金を払った報道について、赤木さんは、「新卒に100万円あげるくらいなら、自分のような就職氷河期世代の非正規労働者にも100万円くれ」と言っている。内定取り消しは労働契約の問題であって、採用環境における新卒偏重の問題とは別問題です。極論ばかり言うと、むしろメディアが硬直化して、彼の望まぬ方向に社会は進むだろうし、「高齢者を追い出せ」という清算主義だけが注目されると、経済政策などの問題が隠ぺいされてしまう。

速水 僕は、赤木さんはむしろ好き。彼は、そういうすべての雇用・労働問題を明示化したくて、あえて極論にしている気がします。

後藤 私は、もう少し堅実な解を出す方向でやりたいですね。

速水 逆に後藤さんに戦略がないことも、理解されにくい。売れっ子言論人を狙い撃って話題を集めた戦略的な人だと思われているはず。祭りを起こして、話題作りするのがはやってるし。マクドナルドの偽装行列とか(笑)。

後藤 困ったことにそうなんですよ。宮台さんの登場で、妥当性や根拠よりも「戦略」が重視されがちな流れが、一部でできてしまったがゆえの問題なんでしょうね。

蔓延する自己啓発が若者のやりがいを搾取

──ところで、後藤さんは、最近の若者をどう見ているんですか?

後藤 私は若者を語れません!(笑) 実証性がありませんから。雇用問題のように範囲が限定的で、分析可能なデータを揃えやすい分野なら語れますが、若者全体についての印象なんて漠然としすぎです。どんなデータを使えば総体を語れるのか、わからない。だから、語り得ぬものに関しては沈黙するしかないんです。

速水 サッカーでいうカテナチオ。しかも、守りだけ固めてカウンターすら仕掛けない(笑)。

後藤 不戦敗でもいい。精神科医の香山リカさんみたいに、数人に話を聞いた程度のお手軽な調査だけで世代なんて語れません(笑)。

速水 ただ『おまえが~』でも批判に上がっていた香山さんの「ぷちナショナリズム」(若年層に見られる屈託なき国家主義傾向)の問題提起には、納得できる部分もあります。あれ以降に出てきたヒップホップやレゲエの詞の多くが男尊女卑的なものや、「地元サイコー!」というメッセージになっていたりするし。

後藤 この対談前に寄ったマクドナルドでも、親に感謝する歌ばかり聴かされた気が......。

速水 ああ、「お母さん感謝ラップ」(笑)【※1】。あれ、ウザいですよねぇ。そのウザい曲が売れる理由に興味は? 反抗的なはずの若者が、なぜ「お母さん、ありがとう」なんて言うんだ? と。

後藤 その理由については、90年代から個性重視教育が叩かれている反動で、「やっぱり家族が一番」という方向に進んだのかも、という見方もできますが、そんな想像の話はブログにも書けません。

速水 半面、コラムニストや批評家はそれを考えて「こんな背景から生まれたのでは?」と仮説を立てるのが仕事だと思うんですよ。

後藤 実際、速水さんは『自分探しが止まらない』(ソフトバンク新書)で「教育や労働環境の影響で自分探し系の若者が増えた」「彼らにタカる商売が横行中だ」という仮説立てにある程度は成功しましたよね。

速水 『自分探し~』も、後藤さんには俗流若者論に映るでしょうが、無根拠にニューエイジ由来の自己啓発や自己変革を煽るのはどうなの?【※2】 という俗流若者論批判と似た問題意識に立っているつもりなんですよ。

後藤 そこまで読めずにすみません(笑)。ただ、実は私も、自己啓発的な言説が若者論に与える影響、特に経営者の言説については気になっているんです。

速水 オカルト好きの経営者は多いですよね。倖田來未の羊水発言どころの騒ぎじゃない。

後藤 ハハハ(笑)。カー用品チェーン大手のイエローハット創業者・鍵山秀三郎元社長が自分の会社で始めて、教育現場でも実践させようとしている「便教会」(トイレを素手素足で掃除させ、美しい心と奉仕の精神をはぐくむ教育法)なんて、東大准教授の本田由紀さんのいう「やりがい搾取」そのもの。自己啓発的な社員研修で有名なワタミの渡邉美樹社長なんかも問題ですね。若者に「夢」「やりがい」なんて連呼しておきながら、労働者をコキ使うなんて(笑)。"若者論ヲタ"的には、あの手の労働問題は無視できません。

速水 最近のベストセラーが、オカルトと、ビジネス書の皮をかぶった自己啓発書しかないのもどうかと思います。ハリポタもオカルトっちゃあオカルト(笑)。それに、実は、『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)や、勝間和代が参考にしているナポレオン・ヒルやデール・カーネギーの自己啓発書は世界恐慌の時代に書かれている。だから、今の日本でビジネス本が売れるのは、ある意味、当たり前ですよ。

後藤 自己啓発書とビジネス本は、内容も似ていれば、不況下に売れるのも一緒、と(笑)。

速水 若者を食い物にする自己啓発系ビジネスって、俗流若者論よりもタチが悪いし、自己啓発書の部数は、そこらの俗流若者論と二桁違う。後藤さんには、この世界もぜひ批判してほしい。まあ、とりあえず、今日は後藤さんの「お母さん感謝ラップ」の感想を引き出せただけでも満足です(笑)。

(構成/成松 哲)

【※1】SEAMO「MOTHER」、LG Yankees「Dear Mama feat.小田和正」(ともに08年発表)に代表されるような、自分の母親への感謝を示した讃歌ラップ。

【※2】心理学の知識や技法を用いて自己啓発・自己変革を目指す、ヒューマン・ポテンシャル運動(日本では「自己啓発セミナー」の名で広まった)は、70年代アメリカ西海岸を中心に台頭したニューエイジ運動に由来している。

速水健朗(はやみず・けんろう)
1973年生まれ。ライター・編集者。コンピュータ雑誌の編集を経てフリーに。音楽、芸能、広告、コンピュータなど幅広い分野で執筆活動を行っている。著書に『ケータイ小説的』(原書房)、『タイアップの歌謡史』(洋泉社新書y)、『ブログ・オン・ビジネス』(共著、日経BP社)などがある。
[ブログ]犬にかぶらせろ!

後藤和智(ごとう・かずとも)
1984年生まれ。現在、東北大学大学院工学研究科博士課程前期在学中(都市・建築学専攻)。04年から、自身のブログにて、俗流若者論の批判的検討を展開している。著書に『「若者論」を疑え!』(宝島社新書)『若者文化をどうみるか?』(共著、アドバンテージサーバー)など。
[ブログ]新・後藤和智事務所 若者報道から見た日本


Recommended by logly
サイゾープレミアム

2019年12月号