芸能界&撮影現場で頻発する「ハラスメント」最新事情、そして業界の“ジレンマと解”

――映画やテレビドラマなどの映像制作の現場で、ハラスメントをはじめとするトラブルが後を絶たない。個々の事件を糾弾するだけでは、同じ問題が繰り返されてしまう。問うべきは、ハラスメントを生み出す構造そのものではないか。業界関係者たちの証言から、問題が起きる原因と改善への道筋を探る──。

国内初のハラスメント裁判となった「福岡セクシャル・ハラスメント裁判」(1989年提訴)に着想を得た劇映画『ファーストボイス』が10月2日(金)より全国公開される。モデルになったのは、福岡市の出版社に勤める女性編集者が男性上司に根拠のない噂を流され、一方的に解雇された事件。綾瀬はるか主演の同作でも、「女性は我慢するのが当然」「裁判に訴えても勝ち目はない」など、当時の日本社会では働く女性の立場が弱かったことが描かれている。

1999年には男女雇用均等法が改正され、セクシャル・ハラスメント対策を講じることが事業主には義務づけられるようになった。男女差別は法的には解消されたように思えるが、実情はどうだろうか?

ハラスメント問題は一般企業だけでなく、近年は映画やテレビの撮影現場でも構造的な課題として表面化している。今年に入り、人気ドラマのプロデューサーやディレクターの現場での対応が疑問視される騒ぎが起きた。また、演技経験の少ない俳優たちが監督から演技指導を受けるワークショップが、ハラスメントの温床になっていることも指摘されている。

映画『ファーストボイス』  監督/前田哲  脚本/橋本裕志  音楽/富貴晴美  出演/綾瀬はるか、ファーストサマーウイカ、松本穂香  配給/松竹、ワーナー・ブラザース映画  10月2日(金)より全国公開©2026「ファーストボイス」製作委員会

大手映画会社の東映では女性アシスタントプロデューサーがフリーランスのスタッフからセクハラに遭い、退職に追い込まれ、2024年に謝罪と慰謝料を会社に求める訴訟を起こしている。被害女性は社内のハラスメント窓口に相談したものの、不適切な対応だったことが明らかになった。この裁判は現在も係争中だ。

なぜ撮影現場でトラブルが多発するのか、どうすればこうした問題を解消できるのか? ハラスメントに向き合う現役の映画監督、俳優、団体の担当者らの声に耳を傾けたい。

ハラスメント以上につらい二次被害

舩橋淳監督の『ある職場』(22年)は、実在のセクハラ事件にもとづく劇映画だ。ホテルチェーンでフロント係の女性社員が上司からセクハラを受けた事件をモチーフにし、その後日談を描いている。セクハラ騒ぎはSNSで社外に拡散され、被害女性は中傷にさらされ、職場の人間関係にも亀裂が生じてしまう。

舩橋監督は米国で10年間過ごし、オダギリジョー主演映画『ビッグ・リバー』(06年)などを撮ったのち帰国。日本の制作現場で年上のスタッフからパワハラ的な目に遭ったという。一方、ポルトガルで撮影した『ポルトの恋人たち 時の記憶』(18年)では主演女優からベッドシーンを撮る際の説明が不十分だったことを指摘された経験もある。被害者が無自覚のうちに加害者にもなりうる点が、この問題の難しさだ。

「ハラスメントを題材にした『ある職場』を撮ったことから、各地の男女共同参画会議などに呼ばれ、上映会付きのシンポジウムに参加しました。『ある職場』はあまりの不条理で居心地が悪くなる映画ですが、それを観て、その居心地の悪さについて考えましょうというディスカッションの場になりました。近年はさまざまなハラスメント問題が発覚していますが、まだ氷山の一角でしょう。氷山の全貌はまだ見えていないと思います。いちばんの課題は、セクハラの被害者が同じ組織では働きにくくなってしまうことです。『ある職場』ではセクハラした上司は配置転換されただけで、組織自体はまったく変わりませんでした。モデルになった事件の被害者を取材した際に聞いたのは、『ハラスメントもつらいが、それ以上につらいのが、噂話が広がり、二次被害、三次被害に遭うことだ』という言葉でした。ハラスメント対策の研修は行われるようになっていますが、問題が実際に起きた場合にどう対処するのかのノウハウが、日本社会では構築されていないのが現状です」(舩橋監督)

是枝裕和監督、諏訪敦彦監督らが映画界の適正化を求めて「action4cinema(日本版CNC設立を求める会)」を2022年に発足させ、舩橋監督は同会の副代表でもある。撮影現場でトラブルが起きる原因のひとつは、日本特有の保守的な縦社会にあると舩橋監督は見ている。

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