【バンギン・ホモ・サピエンス】ヴィン・ディーゼル――映画界の「ひとり多民族」

人類とは旅する動物である――あの著名人を生み出したファミリーツリーの紆余曲折、ホモ・サピエンスのクレイジージャーニーを追う!

ヴィン・ディーゼル(Vin Diesel)

(絵/濱口健)

1967年生まれ。D&D30周年記念本に序文を寄稿、『トリプルX』ではD&Dキャラの名をタトゥー化した、真のオタク。ローマと戦ったカルタゴの将軍ハンニバルに憧れ、ポエニ戦争ゲームも開発。そのロゴ入りパンツの勇姿でも知られる。

(絵/濱口健)

 音楽業界の連中は口を揃えて「肌の色は関係ない」と言う。でも実際に彼らが重視する要素は人種だ。そう語ったのは、BTS(防弾少年団)に「Black Swan」を提供し、静かな“時の人”となったフィリピン系カナダ人ソングライターのオーガスト・リゴである。

 そう、人種/民族別マーケティングは米欧社会の基本。では、黒人にも白人にも見えず、ラティーノにも近いが実際は違う、そんな男はどうすればいい? それも、音楽界以上に外見がものをいう映画界でキャリアを築かんとしている俳優の場合は。

 その男、マーク・シンクレア・ヴィンセントは、生まれこそ北カリフォルニアだが、育ちはニューヨーク市。母はイングランド&スコットランド&ドイツ系、つまり白人だ。実の父に関して詳しくは語らないが、「世が世なら父母の関係は違法だった」と発言しているから黒人なのだろう。

 彼を育てた継父もアフリカン・アメリカンで、ニューヨーク大学で教えた演劇関係者。その影響のもと、7歳で初舞台を踏んだ彼は、シドニー・ルメット監督に憧れる硬派な演劇人として育つ。いとこのヒップホップ・グループ〈Kwame & a New Beginning〉のダンサーを務めたこともあるが、あくまで余技である。

 俳優として食べられるまでの道のりは遠い。だから彼は、鍛えた体を生かしてクラブのセキュリティの職に就いたのだ。その時に与えられた名がディーゼル。米語では「めっちゃ強い」くらいの意味だ。こうしてディーゼルなヴィンセント――〈ヴィン・ディーゼル〉が誕生した。

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