人類学と写真(上)

ロラン・ボナパルト《イエロー・スモーク》1883年、著者蔵

 アメリカ大統領選まで1年を切ったが、再選を狙うドナルド・トランプがウクライナ疑惑の弾劾訴追で窮地に陥った末に切ったカードは、イランの革命防衛隊のソレイマニ司令官らの殺害というものであった。国内の諸問題を外国や移民への憎悪に転じさせながら、ナショナリズムを煽るという政治手法は、トランプに限ったことではなく、我が国でもおなじみのものだろう。ヨーロッパでも文化的差異を移民排斥のレトリックにする「新人種主義」(ジョージ・M・フレドリクソン)の勢いは、一向に下火になる気配がない。

 言語や慣習などの文化的差異を社会的排除の理由とするのが、新人種主義と呼ばれるものである。他方、古典的な人種主義は、骨格や皮膚の色、毛髪の形質的特徴のような生物学的な差異を根拠とする。古典的人種主義の歴史は比較的浅く、その理論的な支柱は、1859年に発表されたチャールズ・ダーウィンによる『種の起源』や、ダーウィニズムを人間社会にも応用したハーバート・スペンサーによる社会進化論(社会ダーウィニズム)などであった。19世紀に登場したこれらの理論は、白人を頂点とする「人種」の序列化に学問的な根拠を与え、大きなインパクトをもたらした。日本でも1880年代から90年代にかけてスペンサーの著作の翻訳が数多く出版されている。

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