暴走族も童貞も遊び人もラップする! 低年齢化する国産ヒップホップのリアル

──昨年の夏休みに始まったテレビ番組の企画〈高校生RAP選手権〉が、大きな反響を呼んでいる。すでにその”動画”をネットで見たという読者の多くは、高校生たちが高いスキルでディスり合うさまに驚き、そして感動したのではないか。そんな企画の出場者を含む10代のラッパーたちに話を聞きながら、国内に浸透するヒップホップの潜在能力を考察したい。

高校生RAP選手権第2回大会の決勝戦でバトルする在日韓国人3世のKay-onと自閉症のGOMESS。

「中卒でもヤンキーでもギャルちゃんでもオタッキーでも/ボンボンでもパンピーでもなれるZ/ラップキング」。第3回〈高校生RAP選手権〉は、審査員であるベテラン・ラッパー=DABOのそんなライミングで幕を閉じた。この、BSスカパー!の番組『BAZOOKA!!!』の名物企画の趣旨を簡単に説明すると、高校生ラッパーの頂点をトーナメント形式のMCバトルで決めようというもので、2012年7月にアップされた第1回大会のYouTubeの再生回数は今年9月頭の時点で140万回に迫る勢い。映画監督の大根仁のようないわゆるサブカルチャーのご意見番も絶賛し、3月に初めて公開で行われた第3回大会は大会場が満員になるなど、日本のヒップホップ・シーンから久しぶりに生まれたキラー・コンテンツだと言えるだろう。

 そして、〈高校生RAP選手権〉は、ほかにも日本のヒップホップの意外なほどのポテンシャルを明らかにした。諸外国に比べ、我が国においてこのジャンルはポピュラーではない。そうでなくとも、さまざまなマーケットが高齢化し、尻すぼまりになっていく時代に、同番組を通して見えてきたのは、「ラップをしている若者の数は案外多い」ということ。また、「それは、全国に広がっている」。しかも、「クオリティが高い」。何よりも、冒頭のDABOのリリックにあったように、「キャラクターは多種多様」という、いたって健全な姿だ。90年代に起こったブームの後、世間に忘れ去られたかのごとく見えた日本のヒップホップが密かにシーンを広げ、新陳代謝を繰り返していた背景には何があるのか。10代のラッパーたちに話を聞いた。

口喧嘩を得意とする父子家庭育ちの暴走族

【1】神奈川県川崎在住のLIL MAN【2】同じく川崎で生活しているdodo【3】北海道旭川在住のGOKU GREENと彼の2ndアルバム『Thrill of Life』(BLACK SWAN)【4】旭川でGOKU GREENと共に活動するRy-lax

 第1回大会で特に印象に残ったのが、準優勝者のLIL MAN【1】だ。名前の通り、小学生と見紛う幼いルックスにもかかわらず、いざマイクを握れば、挑発的なパフォーマンスと確かなスキルで対戦相手を圧倒するさまは、MCバトルの原点が口喧嘩であることを思い出させる。第2回、第3回でもその勇姿を見たが、地元の神奈川県・川崎駅で待ち合わせた彼は、さらに成長したように感じられた。10代にとっての1年はそれぐらい大きいのだ。

「ラップ以外でも口喧嘩は得意ですね。散々、おちょくって逃げちゃう。相手が怒ったら、“じゃ、オレ行くわ”って、実戦は友達に任す」

 そう言うLIL MANは、生意気そうだが、どこか色気があった。今年17歳の彼は、昨年末で高校を中退し、建設現場で職人として働いていたものの、それも辞め、最近はもっぱら同世代で組んだ暴走族の活動がメイン。ラップを始めたのも、「中学生ぐらいのときに地元のチームに入ったんですけど、先輩がイベントを開くことになって、そこで、“お前、ラップやれ”って言われたのがマイクを持ったきっかけ」だと振り返る。

 ヒップホップで最初にハマったのは、SEEDAの『花と雨』。ドラッグの売買の末に逮捕された経験を歌ったアルバムだが、「まわりでよく聞く話だし、興味を持った」。憧れているのはANARCHY。彼のラップにしても、「父子家庭っていう環境が自分と同じだったから共感しましたね。アメリカのものは聴かない。やっぱり、日本語のほうが感情移入できる」。

 そして、LIL MAN自身も、番組に出演後、ちょっとしたスターになった。

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