【阿部真美子】多崎つくるは小田急電鉄に勤務?『電車でGO!』監修者が読むマニア度

識者が語る「多崎つくる」【5】

阿部真美子(あべ・まみこ)
広島県生まれ。幼少の頃から鉄道に興味を持ち、鉄道での旅行に強い憧れの気持ちを抱くようになる。20歳の時にゲーム制作会社タイトーに就職し、家庭用ゲーム『電車でGO!』シリーズ、『鉄道ゼミナール』シリーズの監修を担当。現在はアーティスト活動中。著書に『まみこ的日本旅行─鉄旅編─』(文芸社)がある。

──“多崎つくるが何よりも好きなのは鉄道駅を眺めることだった”──。鉄道会社に勤務し、小さい頃から大好きだった駅を設計する部署に籍を置く主人公に、大ヒットゲーム『電車でGO!』の監修者が肉薄する!!!

 まず、私は普段はノンフィクションなどを読み、村上春樹はおろか、小説をまったく読まないという前提でお話しさせてください。主人公が駅マニアだということをうかがい、『電車でGO!』の監修者として、今回は特別に拝読したのですが……。

 さて、鉄道マニアという視点で見ると、東京の電車のことは結構細かく書いてあるんですけど、名古屋の電車のことは全然出てこないから、作者はわかる範囲でしか書いていないのかなと思いました。

 私はいわゆる“乗り鉄”で、旅の手段としての鉄道が子どもの頃から好きなんです。鉄道好きという趣味もいろいろ分類されるようになってきて、タモリさんのように「レールが好き」という変わったこだわりを持つ人もいます。そんな中で、主人公の「駅そのものに惹かれる」という気持ちは、車両のモーター音を聞き分けることにこだわる“音鉄”の人たちに比べれば、私に近いかな(笑)。彼は旅客駅だけでなく、田舎の小さな単線駅とか貨物駅も好きということですから、きっと止まっている車両をゆっくり眺めるのが好きで、そこが「駅に惹かれる」出発点だったんじゃないかなと想像しました。道端で眺めていても電車はすぐに流れていってしまいますが、駅だったらじっくり見られるし、乗客の乗り降りや貨物の積み下ろしなんかも見ることができますし。終盤に出てきた、主人公が新宿駅の9・10番線プラットフォームでコーヒーを飲みながら駅の様子を眺めているというシーンも、敢えて混雑しない特急ホームを選び、のんびりできそうでいいと思いましたね。

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