大手メディアが書けないオバマ礼賛報道の裏

──バラク・オバマ新大統領をめぐる報道の加熱ぶりは、いまさらここで記すまでもないだろう。だが、就任から2カ月、アメリカをはじめとする海外メディアでは、オバマの政治手腕に疑問符をつける報道も出てきた。一方、日本では、相変わらずアメリカ本国からの情報を垂れ流すばかりで、深く踏み込んだ意見はあまり聞かれない。メディア不況が叫ばれる昨今、こんなテイタラクで本当にいいのだろうか――?

 現地時間1月20日(日本時間21日)の大統領就任式。47歳の黒人大統領の誕生は、アメリカだけでなく、世界中の人々に大きな期待を抱かせた。"チェンジ"の呼び声のもと、オバマ大統領は大胆な実行力で、100年に一度といわれる経済危機や長引く宗教・民族間の抗争を解決してくれるのではないだろうか、と。日本のメディアも即座に反応した。「米国が生まれ変わる」と社説で論じたのは、1月21日付の朝日新聞。同紙に限らず、テレビ・新聞・雑誌の多くは、約200万人が集ったといわれる就任式の様子を熱っぽく伝えた。

 しかし、オバマ政権発足から約2カ月。大統領は今、厳しい現実に直面している。一時は80%近くに迫った支持率は、アメリカ国内の雇用不安の高まりに伴い、2月末には60%を割り込んだ。さらに顕著なのは、株式市場の低調ぶりだ。2月末日現在、アメリカの代表的な株式指標であるダウ工業株30種平均と、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)500種株価指数はそれぞれ、年初より20%の下落を記録。これは、1933年の指数算出開始以来、最悪の下落率であるという(日本経済新聞3月1日付)。

 オバマ大統領本人が強調するように、同政権の最大のテーマは経済危機対策だ。事実、政権発足からわずか20日で、総額7870億ドルの景気刺激策が議会を通過したほか、シティバンクやAIGといった金融機関への追加救済策が矢継ぎ早に打ち出された。これは、麻生政権における遅々として進まない経済政策とは好対照であり、日本のマスコミの多くが「さすが政策実現のスピードが違う」と喝采を送ったことは記憶に新しい。

 しかし、株式市場の反応が端的に示すように、世界の経済界の大方は、オバマ政権による景気刺激策は「不十分」であり、金融機関の救済案も「その場しのぎのものにすぎない」と見ているようだ。たとえば、景気刺激策は当初、総額9000億ドル超に上ると報じられたものの、共和党の反対で大きく減額された。また、金融危機への特効薬として期待されたバッドバンク(不良債権の受け皿となる銀行)構想は、不良債権を買い取る財源の確保への懸念から大幅に後退し、官民共同のファンド設立構想へと形を変えてしまった。

 こうした経緯を受けて、アメリカの株価は続落。オバマ政権はいずれ、追加の対策案を出さざるを得ないだろうと見られている。一方、共和党を中心とする財政均衡派からは、多額の財政出動がいずれ米国債の暴落を招くのではないかとの批判も根強い。

 当初はオバマ大統領への期待感を強くにじませていた米メディアの論調も、次第にシビアになってきている。アメリカでは、大統領の就任後の100日間は批判的な報道を差し控えるという慣例があるが、オバマ政権についてはすでに、ガイトナー財務長官らの税金未払い問題など、複数の"疑惑"が報じられている。こうした異例の報道によって、厚生長官をはじめとする重要閣僚の任命が遅れる事態が生じており、恒例の"大統領ハネムーン期間"は、早くも大荒れの様相だ。先日、「NEW YORK POST」がオバマ大統領をサルに見立てた風刺マンガを掲載して「人種差別的」と批判されたが、これも米メディアの中で、オバマ政権を揶揄する気運が高まっている表れと言えなくもない。

 さらに3月に入ると、オバマ政権はイラクからの米軍撤退を宣言し、外交・軍事においても重大な局面を迎えている。大統領選挙時の公約だったとはいえ、イラク当局ははたして米軍抜きで治安を維持できるのか。予想よりも早い撤退宣言に対しては、オバマ大統領は大きな賭けに出たとの見方がもっぱらだ。いずれにせよ、経済・外交・内政において、オバマ政権が直面する課題はきわめて大きい。

 ひるがえって日本のマスコミは、オバマ政権が抱える問題点をきちんと報道してきたと言えるだろうか? 現在の日本が良くも悪くもアメリカの強い影響下にある以上、オバマ政権に対する冷静な検証は必要不可欠である。しかし、麻生政権の体たらくを批判するあまり、オバマ政権を必要以上に持ち上げる傾向はなかっただろうか。たとえば、巨額の財政出動を伴う景気刺激策について、アメリカはいずれ日本になんらかの資金的援助を求めてくると予測されるが、日本の大手マスコミは踏み込んだ報道を行えていない──。

 今回の特集では、オバマ政権の誕生から現在に至るまでの報道内容を検証しつつ、一連の報道から見えてくる日本のマスコミの問題点をも明らかにしたい。

(取材・文/神谷弘一(blueprint))

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