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クロサカタツヤのネオ・ビジネス・マイニング』第51回

【クロサカタツヤ×美谷広海】ものづくり大国ニッポンは幻想!? 中国のスマート工場から見える世界の製造業のリアル

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通信・放送、そしてIT業界で活躍する気鋭のコンサルタントが失われたマス・マーケットを探索し、新しいビジネスプランをご提案!

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――川崎重工の新幹線台車製造ミス、神戸製鋼の鋼材品質偽装、東洋ゴムの免震ゴムの偽装、自動車メーカーのリコール隠し、東レのタイヤ部材の偽装などなど、名だたる日本の製造業者による数え切れないほどの製品の不祥事。中国や韓国に数では負けても、質では負けないのが自慢だったはずが、それすら実は張り子の虎だったと露呈したニッポン。一体全体どうしてこうなった!?

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今年開催された、MWC2018の模様。毎年バルセロナで開催されており、世界中から注目を集める。

クロサカ 今回はスペインのバルセロナで開催されている、モバイル・ワールド・コングレス(MWC)【1】というモバイル業界の見本市に来ています。そこで、世界のものづくり事情に詳しい美谷さんがいらっしゃったので、これ幸いと対談することにしました(笑)。

美谷 MWCに併催されているフォー・イヤーズ・フロム・ナウ(4YFN)というスタートアップ企業のための展示会があって、そこでアナログ電話をIoTデバイスにしてしまう「hackfon」という製品を展示しました。

クロサカ 4YFNの会場はどうでした?

美谷 ハード系が少なくて、AIとかビッグデータなどのソフト系が多かったですね。ただ、展示の仕方やブースの見せ方は、正直なところあまり工夫がなかったかな。それでも韓国には勢いを感じました。政府が展示費を補助しているそうで、50社くらい来ていました。意外なことに、中国やフランスの企業が全然いなかった。

クロサカ フランスは、MWCのメイン会場ではそれなりにそろっていて、中国はファーウェイのような個別企業こそ「主役級」だけど、小さなものづくり企業はあまり見かけませんでしたね。アメリカのCES【2】で山ほど見たのとは対照的です。

美谷 MWCはモバイル業界がメインなので、ものづくり系とは相性が悪いのかもしれない。ただそれだけじゃなくて、どうもスタートアップ全体が袋小路に入っている感じもします。

クロサカ フェイスブックやUberといったIT系スタートアップは、どれも急成長するものだと思われがちですが、実は地道に成長のステップを歩んでいく企業も多い。それに、無理に会社を大きくしようとすると、逆に強みが消えてしまうこともある。でも、多くの投資家は前者のような成長モデルを期待するので、そこに齟齬が生じているのかも。

美谷 自分の会社をどうしていくのかはいつも考えているんですが、やっぱり大きくするのは難しいと思っています。だから、目指すのはハードウェアのスタートアップに関して人や企業と多くのネットワークを持った、少人数のマイクロスタートアップと呼ばれる形態です。例えば、この4YFNみたいなイベントに来て終わりではなくて、低コスト体制で継続して繋がりを構築したいと考えています。

クロサカ 従来の日本的なものづくりの課題にも似ていますね。日本にも職人や町工場はいっぱいあって、技術も高いんだけど、それをビジネスにつなげることができてない。

美谷 平昌オリンピック直前に、下町ボブスレー【3】が話題になったじゃないですか。あれは典型的な日本のものづくりの欠陥かもしれない。

クロサカ ちゃんと分析すべき事例ですよね。

美谷 書籍を読むと、前回のオリンピック採用選考の1カ月前に完成して、そこからテストで最終調整をしようとしていたんです。でも、速いボブスレーを作るには、どうしたら速くなるか仮説を立てて、それに基づいて3パターンの試作品を30%くらいの完成度で作って、どれが良いか検証して、開発を詰めていく。ソフトウェア開発でいうアジャイル型【4】じゃないと絶対にだめ。いろいろな間違いが複合的に発生しているんだと思います。例えば、4年前にボブスレーの日本代表はラトビア製のそりを選んでいますが、その時点で、なぜラトビアのそりが選ばれたのか、自分たちのそりはどこが劣っていたのか、関係者の著書を読む限りは根本的な分析をしていないようでした。

クロサカ どこに向かって進めばいいのか、わからないですね。もちろん、作り手にも言い分はあると思うので、一方的に断罪できませんが。

美谷 ラトビアのそりを入手できなかったり、そのそりを持つ日本代表選手にコンタクトできなかったりとか、理由はあるんですが、そういった点をクリアできなかったところも含めて全体の戦略が間違っていたと思います。

クロサカ アジャイル型というとソフトウェア開発の考え方だと思われがちだけど、何をするにしても仮説検証っていう科学的アプローチは、普通になされるべきことです。下町ボブスレーの話を聞いていると、アジャイル云々以前に、日本のものづくりが科学的アプローチを見失っているという、かなりヤバイ状態に思えます。

美谷 職人的なものの作り方は、ひとつの完成形だけを目指すから、それ以外の可能性は切り落とされます。すごく尖ったものができるかもしれないけれど、幅が狭いものになってしまう。

クロサカ ここ数年、そうした日本の旧来的なものづくりが、破綻しつつあるのかもしれません。問題の性質は異なりますが、新幹線の台車破損における川崎重工にしろ、エアバッグの欠陥で経営破綻したタカタにしろ、自分たちで問題を把握できていなかった。そこには、製品自体や製造プロセス、サプライチェーンが複雑になったのに、環境変化に対応しきれていないという日本全体の問題がある気がします。

美谷 よくいわれるのが、メーカーがすでに自分たちでものを作っていないという実態です。単に協力工場へ仕様を投げているだけという体制もあって、そのメーカーのロゴが付いているのに、そのメーカーのエンジニアが設計も試作もしていないという製品はたくさんある。その理由は、大企業がR&D部門をコスト削減で捨てていっているからです。研究部門でドクターを雇うのに2000万円掛かるんだったら、同じお金で外部のスタートアップ企業に投資したほうが、割が良いと考える。実際ドクターを雇うって、単に対象者の人件費だけでなく、億単位での経費が掛かりますからね。でも、アウトプットが出てくるとは限らない。だったら、スタートアップに投資したほうが、期待できる。

クロサカ スタートアップの側から見ると、投資を受けやすい環境だし、エグジットのひとつとして大企業の一部門という形で買収されるという可能性も出てきます。一方で、大企業の側に、そうしたスタートアップや、そのアウトプットをちゃんと使いこなす能力が必要になる。

美谷 その能力は、あんまりないんじゃないかな(笑)。投資や買収したスタートアップのアウトプットをちゃんと使いこなすには、大企業のほうが核になる技術とエンジニアを持っていないとできない。メーカーなのに、資金と販売網しか残っていない会社もありますからね。

クロサカ これまで日本企業はすごい製品を作ってきて、ブランドもあるのに、その強みをどこかで手放してしまった。世界を見渡してみると、売れている物、良い物を作っている会社は、そういうことができているように見える。

美谷 例えばファーウェイとかアップルは、間違いなくしていますよね。アップルなんか、使っている部品の発注先の工場に、必ず自社のエンジニアを張り付かせている。そのエンジニアが、シャープとか日本企業から引き抜いた人だったりします。そうやって、グリップしないといけないところを見極めて、ちゃんとお金や人を出すということが、日本企業にはできてない。

クロサカ あるアップルの孫請けをやっていた日本の小さな工場を知っているんですが、彼らにとってアップルはエグいほど厳しいのだそうです。でも、エグいということは、大事なところをグリップできているということでもある。

美谷 そういう日本企業はいないですよね。単に発注するだけの人になっている。

クロサカ 川崎重工やタカタや、多発する品質偽装問題にしろ、ダメになっている。すべてを同一視してはいけないと思いつつ、これだけ頻発すると、正直、厳しいですね……。

美谷 逆に中国の工場は、ものすごく進んでいるところも出てきている。ハイテク製品じゃなくて、ネックレスみたいな安価なアクセサリーを作っているスマート工場を2月に見てきました。製品や部品のリストがすべてタブレットで管理されていて、何かを発注すると在庫数がリアルタイムでわかる。マニュアルもすべてタブレットだし、工場のどのラインで、どの部品を何個作っているか、すべてモニターされているから、隙間時間が見える。だから納期も一目瞭然で、コストもさがって、製造期間も短縮される。そして少量多品種生産が可能になる。こんなことができる日本の工場を僕は知らないです。

クロサカ 普通に考えて、「2018年にあるべき工場」ですね。中国って、安い人件費で人手を集めて、人海戦術的に大量生産をするイメージでしたけど、最先端をいっていますね。

美谷 もちろん、こういう最新工場は中国でも一握りです。一方で、日本の高性能な工作機械が世界中にばらまかれた結果、誰でも平均点のものづくりができるようになりました。そうなったときに、中国だけなく機械を一番使いこなしているところを探して、学ばないといけない。でも、学ぶべき先を見いだす「目利き」も簡単ではない。そこから努力をしないと、オープンイノベーションとかはやりの言葉に飛びついても、無駄になる可能性が高いです。

―対談を終えて―

 私はMWCに、少なくともこの10年以上、ほぼ皆勤賞で参加しています。継続参加しているといろいろなことが「定点観測」できるようになります。その視点で見ると、今回の対談に関連すると、「もはや中国は王者の風格を装いつつある」ということです。

 MWCでは、いわゆる「中国ブース」のように国全体で出展に取り組んでいるわけではありません。モバイル産業の個別企業である、ファーウェイ、ZTE、レノボなどの企業が活躍しているということです。中でもファーウェイに関しては、もはやMWC全体を牽引するような存在として、お膝元の欧州はもとより、日本や米国の企業をも圧倒する存在感でした。

 こう書くと「お前は中国シンパなのか」「最近の中国IT礼賛ブームに興じているのか」と思われる向きもあるかもしれません。しかし情報セキュリティに関する仕事にも取り組み、また西側諸国の価値観で生活や仕事を営む人間としては、我が国にとって中国が極めて難しい存在なのは、重々承知なのです。

 その上で、「これは勝負あったと言わざるを得ないか……」というほどの地位に、彼らはいます。そしてもはや「オラオラ」という威圧感はありません。世界の通信産業全体のために何をすべきか、という「守護者の自覚」を、彼らが備え始めたようにさえ、思えたのです。

 ある意味で打ちのめされた私にとって、この対談は「追い打ち」でした。しかし、日本のものづくりの劣化と中国の台頭は、コインの裏表。すなわち、対談を通じて私が得た感覚は、むしろ自明とさえ言えるかもしれないのです。

 このまま対談を終えると、「お先真っ暗」になってしまいます。しかしそこで無理矢理明るい話を探すのではなく、一度きちんと現実を受け止めなければならない。その上で、課題を乗り越える時に必要な準備を進めることが、今改めて求められているように思います。

美谷広海(みたに・ひろうみ)
グリーや楽天を経て、ハードウェアスタートアップのCerevoで海外セールスを担当。17年8月にFutuRocketを創業し、独自のハードウェアの開発を手がけるほか、日本のハードウェアスタートアップの欧州進出や欧州の企業の日本進出を支援する。

クロサカタツヤ
1975年生まれ。株式会社 企(くわだて)代表取締役。クロサカタツヤ事務所代表。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティングや国内外の政策プロジェクトに従事。07年に独立。「日経コミュニケーション」(日経BP社)、「ダイヤモンド・オンライン」(ダイヤモンド社)などでコラム連載中。

【1】MWC
モバイル関連事業者の業界団体「GSMアソシエーション」が取材する展示会。毎年2月頃にスペインのバルセロナで開催されている。あくまでも業界向けなので、端末だけでなく基地局などインフラの機材や技術が多数紹介される。

【2】CES
米国で毎年1月に開催される家電の展示会、コンシューマー・エレクトロニクス・ショーのこと。家電とつくように、本来は消費者向け電機製品のメーカーと小売業者の商談の場だが、年始に行なわれるのでその年のトレンドを展望することができる。

【3】下町ボブスレー
東京都大田区の町工場を中心に技術力アピールのため官庁や企業の支援を受けてそりを開発。しかし、使用契約を結んだジャマイカ代表女子チームが、五輪直前にほかのそりを使うと決めたことから、下町ボブスレー側と激しく紛糾した。

【4】アジャイル型
ソフトウェアを小さな機能に分割し、素早く短いサイクルで開発していく手法のこと。最初に完全な設計と予定を作り、それを逐次進めていく従来的な手法(ウォータフォール型)よりも、予定変更や状況変化に柔軟に対応できるとされている。

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