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連載
「マル激 TALK ON DEMAND」【133】

【神保哲生×宮台真司×中島岳志】ポスト・トゥルース時代の保守とリベラルの役割

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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『「リベラル保守」宣言』(新潮社)

[今月のゲスト]
中島岳志[東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授]

民進党が分裂し、自公連立与党の大勝に終わった先の総選挙。分裂のさなか、旧民進党リベラル勢力の受け皿として結党された、立憲民主党の枝野幸男代表は、自らを「保守」と位置付けるなど、日本の政治で「リベラル」の行き場がなくなりつつあるような状況が続いている。左翼や革新と混同されがちなリベラルだが、果たして“終わって”しまったのか?

神保 今回は「ポスト・トゥルース(客観的な事実よりも、むしろ感情や個人的信条へのアピールの方がより影響力をもたらすような状況)時代の保守とリベラルの役割」というテーマで議論したいと思います。少し主題からはずれるかもしれませんが、トランプ政権がエルサレムをイスラエルの首都として認定したことが、大きな波紋を呼んでいます。宮台さんは、これをどう見ていますか?

宮台 過去20年ほど、ポピュリズムの話がなされています。特に極右的な勢力が台頭する背景は、イデオロギーよりむしろポピュリズムだと。つまり人々は鬱屈すると、溜飲が下がるような排外的な振る舞いを支持しがちで、票が入りやすくなる。他方で、リベラルは「仲間内で」シェアするという発想であって、それゆえに国民国家が仲間だと認識できなくなれば、「なんでこんなヤツに分け与えるんだ」と、やはり排外的になっていく。

 これはどちらもイデオロギーの問題とは関係なく、むしろソーシャル・キャピタル、中間層が分解していくプロセスで、必然的に生じてくる非常にわかりやすい立場です。昔からフランクフルター、フロイト左派が言っていたように、これは全体主義の背後にあるもので、埋め合わせの道具は別になんでもいいんだと。

神保 エルサレムは、パレスチナも自分たちの首都だと主張しています。しかし、アメリカではイスラムと比べてユダヤ教徒とキリスト教徒が圧倒的に多数派ですから、特にキリスト教右派を支持母体に持つトランプにとって、これは政治的には理にかなった判断だったのかもしれません。しかし、それはあくまでアメリカの国内的な事情であって、イスラエルとパレスチナの仲介役を務めてきたアメリカが、突然一方に肩入れする決定をしてしまった以上、中東和平プロセスが暗礁に乗り上げることは必至です。

宮台 ただ、どう見てもアメリカは斜陽で、そもそもかつてのような役割は果たせなくなっています。ヘゲモニー国家のようなものは、中国を除いては、おそらくもう成り立たない。

神保 ヘゲモニーを握り続けるためには、仲間だけでなく、仲間ではない人たちのためにも、いろいろと負担しなければなりませんからね。前置きが長くなりましたが、ゲストは東京工業大学教授の中島岳志さんです。エルサレム問題について中島さんは、どうご覧になっていますか?

中島 おっしゃる通り、90年代の終わりから20世紀後半にかけて世界を支配してきたアメリカのヘゲモニーは、明らかに下がってきています。そんな中で、日本では「日米安保の堅持が現実主義だ」と語られていますが、現実は、もう少し先に行っている。

宮台 皮肉なことを言えば、「アメリカについていく以外の外交的、政治的な選択肢、リソースがない」という現実に適応しているとは言えます。しかし、そのクズな現実を放置してきたことは、本当に口惜しい。

神保 宮台さんが最初に触れた「リベラルが成り立たなくなってきている」ことは、今回のテーマのひとつになると思います。これまでの考え方の延長線でのリベラルは成り立たないかもしれないが、リベラル的な思想がもしこの世から完全に失われてしまった場合、それが現在の世界の秩序にどんな影響を及ぼすのかも、考えておかなければなりません。

宮台 ジョン・ロールズが1971年の『正義論』(紀伊國屋書店)で言ったことですが、リベラルは「再配分」の前に、実は抽象的な原理があります。それは「お前が俺でも耐えられるのか? 耐えられないなら制度を変えろ」というもの。要するに、再配分は手段であって、ロールズの規定に従えば、「結果の平等」的な思想とは関係ない。再分配はなされても、アダム・スミスであれば同感(シンパシー)というような営みが人間から欠ければ、それは社会ではなくなる。そして、実際にものすごい勢いでそうなりつつある現実がありますね。

神保 最初に結論を聞いてしまいますが、ロールズ的な正義としてのリベラルというものが成り立たなくなった場合、別の形のリベラリズムの再構築はあり得るのでしょうか?

中島 僕の立場を言うと、リベラルと保守というものをひとつの土台に載せて、そこから新たに立ち上げないといけないと考えています。日本ではどうしても「リベラル=左翼」と思われがちでしたが、これは冷戦崩壊以降に出てきたひとつの新しい概念で、「保守」対「革新」の構図にさかのぼります。この「革新」が崩壊したあとにつかんだ言葉が「リベラル」で、しかし、この保守とリベラルというのは、もともとヨーロッパ的な概念では対立するものではまったくない。

 僕が非常に大きな影響を受けた西部邁さんは、理性は万能ではなく、どんなに頭がいい人でも、完全な制度をつくることはできないとします。その懐疑主義的な観念は自分にも向けられ、多様な人たちの意見を聞きながら合意形成を行い、そのルールやマナーを大切にするのが保守である――つまり、保守こそがリベラルマインドを持っていなければならないのだと。僕はその延長線上にもう一度、リベラルを定義し直したいと考えています。

宮台 おそらく中島さんとシンクロする部分があるのですが、僕は90年代前半に援助交際を広めたとして、ずいぶん左翼、フェミニストから責められました。彼らは言葉の自動機械になっていて、西部邁さんの枠組みで言えばコモンセンスを欠いているから、法や制度に対して「違反しているじゃないか!」と噴き上がる。97年くらいになると、まさに言葉の自動機械たる「新しい歴史教科書をつくる会」が出てきて、左も右もこういうふうになるんだと。両方ともコモンセンスを欠いているという意味で、もう思想とは言えない。

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