>   >   >  小原真史の「写真時評」/「物言わぬ勇士たち」の 戦争(上)
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写真時評~モンタージュ 現在×過去~

「物言わぬ勇士たち」の 戦争(上)

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「軍用犬舎 欄柵ノ一部ト軍用犬」年代不詳、絵葉書、個人蔵

 総力戦とは、銃後の国民を含めた総力を結集した戦争のことだが、第一次・第二次大戦中には、人間や機械だけでなく、馬や鳩、犬などさまざまな動物も含めたあらゆる資源が動員された。その中でも高い身体能力や殺傷能力を持ち、人間との心的距離の近い犬は、軍用犬として前線へ送られ、ときに兵士たちの愛玩の対象となった。

 手元に1枚の軍用犬の写真がある。正確に言えば、1枚の写真というよりも3枚の写真が貼られた家族アルバムの1ページで、そこには首に日の丸をつけ、スタジオの書き割りの背景画の前でお座りをする1匹のシェパードの写真が貼られている。背景にあるほうの日の丸やのぼり旗には、「祝出征」「軍用犬ベルドー号」「魂」「祈武運長久」「昭和八年八月」「白井宏」などという文字が確認できるが、この日の丸が書き割りの窓が開いた部分に留められているため、壁に描かれた窓やカーテン、花瓶などは背景としての役割を果たしていない。というよりも、もともと写真館自体が人間の撮影用に作られた空間のため、犬の頭の位置に合わせたローアングルでの撮影には向いておらず、背景画がイリュージョンとしての機能を果たしていないのだ。わざわざ写真館に出向いて撮影されたこの写真は、出征するベルドー号が人間とまったく同じように日の丸やのぼり旗に飾られて送られたことや、撮影後の写真が家族アルバムの一部として保存されていたことを示している。この写真が持ち主の手を離れた経緯はわからないが、少なくともこのベルドー号が1933(昭和8)年頃に家族の一員として大切に飼われながらも、軍用犬として戦地に送り出されたことは、明白だろう。もしかしたら人間と同じように、万歳三唱で送られたのかもしれない。この写真が象徴的に示しているように、人間と犬との親密な絆は、ほかの動物と比べても例外的なものだ。犬の出征は人間の出征と重ね合わされることもあったし、逆もまたしかりだった。

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