>   >   >  小原真史の「写真時評」/「物言わぬ勇士たち」の 戦争(上)
連載
写真時評~モンタージュ 現在×過去~

「物言わぬ勇士たち」の 戦争(上)

+お気に入りに追加
1707_044_520.jpg
「軍用犬舎 欄柵ノ一部ト軍用犬」年代不詳、絵葉書、個人蔵

 総力戦とは、銃後の国民を含めた総力を結集した戦争のことだが、第一次・第二次大戦中には、人間や機械だけでなく、馬や鳩、犬などさまざまな動物も含めたあらゆる資源が動員された。その中でも高い身体能力や殺傷能力を持ち、人間との心的距離の近い犬は、軍用犬として前線へ送られ、ときに兵士たちの愛玩の対象となった。

 手元に1枚の軍用犬の写真がある。正確に言えば、1枚の写真というよりも3枚の写真が貼られた家族アルバムの1ページで、そこには首に日の丸をつけ、スタジオの書き割りの背景画の前でお座りをする1匹のシェパードの写真が貼られている。背景にあるほうの日の丸やのぼり旗には、「祝出征」「軍用犬ベルドー号」「魂」「祈武運長久」「昭和八年八月」「白井宏」などという文字が確認できるが、この日の丸が書き割りの窓が開いた部分に留められているため、壁に描かれた窓やカーテン、花瓶などは背景としての役割を果たしていない。というよりも、もともと写真館自体が人間の撮影用に作られた空間のため、犬の頭の位置に合わせたローアングルでの撮影には向いておらず、背景画がイリュージョンとしての機能を果たしていないのだ。わざわざ写真館に出向いて撮影されたこの写真は、出征するベルドー号が人間とまったく同じように日の丸やのぼり旗に飾られて送られたことや、撮影後の写真が家族アルバムの一部として保存されていたことを示している。この写真が持ち主の手を離れた経緯はわからないが、少なくともこのベルドー号が1933(昭和8)年頃に家族の一員として大切に飼われながらも、軍用犬として戦地に送り出されたことは、明白だろう。もしかしたら人間と同じように、万歳三唱で送られたのかもしれない。この写真が象徴的に示しているように、人間と犬との親密な絆は、ほかの動物と比べても例外的なものだ。犬の出征は人間の出征と重ね合わされることもあったし、逆もまたしかりだった。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミア

2017年10月号

(裏)動画案内2017

(裏)動画案内2017

チラリと魅せる和モノ写真進化考

チラリと魅せる和モノ写真進化考
    • みうらうみ「現役音大生の(禁)水着」

哲学的アニメ批評的水着グラビア

哲学的アニメ批評的水着グラビア
    • 【鹿目凛】と東大教授の化学反応

インタビュー

連載

    • 【青山ひかる】ニコ動が好きなんです。
    • 【藤田ニコル】彼氏と聴いてたback number
    • 『ユアタイム』、下から見るか?横から見るか?
    • 日本企業の【AI・IoT】は絶望的な結果!?
    • ゲス不倫くらいで騒ぐな!地下格闘技を見ろ!
    • 【菊地成孔】ミュージシャンと文筆家、2つの顔トーク
    • 思い出を作る【米軍基地】の盆踊り
    • 哲学者・萱野稔人の「"超"哲学入門」
    • 【2パック】ラッパーの物語が銀幕へ
    • 世界はいま本当に【テロ】の時代か?
    • 【アダルトチルドレン】ですべては親のせい!?
    • 町山智浩の「映画でわかる アメリカがわかる」/『デトロイト』
    • 【理工系優位】がもたらす大学教育と知の劣化
    • 小原真史の「写真時評」/戦死者たちの肖像(中)
    • 打ち上げミサイル、下から見るか?横から見るか?
    • ジャングルポケット/ずっと舐めていられる!擬似ちくびの魅力
    • 【打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?】女心と秋の空は、まるで神隠し
    • 「バイオクイーン」ショコラの果てなき野望
    • 辛酸なめ子の「佳子様偏愛採取録」
    • YouTuberよどこへ行く…幽霊、現代香具師たちの難儀な炎上
    • 『花くまゆうさくの「カストリ漫報」』