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磯部涼の「川崎」【第十一回】

【磯部涼/川崎】負の連鎖でもがく女たちの川崎

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日本有数の工業都市・川崎はさまざまな顔を持っている。ギラつく繁華街、多文化コミュニティ、ラップ・シーン――。俊鋭の音楽ライター・磯部涼が、その地の知られざる風景をレポートし、ひいては現代ニッポンのダークサイドとその中の光を描出するルポルタージュ。

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川崎区の仲見世通にあるバーで踊る、GO-GOダンサーたち。

 100年前の川崎の夜も、こんなふうに欲望が渦巻いていたのだろうか。ビルの2階にあるガールズ・バーで、窓の外の喧噪を眺めながら思った。

 川崎駅東口に出ると、正面に“仲見世通”というアーチが見えるだろう。それをくぐってしばらく進むと、通りはキャバクラだらけになる。また、東口から左手の方角には堀之内、右手の方角には南町というソープランドで有名なエリアが広がっており、いわゆるちょんの間も現存する。そういった風俗街としての川崎のルーツは、1623年に設置された東海道五十三次、2つ目の宿場・川崎宿の客のために作られた遊郭群にまで遡れるのだという。以来、川崎は男たちの欲望をエネルギーとして発展、一方、女たちもその中でしたたかに生き抜いてきた。

 そして、今、眼下では、前の店のシャッターに汚い格好をした老人が酔い潰れてもたれかかり、それを若者たちがからかっている。その横では、スーツ姿のサラリーマンたちがキャバクラの呼び込みと交渉している。「さあ、ダンス・タイムはまだまだ続きますよ! 楽しんじゃってください!」。中階段から、ジャスティン・ビーバー「ソーリー」に乗せてマイクで煽る声が聞こえてきた。3階では、テーブルで踊るGO-GOダンサーの水着に、男たちがチップ代わりのドル札をねじ込む酒池肉林が続いているのだろう。みんな、そちらに行ってしまって、2階に客は自分しかいない。すると、階段をひとりの男が降りてくる。「何か面白いものでも見えますか?」。この店のスタッフで、STICKYという名前でラッパーとしても知られる彼は、気だるい口調で言った。「この街は、いっつもこんな感じですよ」。窓の外を、露出の多い格好をしてイヤフォンを付けた若い女が、慣れた足取りで酔客を避けながら通りすぎていく。

繁華街のローソン前に立ちナンパ待ちをして寝床を確保

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ラップユニットSCARSの一員であるSTICKYが、そのバーでDJをしていた。

「遅くなってすいません、店の前でファンの子につかまっちゃって」。君島かれんは、川崎駅前の居酒屋の個室に、息を切らせながら入ってきた。ジム帰りということでラフな格好をしているが、目を引く華やかさがある。「しゃぶしゃぶ、頼んでもいいですか? ウチ、肉食なんで」。そう笑いながらメニューをめくる彼女は、新進気鋭のGO-GOダンサーで、川崎を代表するラップ・グループ、BAD HOPのMVに参加したほか、タレントとしてテレビにも進出し始めている。「あ、飲み物はウーロン茶でいいです。お酒はやめたから。16のときに、飲みすぎて身体を壊しちゃって。それまでは、仲見世通を“鏡月”の瓶、持ちながら散歩してました」

 96年生まれの君島の地元は、神奈川県横浜市鶴見区だ。ただ、最寄り駅は京浜急行では京急川崎駅の隣にあたるため、子どもの頃から川崎区は身近な土地だったという。「お母さんが元ヤンキーでイケイケで、ヒップホップのダンサーだったんですよ。だから、ウチも3歳から始めて、14歳まではがっつりダンスをやってて。でも、遊ぶのが楽しくて家出状態になって」。そこから、文字通りのストリート・ライフが始まる。「毎日、仲見世通のローソンの前にしゃがんで、ナンパ待ちしてました。で、声かけてくるヤツがいい感じだったら、タダ飲み、タダカラオケ、タダご飯。最高かよって」。そして、遊び疲れれば、通りの裏手にある女友達の家で眠るのだ。「でも、その友達はフィリピンの子で、ウチと同じようにグレてたから、親に『更生しろ』ってフィリピンに送り返されちゃって。仕方がないんで、ナンパで寝床を確保するようになりましたね。必ず複数で行ってましたけど。ひとりだとムラムラされるのが面倒臭いから」。当時の君島は、そんな楽しい日々がいつまでも続くと思っていたという。

援デリ、シャブ中、中絶……不良少女たちのダークサイド

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左上:ラップ調であおる、バーの若いスタッフ。 左下:ダンサーたちは、バーカウンターの上で挑発的に踊る。
右:ダンサーにチップを与えた客は、刺激的なサービスを受けることも。

 この連載では、これまで、主に不良少年の視点から“川崎”を描いてきた。しかし、街の実態を知るためには、当然、不良少女にも話を聞かなければならないだろう。例えば、3歳で川崎市の姉妹都市である中国の瀋陽市から移住してきた、現在20歳のリンユー(仮名)は、中学校に入学した際、不良の洗礼を受けたと語る。「女の先輩に公園に呼び出され、『ピアスの穴を開けてるヤツはシメるから耳出せ』と言われて。私、開いてたんで、ヤバいと思ったんですけど、とっさに『中国の風習なんです』って言ったらごまかせました」。しかし、その後、彼女は半ば強制的にレディース(暴走族)に加入させられてしまう。「ブラジル人の女の子とタイマンをやらされたときはキツかったですね。その子が無痛症みたいで、コルク(暴走族のヘルメット)で頭をバーンって引っぱたいてもムクッて起き上がってきて。最後はボコボコにされました」。また、川崎の不良少年を苦しめるカンパ(上納金)制度は、不良少女の世界にも存在するという。「カンパが回ってきたら、カツアゲで金を集めたり、しまいには仲間内で盗みが横行したり。みんなで酒飲んで、寝て起きたら財布がスッカラカン。最悪ですよ」

 一方、不良少年と不良少女の一番の違いは、後者が金を稼ごうとしたとき、性が資本になるということだ。やはり現在20歳のナナ(仮名)は、中学時代からキャバクラで働いていたと話す。「派遣キャバに登録すれば、会社のほうで年齢をごまかしてくれるんで、アンダー(年齢制限以下)でも働けるんです。18歳として派遣されるっていう」。やがて、彼女はさらなる儲けを求めて、援助交際に見せかけた裏風俗、いわゆる援デリを組織し始めた。「まず、私が出会い系サイトで目ぼしい男を見つけて、値段を交渉。で、川崎駅前の待ち合わせ場所に、他の女の子に行ってもらうという。私の取り分としては、イチゴー(1万5000円)だったら5000円もらうし、ニ(2万円)だったら1万円もらうし、ナナゴー(7500円)だったら『しょうがないから、私の分はいらないよ』って言ったり。逆にサン(3万円)以上だったら自分で行ったりしてた」。しかも、ナナは暴力団のようなケツ持ちをつけないインディペンデントだったのだ。「自分でビブ横(横浜ビブレ)まで女の子をスカウトしに行ってましたからね。『君、可愛いね~、儲けられるよ』って。この間、居酒屋で店員の子に『あれ? 昔、ナンパされたことあります!』と言われて、懐かしかったな」

 もちろん、性を資本にすることはリスクを伴うし、不良に限った話ではないが、プライベートな交際でも苦労するのは、大抵、女である。24歳のミサキ(仮名)は「ダメ男とばっかり付き合ってきました」と言う。「ちょっと前まで同棲してた男はハンパないソクバッキー(束縛魔)で、遊びに行かせてくれないんですよ。最初は反抗してたけど、口が達者で、逆に私は頭の回転が遅いから、いろんなことを言われると意味がわからなくなって。途中から面倒臭いし、反抗するのはやめました」。その上、男はヒモだった。「そいつはバイクで事故って、身体に麻痺が残ってたんで、障害者手当をもらってた。でも、全然、動けるんですよ。それなのに『手当がもらえなくなるから』と言って、働かなくて。しかも、家のこともやらない。私だけが仕事から帰ってきてヘトヘトなのに、ご飯をつくったり掃除をしたりっていう。そいつは、最後、『株だったら儲けてもバレないから、株の勉強をするんだ』とか言ってましたね。何もやってないと思うけど」

 堀之内のソープランドに勤める22歳のアイ(仮名)は、「頭が悪いんで、コンビニの面接も落ちちゃうんですよ。働けるのはここぐらいで」と笑う。死んだ飼い犬の足形を背中に無数に彫っている彼女の、以前の恋人はドラッグ・ディーラーだった。「もともと、私もジャンキーだったんですけどね。最初は高校生のとき、川崎駅前でナンパしてきた男に『新種の煙草だよ』って脱法ハーブのジョイント(紙巻)を吸わされて、『くっさ! 何これ?』と思ったらフワーッとして。そこからハマって、赤玉(睡眠薬)食って渋谷のサイケ箱(クラブ)に行ったりしてましたね。ヒップホップの箱は年齢制限厳しいけど、サイケは緩いから」。やがて、彼女は男に誘われ、深みにはまっていく。「それでも、シャブだけはやらないようにしてたんです。なのに、そのディーラーとセックスしてたとき、ケツの穴に塗られて。しまいにはポンプ(注射)まで。だんだんと量を増やされ、仕事にも行けないみたいな。結局、そいつは逮捕されたんですけど、やっとやめられるって感じでうれしかったですね。私の家にもガサが来そうだったから、慌てて闇医者に行って、血を全部交換してもらいました。今はコークをやるぐらい。“ガイジ”(障がい児)が生まれるって聞いて、ときどきにしてるけど」

 また、前述のミサキは16歳のとき、同棲した別の男との間にできた子どもを堕ろしている。「彼はタメの職人で、ちゃんと働いてました。でも、遊び人で家に帰ってこないんですよ。同棲して3カ月目ぐらいで妊娠したんですけど、生活態度が一向に変わらなくて。で、友達にも『絶対逃げられるから、産まないほうがいい』って言われて、仕方がなく……。周りにはお母さんになってる子が多いんで、出遅れたっていうか、『私もあのとき、産んでればなぁ』って思うことはありますね。まぁ、子どものいる友達も、半分以上は離婚してシングル・マザーになってますけど」

死んだ母親のためにダンスに命を懸ける

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GO-GOダンサーであり、最近はテレビ出演もしている君島かれん。
先月号の本誌連載「プレミアム・エンドルフィン」にも登場した。

 川崎を取材していると、BAD HOPの双子の兄弟、2WIN(T-PABLOW/YZERR)のように、母子家庭で育った若者と頻繁に出会う。あるいは、今年、彼らが出席した成人式には、同い年のシングル・マザーもいた。一方、君島の刹那的な日々に終わりを告げたのは、16歳のときに経験した母親の死だ。彼女は言う。「それでも現実に向き合いたくなくて、家には帰りませんでした。だけど、結局、補導されてお父さんに引き渡されて。さすがに殴られましたね。そのとき、自分でも『ダメだ、ちゃんとしなきゃ』と思った」。やがて、彼女はダンスを再開する。「もう後悔したくないんですよ。今、こういう仕事してると、『あいつ、昔は遊んでたらしいよ』みたいなこと言われて、過去が足を引っ張ることがある。まぁ、そんなことは屁でもないんだけど、やっぱり、もっとお母さんのそばにいてあげたかったなっていう後悔は消えなくて。でも、それはかなわない。だからこそ、お母さんが『もう一回、やればいいのに』と言ってたダンスに、命を懸けてるんです」。不良を卒業して表舞台へ出んとする、2WINや君島を見ていると、その母親たちにとって子育てとは、川崎における負の連鎖を断ち切るための戦いでもあったのではないかと感じる。(つづく

※発言に差別的な言葉および法律的/倫理的に問題のある行動の説明が見られますが、そこに話者が生きる環境や、彼女たちが持っているリアリティが反映されていると考え、そのまま使用しています。

〈協力〉
■Dining Bar Dandelion
住所:川崎市川崎区東田町3-1 本田ビル2・3F TEL:044-276-8384

■川崎無料案内所
URL:http://kawasaki-annai.com

(写真/細倉真弓)

磯部涼(いそべ・りょう)
1978年生まれ。音楽ライター。主にマイナー音楽や、それらと社会とのかかわりについて執筆。著書に『音楽が終わって、人生が始まる』(アスペクト)、 編著に『踊ってはいけない国、日本』(河出書房新社)、『新しい音楽とことば』(スペースシャワーネットワーク)などがある。

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■連載『川崎』が大幅加筆の上、単行本化決定!
『ルポ 川崎』
磯部涼著
BAD HOP、A-THUG、YOUNG HASTLE、KOWICHI、TY-KOH、K-YO、DJ SPACEKID、友川カズキなども登場。
9月中発売予定、1600円+税

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