サイゾーpremium  > ニュース  > カルチャー  > 日本女子は惨敗なんかしていない。浅田真央、宮原知子、本郷理華の輝き

――女性向けメディアを中心に活躍するエッセイスト・高山真が、本サイトで絶賛連載中の「オトコとオンナの裏の裏」。いつもは芸能報道に斬り込んだ内容をお届けしていますが、今回は番外編。フィギュアスケートに造詣が深い筆者が、熱戦を繰り広げた「世界フィギュアスケート選手権2016」を【男子編】【女子編】2回にわたり振り返ります。

前半の【男子編】はコチラ

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『浅田真央公式写真集 MAO』(徳間書店)

 閉幕してほぼ1週間が経つのに、私ったらいまでもフィギュアスケートの世界選手権の映像を流しっぱなしです。特に、女子シングルはショートプログラムもフリープログラムも、過去に例のないほどの激戦で、何度見ても興奮を抑えきれません。
 そうは言っても、試合からすでに5日も6日も経って、それぞれの演技を詳しく解説するだけではさすがに「遅すぎ」ですから、今回はもう少し広い視点から「私がどうしてフィギュアスケート選手をアイドルにしているのか」ということも含めて書きたいと思います。
 まずは試合全体の印象、そして3人の日本人選手について…。

◆ロシア対アメリカ
 今大会、ロシアとアメリカが、それぞれ、何をもって『いいスケート』と考えているか。それがより明確になったような気がします。
 ジャンプの前後の凝ったエッジワークや、エッジワークと連動する、指先までも含めた体の動きに主眼を置いたロシアの若き大器、エフゲニア・メドベデワ。16歳で、「力」ではなく「ひざと足首の柔らかさをいかした体重移動」で、あれだけエッジを使えるのは驚くばかりです。この1~2年で、スケーティングがあれだけ急成長を遂げたのもすさまじい。回転不足をとりようのないジャンプと、着氷後に流れがやや悪くてもエッジワークを入れられる強さも特筆ものです。まあ、「タノジャンプ(片手を上げて跳ぶジャンプ。アメリカの男子シングル選手、ブライアン・ボイタノのトリプルルッツが有名、というか名前の元)の回数制限の議論は起こりそうだわ」という思いもありますが…。

 対して、アメリカのアシュリー・ワグナーとグレイシー・ゴールドは、「スピードと流れ、エフォートレス(まったく力が入っているように見えないこと)で明確なエッジワークこそがフィギュアスケート」という「答え」が、演技全体からほとばしっていました。特にグレイシー・ゴールドのショートプログラムの、「フォア・バック」「イン・アウト」計4つのエッジの滑らかな移行っぷりには目を見張る思いでした。
 やはりアメリカの「理想のスケート」はミシェル・クワン、それも1996年後半から1998年あたりのクワンなんだなあ、としみじみ。ゴールドのコーチはミシェル・クワンを世界チャンピオンにした人でもありますが、その影響もあるのでしょうか。シャーロット・スパイラルもクワンの影響バリバリに受けている感じでしたし(シャーロット・スパイラルはワグナーも使っていましたね)。

 ロシアとアメリカ、どちらが正解か。どちらも正解です。それに順位をつけなくてはいけない審判たちは、本当に大変だったろうと思います。

◆日本勢について
 どこかのメディアが「惨敗」と評したようですが、とんでもない話です。日本勢に限らず、本当に多くの選手が素晴らしい演技をし、スコアの差は本当に小さいものでした。来年の世界選手権はどうなるか、まったくわからないほどの大激戦。これを「惨敗」と評すことは、スポーツそのものをバカにすることと同義だと思います。

●宮原知子
 1シーズンごとに着実に成長している選手です。そして今回、「どの場面を切り取っても、美しい」というスケーターになったと思います。「ピクチャー・パーフェクト」という言葉が英語にありますが、ほんと、「すべてがシャッターチャンス」というスケーターになったなあ、と。特に、ジャンプ着氷時の上体の使い方、フリーレッグのさばき方、しなやかなアームなどは全選手中のトップに挙げたい。体線の美しさ、ポジションにめちゃくちゃ厳しい海外の解説者、ディック・バトン(オリンピック男子シングル2連覇を果たした80代の方)ですら手放しで絶賛するのでは、と思ったほどです。左右どちらでも自然に回れるスピンやツイズルなどの技術もますます上達しているのが素晴らしい!

●本郷理華
 この連載の2つ前の回で「スポーツを観戦するというワクワク感をいっぱいに味わわせてくれる、躍動感あふれる本郷の演技も楽しみ」といった感じのことを書きましたが、期待をはるかに超える素晴らしさでした。個人的には、中国杯で演技が終わった瞬間にテレビの前で拍手をしてしまったフリープログラム『リバーダンス』が、今回はもう! なんと言いますか、「血が騒ぐ度」があのときよりもさらに上がったような。
 たとえば10年後に本郷のことを思い出したとして、私は間違いなく「あの『リバーダンス』は本郷理華のベストプログラムのひとつだった」と回想するでしょう。そして今後、その「ベストプログラム」がますます増えていくことを期待するばかりです。

●浅田真央
 ファンなので、冷静には語れません。以前にも書きましたが、私にとっては「第一線で競技を続けていること自体がありがたい」選手なのです。ただただ、「競技を続けてくれてありがとう。決断は容易なことではなかったはずですが、だからこそ、あの『蝶々夫人』を見ることができました」という気持ちです。

***

 私が、夏のオリンピック種目では体操競技、冬のオリンピック種目ならフィギュアスケートが好きな理由は…。そりゃ、美しいものは好きですが、それ以上の理由はたぶん「採点競技だから」なのかもしれません。タイムや距離といった「絶対値」を競うのではなく、「得点」を競うのではなく、ジャッジたちがつけた「評価点」によって、順位が決まるもの。好きな選手のスコアが伸びないことにやきもきしたり釈然としない気持ちを抱くファンがいるのも自然なことだと思います。というか、私自身、伊藤みどりの時代(特に87年のNHK杯まで)に、自分でも「なんでここまでの気持ちになるんだろう」と思うほどに、釈然としない気持ちばかりを味わってきました。その気持ちは、カルガリーオリンピックの会場の屋根が抜けるほどの大歓声で、美しく成仏したのですが。

 ただ、「フィギュアスケート選手全般をリスペクトする」応援スタイルになってから、また、自分が学生から仕事をするようになってから、変わったことがひとつあります。それは、「スケーターが信じている世界、スケーターが打ち込んでいる世界を、部外者である私も好きだけど、その世界の壁を打ち破ろうとする権利も、打ち破ったときに与えられる栄光も、すべてはスケーターだけに与えられればいい」という考えになったことです。

 比べるのもおこがましいですが、私の仕事も、他者からの「評価」のみで成り立っているようなものです。「何文字書いたか」という「絶対量」は、なんの判断基準にもなりません。私の書くものを「面白い」「つまらない」と評価するのも、私自身ではなく、編集者だったり読者の方々だったり。それが、私の選んだ仕事です。

 というか、世の中の仕事はだいたいそんな感じです。「絶対値」のみで仕事を成り立たせている人は、ごくごく少数のはず。営業成績のようなものも、「他者からの評価が数字になったもの」なわけですから。

 もう一度言います。「比べるのはおこがましい」ということは知っています。しかし、私にとっては伊藤みどりの時代から、スケーターは「他者からの評価の壁を、自分自身の努力やここ一番の集中力で破り、一段二段と高いところへ行く人たち」でした。その姿に、私は「自分ももうちょっとやんなきゃ。周りがどれだけなぐさめてくれたとしても、やるのは自分」という力をもらってきたわけです。そういう「気づき」とか「エネルギー」を与えてくれる存在が、私にとっての「アイドル」であり、今回の世界選手権でも、「気づき」も「エネルギー」もたっぷり受け取ったと断言できるのです。

 2016-17年のシーズンは、10月のスケートアメリカから本格的に開幕します。選手たちが、今度はどこまでの壁を破ろうとしているか、見えてくるのは約半年後です。そのときが今から楽しみでなりません。

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高山真(たかやままこと)
男女に対する鋭い観察眼と考察を、愛情あふれる筆致で表現するエッセイスト。女性ファッション誌『Oggi』で10年以上にわたって読者からのお悩みに答える長寿連載が、『恋愛がらみ。 ~不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』(小学館)という題名で書籍化。人気コラムニスト、ジェーン・スー氏の「知的ゲイは悩める女の共有財産」との絶賛どおり、恋や人生に悩む多くの女性から熱烈な支持を集める。


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