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二木信の東京ラッパー最前線【2】

逮捕が分岐点となりラップの世界へ…DOGMA流パーティの極意と遊戯

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――日本語ラップのヘッズなどの間で話題となっている、ニコニコ動画の音楽バラエティ・チャンネル「サイゾー動画(c)」。その中の〈PARALLELZ〉は、毎月、気鋭のラッパー/クリエイター1名の日常をドキュメントする番組だが、Vol.1では挑発的かつ破天荒なキャラクターで人気上昇中の東京のラッパー・DOGMAにフォーカス。その放送に先駆けて、同番組のナビゲーターである音楽ライターの二木信氏が、DOGMAの密着取材レポートをサイゾーpremiumのために特別に寄稿!【前編】では、"いたずらっ子"だった少年時代や漢 a.k.a.GAMIとの出会いなど、DOGMAというラッパーが誕生するまでの過程に迫ったが、今回の後編では、逮捕と仲間たちとの出会いを通して見つけた彼が追い求めてきたエンターテインメントに光を当てる。

誰もが 真似をしてる世の中 世も末
真似したんだ子供が眠気目(原文ママ)で…
いたずらも度が過ぎてワッパかかる
音楽ってカッコつけたある種カルト教団
――GOKU GREEN「The Same Mofos feat. DOGMA」(2015年)より

 24歳の頃、DOGMAに人生の大きな転機が訪れる。その体験が彼をラップに目覚めさせる。本人いわく、「『スカーフェイス』のアル・パチーノを気取っていたら、新宿東口ロータリーで捕まってしまった(笑)」という。すなわち、ストリート事情のある一件による逮捕と勾留だった。DOGMAは28日の留置場生活を余儀なくされる。

「留置場の切手サイズほどの窓からシャバの空を見ていると、いろんな絵が走馬灯のように見えてきたんです。そこで先輩たちから投げられた『お前はなんでここにいるの?』という問いが頭の中でグルグルし始めて、シャバであんなに避けていたラップが無性にしたくなってきたんです」

 さらに、雑居房の刺激的な人間模様もDOGMAをラップに向かわせた。

「トルエンで捕まったジジイ、ゴミ屋敷から殺傷能力のあるショットガンが見つかったオヤジ、ホテルに籠城したヤツもいた。こんなところにぶち込まれていながら人生に勝つための本をずっと読んでいるヤツとかしゃかりきのヤクザとか、とにかく人間の種類はヴァラエティに富んでいた。こんなカオスな面白い空間はねぇなって思った。そういう環境もオレに歌詞を書こうと思わせたんですね」

 しかし、留置場では基本、手紙を書く以外で筆記用具、ペンとノートは使えない上に、手紙はすべて検閲される。そこで、DOGMAは頭をひねった。ラップする欲求に突き動かされて??。

「雑居にカード詐欺で捕まった大阪弁をしゃべるヘンな黒人がいたんです。その黒人はまともな日本語がしゃべれないから、そいつに『あいうえお』を練習させるという名目でペンとノートというアイテムをゲットした。勾留されている間、頭の中が完璧にラップになって、そうした状況で書いたのが『CROCKERS』という曲だった」

しょっぴかれ朝
ゲロったか? まだ
コッペパン二本で腹割るか
馬鹿!
――「CROCKERS」(11年)より

 まさに、檻の中から発せられた魂の叫びである。「CROCKERS」は、DOGMAが所属していたSATELITEというグループの唯一のアルバム『FULL SMOKE』(11年)に収められている。

 24歳の頃に逮捕されたDOGMAは釈放後、27歳までの3年間を杉並区の実家で過ごしている。それが執行猶予の条件だった。「カネを焦げ付かせたり、いろんなことをムダにしてしまった地獄の3年間でした」と当時を振り返る。そして、「自分の居場所が欲しかった」という理由から、ラップに真剣に向き合うようになる。だが、それは試練の始まりでもあった。ラッパー同士が即興のラップで勝敗をつけるフリースタイル・バトル/MCバトルに参加するものの、良い結果は残せず、さらに家族ともうまくいかず、これまでの人生を振り返り「落ちてたこともあった」という。

「素人同然だから『YO!』と『そんな感じ!』の連発で誰からも相手にされなかった。ラップをナメていたんでしょうね。『ラップなんて韻を踏んで好きなことを言えばいいんでしょ? MCバトルなんて文句の言い合いでしょ?』程度の浅い認識だった。ところが、いざ自分でやってみてこんなに難しいのかと痛感した。しかも、MSCにはラッパーは“リアル”でなければならないというルールがあったから、自分の性格や生き方、過去の体験で流しておきたいことや目を背けたい負の側面にも、リアルでいるために直視して向き合わなければいけなかった。そのおかげでヤミました。まあ、結果的には良かったですね」

“フッド・グリル”という東京の地域密着型ヒップホップ・エンターテインメント

 ヒップホップの“リアル”を追求、あるいは本気で「真似した」ことで「いたずらも度が過ぎてワッパかか」ったDOGMAは、「音楽ってカッコつけたある種カルト教団」という認識に行き着く。道徳的にみれば、彼の歩んできた道のりは褒められたものではない。カネと欲に目が眩んだにすぎないという見方もあるだろう。正論である。だが、人生を狂わされた人間だからこそ生み出せる刺激的な音楽がある。いずれにせよ、DOGMAは誰になんと言われようと、己のフェティシズムや快楽に妥協しない。そういう妥協なき快楽志向が多くのファンたちを惹きつけている。光り輝くデュポンのライターに火をつけて煙を深く吸い込んだDOGMAは、屈託なく語る。

「だって、ヒップホップはファッションにしても面白いじゃないですか。昔だったらラジカセを担いだり、でっかい時計のオモチャを首から下げたり、金歯を入れてカザールをかけたり、とにかく目立てばアリにしていく。今だったら、高級なデニムでもクラッシュしてあったりするでしょ。一時期のスヌープなんて、次はどんなキャップを被るんだろうと思いましたよ。さかなクンのキャップも被ってましたからね(笑)。まあ、今聴いてるカレンシーの偏ったファッションとかも面白かったっすね。この前なんて、LSDを食っちゃってるミッキーマウスのトレーナーを着て、金無垢のロレックスを付けちゃって。流行り廃りが一周回って、ヴィンテージをうまく合わせたりするダサカッコよさもあるじゃないですか。そういうハイブランドとジャンクがごちゃ混ぜのファッションに、ヒップホップを感じちゃうんですよ」

 この清々しいほど明快な男の豪快な遊び方を見たのは、昨年末にDOGMAに誘われて参加したあるバーベキュー(BBQ)のときだ。開催場所は都内某所の屋上。“別荘”から帰ってきた仲間のお祝いの宴だった。その日、DOGMAは8.5kgもの肉を買い込み、自ら焼き、調理して20人ほどの近所の仲間や友人に豪勢に振る舞っていた。屋上にはテントが張られ、閑静な住宅街にもかかわらず、炭火をガンガンに焚き凄まじい量の煙が冬晴れの夜空の雲の上に吸い込まれていく。DOGMAなりのBBQと遊びへのこだわりがある。

「かつてリアルを追求してる後輩たちに誘われて、LAのコンプトンの現地でギャングのBBQに参加したんです。ナルコ・コリードっていうメキの音楽を演奏する連中を自宅に呼んでBBQをするのが、カネを持っているギャングスタのやり方なんですけど、コンプトンのギャングスタは普通に携帯を机に置く感覚で銃をガシャッと目の前に置いて、肉を焼いて食ってたんですよ! そういう“ギャングスタ・グリル”にオレたち食らっちゃいました!」

 つまり、コンプトンで体験したギャングスタ・グリルを、DOGMAなりに東京で実践しているというわけだ。

「みんなで集まって外で肉を食うっていう単純さが良くて、そこが面白いんですよ。月に1回ぐらいやってますね。あの場所ですか? ある地主さんの敷地ですね。だから、コンプトンのギャングスタ・グリルを、東京生まれ東京育ちのオレ流に解釈した “フッド・グリル”っていう東京の地域密着型のヒップホップ・エンターテイメントのジャンルですね。地域に密着するというのは、ヒップホップの重要な要素ですから。あんな閑静な住宅街で煙をモクモク出して大丈夫かなんて、『ダイジョブじゃねえけど、ダイジョブだよ!』って感じっすね(笑)」

 それにしても、DOGMAはなぜこの1年これほどの勢いで活発に動き出しているのだろうか。

「30歳を過ぎて『今、自分の個性を表現できなくていつ出すんだよ?』という気持ちになったんです。これからも毎日遊んでうまいもん食って、その分レコーディングして、MVの撮影をしてライヴしてやる!って感じですね。オレは自分のセンスとラップとそういうヒップホップ・エンターテイメントの力で、人と競い合って生きていきたいですね」

MonyHorse, DOGMA, JNKMN, T2K, PETZ, MEGA-G (prod. YGSP)
「Party&Goodshit」

 退屈な労働や凡庸な道徳、従順な態度よりも快楽とフェティシズムと美を追求することに、すべてのエネルギーを注ぐ。すなわち、楽しいことをとことんやる。それゆえに、DOGMAは挑発的で攻撃的にも見えるのだろう。こういうラッパーの勢いは、誰にも止められない。次は、僕らがDOGMAに狂わされる番かもしれない。

(取材・文/二木信)

二木信(ふたつぎ・しん)
1981年生まれ。音楽ライター。共編著に『素人の乱』、共著に『ゼロ年代の音楽』(共に河出書房新社)など。2013年、ゼロ年代の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした単行本『しくじるなよ、ルーディ』(P-VINE BOOKS)を刊行。漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社/15年)の企画・構成を担当。


サイゾープレミア

2016年12月号