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哲学的、web的、そしてユニクロ的――

異色対談!【國分功一郎×KAMIJO】哲学者と考えるヴィジュアル系音楽の新文化論

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――スピノザの研究者として知られる哲学者・國分功一郎、そしてヴィジュアル系バンドVersaillesのボーカルとして活動した後、13年12月よりソロ・デビューを果たしたアーティスト・KAMIJO。一見、なんら接点のない2人だが、國分氏といえば、知る人ぞ知るX JAPANの熱狂的ファンであり、ヴィジュアル系アーティストに造詣が深いという。そんな2人が奇跡(?)の邂逅を果たし、今宵、異色のヴィジュアル系“新文化論”対談が実現した――。

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(写真/逸見隆明)

――KAMIJOさんはヴィジュアル系バンド「LAREINE」「Versailles」で、日本だけではなくヨーロッパから南米まで世界中で公演を行い、フランスでの公演も1000人以上の観客を集めているとか。

KAMIJO 僕の最初のバンド「LAREINE」はフランス語で「王妃」を意味していますし、次にやっていた「Versailles」はフランスの地名。3月にリリースしたソロアルバム『Symphony of The Vampire』も「ルイ17世」をテーマにしています。それに、僕がいつもステージ上で「ボンジュール」と挨拶することもあって、現地の皆さんには大きな支持を頂いています。僕のCDの売り上げも日本を除くとフランスが一番多いんです。

――國分さんは 2000年から05年までフランスに留学していたそうですが、ヴィジュアル系の現地での人気は実感していましたか?

國分 当時僕の周りに、日本語を勉強するフランス人学生がたくさんいました。彼らはとにかくヴィジュアル系が大好きで、「Visual-kei」っていうんですよね。一緒にカラオケに行くと、僕でも知らないようなヴィジュアル系バンドの曲を歌いまくってる(笑)。

KAMIJO それはうれしいですね(笑)。これまでの活動を通して、日本の「アニメ」と「ヴィジュアル系」は、すごくわかりやすい形で海外の方々に受け入れて頂いていることは、身に染みて感じていました。アニメの主題歌から海外で人気に火がつくこともありますが、たとえばアニメ『ベルサイユのばら』のファンが、僕らのフランス貴族的な衣装や楽曲の世界観を見て、「アニメみたい!」と活動に興味を持ってくれたりするんです。“200年も前”の話だから、みんな想像でしかないのですが、華やかな貴族に対しての憧れというものは男性も女性にもあると思うんですよね。

國分 実は貴族のような上流階級も16世紀ぐらいまでは民衆に近しい存在だったらしいんです。ピーター・バークっていう歴史家によると、貴族も民衆の祭りに参加したり、大道芸人が王の前で芸をするなんてことも当たり前だった。それが近代の始め頃に変化し、最終的には革命で追放される。そうするとあの華やかな貴族というのも、実は100年か200年ぐらいの間しか実在しなかった儚い存在なんです。華やかさと裏腹の儚さみたいなものもその魅力かもしれません。

 日本の文化とフランスの関係についていうと、おそらくフランスは日本の文化の最大の消費地。ヴィジュアル系の人気も強烈ですし、マンガの消費はフランスが世界第2位なんです。もちろん1位の日本とは大きな差がありますが。フランスでは高速道路のパーキングエリアでも日本のマンガを売っているくらい。これは僕の仮説なんですが、フランスで日本のカルチャーが受けている理由のひとつに、フランスが子どもに対してとても厳しい国であることが挙げられると思うんです。フランスは「子どものままではいけない、大人らしくありなさい!」という圧力がすごく強い。でも日本人って、僕もそうですけど、30歳や40歳になってもマンガやアニメを見るじゃないですか。それがフランス人には羨ましく思えたのではないか。つまり、「なんで既成の大人のイメージに縛られなければならないのか?」「もっと自由でいいじゃないか!」というメッセージとして受け取られたのではないでしょうか。その自由な存在の代表がヴィジュアル系ですよね。既成のロックのルールに縛られないどころか、それを書き換えてしまった。海外から認められようとするのではなくて、むしろ向こうから発見される存在になったわけですから。

SNS隆盛の弊害と消滅しない文化の再構築

國分 ヴィジュアル系が海外進出できた理由のひとつに、技術の進歩、ネットの影響が大きかったと思うんです。Versaillesはデビュー前にYouTubeに動画をアップしたことから、世界中で注目されるようになったとか。

KAMIJO 07年にデビューする前、映画の予告編のようなバンドのトレイラーをYouTubeに上げたんです。それを見たドイツのテレビ局から取材が入って、それをきっかけにして日本のマスコミにも注目されるようになって活動開始当初から『めざましテレビ』(フジ)で紹介されたり……(笑)。

國分 面白いですね(笑)。YouTubeがあればコストゼロで地球の裏側にまで情報を届けられる。それをいち早くうまく活用したんですね。

KAMIJO 単に動画をアップするだけじゃなくって、当初はどこにこの動画をあげているのか内緒にしていたんです。すると、世界中のファンが検索をかけて探してくれて。そうした「宝探し」的な、ネットを使ってみんなが参加できる仕掛けを作ったことが重要だったのかなと思います。今はSNSがたくさんありますから、ファンがそこで発信してくれる。僕のフェイスブックのユーザー数は約11万、ツイッターのフォロワーは4万4000です。海外はフェイスブックの反応が特に大きいので、そこでのプロモーションは大事にしています。

國分 KAMIJOさんのやってこられたことは、音楽だけじゃなくて色々な分野の人に参考になると思います。情報発信のコストが限りなくゼロに近づいているからこそ、発信には色々工夫しなければならないわけで、KAMIJOさんもそれにすごく意識的だった。単にインターネットで発信するだけじゃなくて、謎かけみたいなこともしていたわけですね。僕の専門の哲学では、新しいメディアを使うことに対して否定的な雰囲気がまだあるんですが、よく考えると哲学者たちもメディアを意識的に利用してきました。新約聖書にも手紙が入ってますけど、あの時代の手紙といったら最新メディアです。今だったらパウロがSNSで、「君たちはイエス・キリストを正しく信仰しているか?」って発信しているようなもんです(笑)。僕が専門にしているスピノザもたくさん手紙を残してますが、彼が生きた17世紀には手紙はいろいろな人に回し読みされたらしいです。これなんかはツイッター的ですよね。哲学者たちも実は古代からいろんなメディアを戦略的に使っていた。

KAMIJO けれどもネットやSNSでコストをかけずに発信できるため、あまり洗練されていない駆け出しのバンドも世界に出てきてしまう状況なのはなんとかしなくてはいけない。ヴィジュアル系、日本の文化というものを、間違ってない形で向こうの人に認識されるようにしていきたいと思っています

國分 なるほど、自分たちの出る場面をきちんとコントロールしていくことは大切ですよね。

KAMIJO 僕はワールドツアーに行くと、その土地々々のプロモーターのボスと友だちになるようにしているんですよ。最初はみんなすごくダメというか、日本人ほど仕事が細かくない。だから「ここをこうして」と全部指示して、彼らが泣きそうになるくらいまで一緒に仕事をするんです。そうした上で仲良くなると、バンド時代に一緒に仕事をしてた海外のプロモーターの皆さんが、僕がソロになっても「一緒にやろうよ」と声をかけてくれるようになるんです。

國分 それはいい話ですね。ユニクロが中国で工場を作った時、最初は全然うまくいかなかったけれど、日本のやり方を向こうの人に根気強く何度も教えたら、日本でも通用する質のものができるようになったらしいんです。ユニクロと一緒ですね(笑)。

KAMIJO 日本人は食事にしろ仕事にしろ、すべてにおいて細かいじゃないですか。そこが誇れる部分だと思っているので、僕は海外に行ってもできる限りいつも通りというのを心がけています。

國分 今の日本って、どの業界も(商品が)「売れない、売れない」っていってる。もちろん、出版業界も音楽業界も同様。確かにそうなんでしょうけど、その一方でKAMIJOさんのように海外で商業的に成功している人がいる。お話を伺っていると、やっぱり海外のマーケットに日々触れてる方は「今までのやり方だけじゃダメだ」というのを、よく理解されているんだなと実感します。KAMIJOさんの仕事術をみんな学ばないと(笑)。

KAMIJO 本を読む人、 音楽を聴く人というのは、必ずいるじゃないですか。「売れない=その文化がなくなった」わけではなくて。そこを一緒にしないようにしたいですよね。

國分 哲学の世界でも「哲学の本なんて売れない」って、みんないってるんですよ。でも、自分でいうのもなんですが、僕の『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社)という本は3万部を超えていて、哲学の本としては異例のベストセラーになったんですね。僕自身、学生の頃から哲学の本を読んでいても「これじゃあ売れるわけない」と思ってました。あと、何の知識もない人がいきなり読んでも理解できるけど、内容的には本格的な哲学書ってのがなかった。僕自身がそういうものを読みたいと思っていたので自分で書いたという感じなんです。

KAMIJO 自分が読みたいってのは大事ですよね。僕も自分の歌は大好きです。

國分 KAMIJOさんもご自身の作品をよく聴くんですね。実は僕も自分の文章を読むのが好きです。これってナルシシズムということじゃなくて、自分で好きになれないものだったら、どうしてほかの人が好きになってくれるだろうかって話なんです。

KAMIJO ヴィジュアル系というのは「理想の追求」を体現することなんです。極端な話、ルックスがダメなら化粧をすればいいし、演奏が下手なら練習すればいい。自分を好きになるまで追求することが「ヴィジュアル系」だと思うんです。

(構成/藤谷千明)
(ヘアメイク/松本江里子)

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國分功一郎(こくぶん・こういちろう)
1974年生まれ。高崎経済大学経済学部准教授。哲学者。著書に『スピノザの方法』(みすず書房)、『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社)、『来るべき民主主義』(幻冬舎新書)、『哲学の先生と人生の話をしよう』(朝日新聞出版)など。


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KAMIJO(かみじょう)
V系バンドLAREINE、Versaillesのボーカリスト。国内及び世界各国で活躍。3月5日にミニアルバム「Symphony of The Vampire」でソロメジャーデビュー。

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