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法社会学者・河合幹雄の法痴国家ニッポン【4】

官僚機構にはびこる血縁・姻戚ネットワークの謎

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法と犯罪と司法から、我が国のウラ側が見えてくる!! 治安悪化の嘘を喝破する希代の法社会学者が語る、警察・検察行政のウラにひそむ真の”意図”──。

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「血縁・姻戚」
血縁は血のつながった親族、姻戚は婚姻関係によって生じた血のつながらない親戚関係を指す。本文で指摘した例とは異なるが、東京電力前会長・勝俣恒久氏の長兄・勝俣孝雄九州石油元会長、次兄・勝俣邦道日本道路公団元理事、三兄・勝俣鎮夫東京大学名誉教授、弟・勝俣宣夫丸紅元社長等々、日本のエリート層における血縁・姻戚の例は枚挙にいとまがない。

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『官僚の責任』(PHP新書)

 2012年5月、NHK経営委員会委員長(当時)の数土文夫氏が、公共放送の経営に深く関与する立場にありながら、東京電力の社外取締役を兼務しようとして集中砲火を浴びました。これだけでも「原子力ムラ」の非常識さには呆れるばかりですが、その裏に、大手メディアではまったく報じられなかった、さらにとんでもない「疑惑」があったのをご存じでしょうか。確証は得られませんでしたが、同氏と、SPEEDIのデータ隠しで叩かれたあの原子力安全技術センターの理事長・数土幸夫氏とが兄弟であるというもので、この名字の珍しさを考えれば十中八九間違いないと私は考えています。原子力行政の中枢にいる2人が血縁関係にあるという、この驚くべき事実。ネット界隈ではこれが半ば既成事実と化し「原子力利権兄弟ワロタ」などと揶揄されていますが、実はここには、日本の「エリート層」のあり方を考える上で非常に象徴的な構造が見て取れます。

 驚くべきことですが、日本の社会全体を見渡したとき、この手の血縁・姻戚ネタは、何も「原子力ムラ」に限った話ではありません。それどころか、現在の国家官僚の中枢では、知られていないだけで、誰それの婿だったり妻の弟だったり、などという事例は、実は珍しくもなんともない。特に私の“守備範囲”である検察庁などは、親戚だらけといって過言でない状態のようです。中立公正性が強く求められ、実力主義であるはずの検察庁において姻戚関係がモノをいうとしたら……? 日本は本当に近代国家なのかと首をかしげたくなろうというものです。

 実は日本のエリート層は伝統的に、外部の優れた人材を養子や婿として取り込む、という行為を行ってきました。歴史的に見てこれは、能力の有無にかかわらず「血の濃さ」のみを重視する他の東アジア・東南アジアの国々のやり方(北朝鮮などは、まさにこの典型例でしょう)とは極めて対照的だったといえます。理論経済学者の村上泰亮の指摘に、アジアの中で日本だけが近代化に成功したことの背景のひとつに、そうした日本独自のイエ制度とエリート養成システムがあったというものがありますが、これはかなり鋭い指摘だと思います。歴史のある局面においては、日本におけるそうしたシステムがプラスに働いたことは間違いない。しかし、そうした構造が、なにゆえ現在の国家官僚の間においても隠然たる有効性を持っているのでしょうか?

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