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「売春婦は資本主義の犠牲者」という廃娼論も

――性風俗、売春の歴史を研究されている方からは、今の日本の性産業はどう見えていますか。

寺澤 現代日本の性産業については専門から外れるので一般的な知識しか持ち合わせていませんが、戦前は公娼制度があって合法でしたし、外国でもドイツなど一部合法化されている国もあります。合法であるということは規制対象であり、ある意味では守られていますし、社会から認められている存在だといえます。それと比較すると、今の性産業のほうが場合によっては危険が伴ったり、偏見に晒されたりする部分が強いのかなと。戦後に売春防止法が成立して以降、日本社会におけるセックスワーカーの扱い、セックスワーカーへの視線はいびつになっているように思います。その象徴が、性風俗産業の事業者がコロナ禍で給付金の対象外にされるといった形で現れている。

戦前には貧困を背景に強制されて就く人が多かったのに対して、今も家庭の事情から風俗をやっている方もいらっしゃるでしょうけれども、「家族に身売りされて有無を言わさず」というケースはほとんどないと聞きます。それ自体は良い変化と言っていいのかなと思います。ただ、かつては「売春婦は資本主義の犠牲者である」という社会主義的な立場から廃娼論を唱えた人もいて、階級的な問題意識が社会運動にリンクしていく面があった。ところが、セックスワークが強制的に就く仕事でなくなったことによって、今はその流れが途切れてしまっています。かつてよりも今のほうが、性産業で何か問題が起きても真剣に改善しようという社会的な動きに発展しづらい。そこは残念に感じています。

今回の本では戦前の私娼についてひも解きましたが、歴史を知ることで、今の日本の性風俗産業のあり方や社会的な受容の仕方が必ずしも「当たり前」のものではないことを理解していただけたらと思っています。

(取材・文/飯田一史)

寺澤優(てらざわ・ゆう)
2019年、立命館大学大学院文学研究科博士課程後期課程修了。博士(文学)。ドイツ・ルール大学ボーフム校東アジア研究学部研究生、日本学術振興会特別研究員(DC2)を経て、現在、立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員、立命館史資料センター調査研究員。

飯田一史(いいだ・いちし)
マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャーや出版産業、子どもの本について取材&調査して解説・分析。単著に『ライトノベル・クロニクル2010-2021』(Pヴァイン)、『いま、子どもの本が売れる理由』(筑摩選書)、『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)など。「Yahoo!個人」「リアルサウンドブック」「現代ビジネス」「新文化」などに寄稿。単行本の聞き書き構成やコンサル業も。


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