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「マル激 TALK ON DEMAND」【175】

「選挙買収疑惑」を断ち切るための公選法改正とは

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[今月のゲスト]

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郷原信郎(ごうはら・のぶお)
[弁護士]

1955年、島根県生まれ。77年、東京大学理学部卒。80年、司法試験合格後、83年、検事任官。東京地検検事、広島地検特別刑事部長、長崎地検次席検事、東京高検検事などを経て、2006年、退官。08年郷原総合法律事務所(現郷原総合コンプライアンス法律事務所)を設立。


先の参院選で広島選挙区を舞台に露骨な選挙買収が行われたことが明らかになったが、当時、これは例外的なケースだと思われていた。しかし、実際はそうではなかった。新潟、京都で次々と同様の疑惑が発覚したのだ。この背景には政治家側の都合によって政治資金規正法と公職選挙法を使い分けられる現状があると、弁護士の郷原信郎氏は指摘する──。

神保 今回は古くて新しい「政治とカネ」の問題、中でもとりわけ重要な「選挙とカネ」をテーマにお送りします。

「政治とカネ」についてはこれまでも繰り返し問題になってきたので、今となっては少々食傷気味の方も多いかもしれませんが、今日はこれまでよりももう少し深刻な次元で、日本という国が下手をすると「大腐敗買収国家」に成り下がっているかもしれないという視点から考えていきたいと思います。

ゲストにはこの問題に長年取り組んでこられ、最近独自の改革案まで出されている郷原信郎弁護士です。

早速ですが郷原さん、先の参院選の広島選挙区で選挙買収が明らかになり、その後、新潟や京都でも買収まがいの問題が表面化していますね。

郷原 やはり発端は広島です。現職国会議員、元法務大臣による直接的な大規模買収ということで、極めて異例な事件のように見られていますが、実は必ずしもそうではない。たまたま河井克行氏が自分で直接、現金を撒かなければならなかった、というところが特殊なのであって、カネの流れ自体は特異なものではありません。

神保 つまり、普段から日本の選挙ではカネが流れていたということですね。広島が特殊だとすると、通常はどういう形でカネが撒かれているのでしょうか?

郷原 河井氏の被告人質問での供述によると、県連を経由するのが一般的だといいます。自民党議員が京都府連に寄付し、それが府議、市議の関連団体に渡るという、京都方式のようなものがむしろ一般的だということでしょう。つまり、なんらかの形で県連に一度上納して、そこから県市議に、という流れです。

神保 河井氏がやったように、政治家が直接カネをばら撒くことは、普通はないと。

郷原 なくはないでしょうが、あれだけ大規模にやらざるを得なかったのは、県連が河井氏の妻・案里氏に一切協力しないということで、同じ公認候補でありながら、県連を通したカネの流れが一切期待できなかったからでしょう。

神保 なるほど、広島には溝手顕正さんという現職の自民党議員がいたので、河井氏は県連というマネーロンダリングのツールが使えなかったと。そもそも広島の事件は、溝手さんが安倍(晋三)さんに批判的で、「溝手を落とせ」という、恐らくは官邸から出ていた指令を受けて、河井さんは奥さんの案里さんを擁立することになったというのが発端でしたね。

郷原 恐らくこういうことは、国政選挙で当たり前に行われてきたのだと思います。だから、そこでお金をもらった人たちは当初、刑事立件すらされず、検察で不起訴になった。その後、検審で起訴相当になりましたが、被買収者のうち、5人の広島市議会議員が先日(3月2日)、会見を行っています。そこで語られたのは、国会議員からある程度のカネをもらうのは普通のことで、何も悪いとは思っていなかったと。

神保 実際は選挙で動いてもらうためのカネなのに、あくまで「政治資金」としてカネを受け取る慣習が、当たり前のように続いていたということですね。

郷原 このように、取り調べで「自分が買収されたとは思えない」という供述を通されると、買収罪には問えないんです。事実上の買収資金でも、「党勢拡大のため」の政治活動費として処理されることで、公職選挙法には抵触しなくなる、というのがこれまでの買収罪適用の限界でした。

神保 それは妙ですね。まるで、構造が全体的に腐敗していると、その中身を構成する個別の行為には違法性を問えなくなってしまうと言っているように聞こえます。悪いのは個別の行為やそれを行っている自分たちではなく、腐敗している構造なのだと。

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