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連載
大石始のマツリ・フューチャリズム【55】

コロナの鬱々とした空気を吹き飛ばす!――心が洗われる下ネタ音頭の力

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――21世紀型盆踊り・マツリの現在をあらゆる角度から紐解く!

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日本の盆踊り文化に則った、どぶろっくによる素晴らしい音頭だが、語学留学生が一番最初に覚える音頭になってしまったら、それはそれで悩ましい「イチモツ音頭」。

 しばらく本連載ではコロナ禍における祭り・盆踊りのシビアな状況を取り上げてきた。状況は相変わらず厳しく、東京では5月に開催予定だった例大祭のほとんどが中止、あるいは神事だけがひっそりと執り行われた。また、このご時世では不謹慎となるのか、コロナ前であれば毎年のように出ていた企画もののノベルティ音頭のリリースも皆無。実に残念な話である。

 そうした中で、1曲の下ネタ音頭が話題を集めている。どぶろっくの「イチモツ音頭」だ。昨年8月にどぶろっくの公式YouTubeチャンネルで公開、去る4月にはテレビ朝日系『ロンドンハーツ』で紹介されたことで、本稿執筆時は112万回の再生回数を記録している。当然、テレビ効果もあるだろうが、「イチモツ音頭」が放つ破壊力も馬鹿にはできない。歌詞はこんな感じだ。

「浴衣姿の君を見てカッチカチ/帯に乗っかるスイカがふたつ/やってみたいなベッドの上で/股間のバットでスイカ割り/イチモツ音頭であの娘もこの娘もチョメチョメチョメしてみませんか」――書き出しているだけで、自分の人生はこれでよかったのかとイチモツの不安がよぎるが、よく聴いてみると「ハァ~」という小唄調の歌い出しやドドンガドンというリズムなど、新作音頭の典型的スタイルに則った楽曲であることがわかる。作詞作曲は江口直人(どぶろっく)。決して凝った楽曲というわけではないものの、メロディと言葉がすっと入ってくる小慣れた作りには驚かされる。どぶろっくは過去にも演歌歌手の北山たけしをPRするためのキャラクター「こぶしまる」を題材とした「こぶしまる音頭」(15年)を発表しており、そちらの作詞作曲も江口が担当していた。音頭作曲家として意外な才能の持ち主なのかもしれない。

 とはいえ、あくまでも「イチモツ音頭」とは、そうやってまともな音楽批評をやってるのが馬鹿馬鹿しくなってくるような、清々しいまでの下ネタ音頭である。言うまでもなく、イチモツを連発する下ネタは近年のどぶろっくの定番であり、「イチモツ音頭」もその延長上にあるもの。だが、そこに音頭のテイストが加わることで、普段のネタ以上の脱力感が生み出される。コロナ禍の鬱々とした空気の中、この音頭に妙な爽快感を感じるのは僕だけではないはずだ。また、東京ダイナマイトには「日本全国酒飲み音頭」を下敷きにした「日本全国クンニ音頭」なるネタがあるが、そちらも妙にスカッとする清涼感がある。音頭と下ネタの化学反応で生まれる「すべてがどうでもよくなる感覚」は、私たち日本人がいま必要としているものなのかもしれない。

 以前、本連載で取り上げたことがあるが、盆踊りおよび音頭と下ネタというのは古くから鉄板の組み合わせである。かつて秋田県羽後町の西馬音内盆踊りでは、ほとんど「イチモツ音頭」と変わらないこんな歌詞も歌われていたらしい。

「あんさんあんさん踊りこ見るたて/そんなに立って見るな/立っていいのは電信柱とあんちゃのXXばかり」

 このような下ネタが歌われていたのは西馬音内盆踊りだけではない。日本各地で夜な夜な○○だXXだと歌われ、村民たちはそれに合わせて踊っていたのである。かつての盆踊りにおける下ネタとは、閉鎖的な村落生活におけるガス抜きでもあれば、娯楽の少ない時代の、老若男女共通の笑いのネタでもあった。

 盆踊りも深い時間となり、歌い手や踊り手の酔いが回ったころ、音頭にはどぎつい下ネタが次々に放り込まれ、村の男女は1組、また1組と暗闇の奥へと消えていく。明治以前の盆踊りとは、そのように大らかな性生活と結びついたものであった。この国が近代国家を目指すようになると、さまざまな風習や習慣が野蛮で前時代的な悪習として禁止されたが、下ネタ満載の盆踊りは真っ先に取り締まられることになった。ある意味で当然の話である。

 現代の観点からすれば、下ネタ満載の音頭は、男性中心的で封建的な村社会の悪習という一面があったことは否定できない。ポリティカル・コレクトネス的観点から問題を孕んだ歌詞も少なくないし、そうした意味では下ネタ音頭のOK/NGラインを再検討する必要もあるだろう。

 だが、僕は心の底からこう思う。アップデートを経た下ネタ音頭をもっともっと聴きたい。誰も傷つけない他愛のない音頭で大笑いしたい。コロナ禍で精神のバランスを崩しつつあるわれわれ日本人は、「イチモツ音頭」級の下ネタ音頭を必要としているのだ。

大石 始(おおいし・はじめ)
旅と祭りの編集プロダクション「B.O.N」のライター/編集者。07年より約1年間をかけ世界を一周、08年よりフリーのライター/編集者として活動。国内外の文化と伝統音楽、郷土芸能などに造詣が深い。著書に『ニッポン大音頭時代』(河出書房新社)、編著書に『大韓ロック探訪記』などがある。新刊『盆踊りの戦後史― 「ふるさと」の喪失と創造』(筑摩書房)が発売中。

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