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オトメゴコロ乱読修行【59】

“王子様無用のプリンセス”潔いが少々モヤる……『アナと雪の女王』エルサの選択

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――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

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 日本が誇るロイヤルプリンセス姉妹といえば、彼の麗しきおふたりをおいてはほかにないが、ディズニーが誇るロイヤルプリンセス姉妹と言えば、アナとエルサである。

 アナとエルサをW主人公にしたCGアニメ『アナと雪の女王2』が、2019年11月の公開以降、大ヒット街道を爆進中だ。2014年に日本公開され、255億円(日本の歴代興収3位)を叩き出した『アナと雪の女王』の続編である。

 前作『アナ雪』は、生まれつき雪や氷を作り出す魔力を持っている姉王女のエルサと、奔放ゆえにエルサから若干イラっとされている妹王女アナとの、和解の物語だった。エルサの抱える、人と異なる(秀でた)能力を持つゆえに世間から疎まれるという苦悩は、優等生な高学歴女子の「社会に出てからの生きづらさ」「出る杭を衆愚に打たれる理不尽さ」を彷彿とさせ、その種の女子にもクリティカルヒット。かつ、エルサにカップリング対象となるべき異性、つまり“王子様”が設定されていない点が、フェミ文脈的な批評性をいっそう高めていた。

 続編の『アナ雪2』は、アナとエルサの祖父が他民族に仕掛けた戦争の始末を、彼女たちが否応なく引き受けざるを得なくなる話である。平たく言えば、「先祖の戦争責任をおっかぶる話」。それはそれでなかなかアレだが、もっとも注目すべきは、その筋運びだ。後始末を進めるなか、エルサは「なぜ自分だけが生まれつき異能者なのか」を知り、王国のプリンセスという地位も立場も捨てて、新しい共同体に身を置くのである。そして前作同様、エルサには「結ばれるべき王子様」が最初から設定されていない。

 さらに、この新しい共同体というのがまたクセモノだ。たとえて言うなら、「消費社会たる俗世に嫌気が差した意識の高い若者の行き着いた先が、左翼的なスピリチュアル系共同体in人里の離れた山中」といった趣である。

 2010年代以降、ピースフルなファミリー向け作品であっても容赦なく社会派なメッセージをぶっこんできたディズニーだけに、このストーリーには相応のアナロジーが仕込まれているはず。それを解くヒントになるのが、『アナ雪2』の製作が決まってから一部海外ファンの間に起こった、「#GiveElsaAGirlfriend」というSNS上での動きだ。「エルサにガールフレンドを作ってあげて」。はい、そういうことです。

 異性交友に一切興味を見せない『アナ雪』のエルサを目の当たりにすれば、このハッシュタグが特段飛躍したネタの類いとは思えない。LGBTに対する理解と寛容の傾向がここ数年、加速度的に進んでいる欧米トレンドを鑑みれば、ディズニープリンセスが「非・異性愛者」であってもよいのかもしれない。むしろ、ポリティカル・コレクトネスとダイバーシティ急進派のディズニーなら、そう決断するほうが自然だ。

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