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哲学者・萱野稔人の「"超"哲学入門」第56回

【哲学入門】ハイデガーの技術論はいかに現代のフランス哲学に影響を与えたのか?

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(写真/中山正羅)

『千のプラトー 資本主義と分裂症』

ジル・ドゥルーズ、フェリックス・ガタリ(宇野邦一、豊崎光一ほか訳)/河出書房新社/7500円+税
フランスの哲学者ジル・ドゥルーズと、精神分析家フェリックス・ガタリが、複雑に入り組んだ高度資本主義社会における人類の営みを新たなコンセプトで読み解く、フランスの現代思想を代表する大著。

『千のプラトー 資本主義と分裂症』より引用
一つのアレンジメントは、その物質的または機械状側面において、財の生産にかかわるものだとは思えない。むしろたがいに関係しあうあらゆる種類の身体に影響するあらゆる引力や反発力、共感と反感、変動、合体、浸透と拡張などを含んだ、一社会内の身体の混合の一定の状態にかかわるのだ。(略)テクノロジーでさえ、道具をそれ自体として考えるなら誤ちを犯している。道具は、それらが可能にする、またそれらを可能にする混合との関連でしか存在しない。あぶみは、人間|馬の新しい結合をもたらし、それがまた同時に新しい武器と、新しい道具をもたらす。道具は〈自然|社会〉の機械状アレンジメントを定義する結合や合体と切り離すことができない。

 これまで2回にわたってハイデガーの技術論について考察してきました。今回はその技術論がいかに現代のフランス哲学に影響を与えたのかをみていきたいと思います。

 取り上げるのはジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの共著『千のプラトー』です。この著作は刊行以来、日本で「フランスのポストモダン思想の聖典」のようにもてはやされてきました。実際にはフランス現代哲学の世界では「ポストモダン」という言葉はほとんどつかわれませんので、私自身は「フランスのポストモダン思想」という表現には強い違和感があります。が、それはともあれ、この著作がフランス現代哲学の代表的な書物の一つであることはまちがいありません。この著作をつうじて、フランス現代哲学がいかにハイデガーに多くを負っているのかを考察していきましょう。

 まずは上の引用文をみてください。といっても、いきなり「アレンジメント」という耳慣れない言葉がでてくるので面食らってしまうかもしれません。これは『千のプラトー』の最重要概念の一つで、原文でもちいられているのは「agencement」というフランス語です。この単語は通常の使用では「配置、案配、構成」といった意味をもちますが、ドゥルーズとガタリはそれを多少ふくらませて「一つの社会をそのようなものとしてなりたたせている、ものごとの配置・編成のメカニズム」といった意味でもちいています。日本語訳があえてカタカナ語で「アレンジメント」となっているのも、そうした意味を反映してのことです。

 ドゥルーズとガタリはこの「アレンジメント」を身体のレベルにおけるものと言語のレベルにおけるものとに区別しています。身体のレベルにおけるアレンジメントは「機械状アレンジメント」と呼ばれ、言語のレベルにおけるアレンジメントは「集団的アレンジメント」と呼ばれます。この引用文で説明されているのは、身体のレベルにおける「機械状アレンジメント」のほうです。

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