サイゾーpremium  > 連載  > 小田嶋隆の「東京23話」  > 「小田嶋隆の東京23話」/葛飾区
連載
小田嶋隆の「東京23話」【13】

【小田嶋隆】葛飾区――七子、そして八百屋お七の恋物語の続き

+お気に入りに追加

東京都23区――。この言葉を聞いた時、ある人はただの日常を、またある人は一種の羨望を感じるかもしれない。北区赤羽出身者はどうだろう? 稀代のコラムニストが送る、お後がよろしくない(かもしれない)、23区の小噺。

1707_katsusika_color.jpg
(絵/ジダオ)

 本駒込にある七子の母親の実家に関して、弁護士から相続の手続きを求める連絡を受けたのは、1998年の7月のことだった。当時、七子は夫の篠田に対して離婚の申し立てをしていた時期で、夫婦関係の決裂を予期していたかのようなタイミングで降って湧いたこの相続の話に、七子は、亡くなった母親の揺るぎない意思のようなものを感じた。

 母親は、生前、

「本駒込の実家の土地には、できればナナちゃんが住んでくれると良いんだけど」

 と、何度か言っていたことがある。

 というのも、石川県にある七子の実家は、七子の弟が相続するはずになっていて、彼女の母親は、もっぱら長女である七子の将来について、あれこれと思いをめぐらせていたからだ。そして、母親は、どういう理由からなのか、七子が、将来、独身者として生きていく未来を想定していた。

「冗談いわないでよ。そんな見たこともない家で暮らすなんて、あたしはごめんだからね」

 と、七子は、長ずるにつれて、母親の思い描く身勝手な未来像に忌避感を抱くようになっていた。ママは、出奔した生家と、そこで暮らす両親について、過剰に感傷的な思い込みと自責の念を抱いている。七子は、その、母親の語る本駒込の実家にまつわる湿っぽい物語が苦手だった。

「なによその失敗したシンデレラみたいな話」

 と、高校生の頃、彼女は、母親にはっきりとそう言ったことがある。

「まるで、ガラスの靴がニセモノだったっていう後日談じゃない」

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2021年2月号

“男性学”のススメ

“男性学”のススメ
    • 【男らしさ】イメージの変遷
    • 男性学(基)【ブックガイド】
    • 【キリスト教】の男性優位主義
    • 女子が萌える【ラップ男子】
    • コロナ禍で始動【Zoomgals】
    • サンドウィッチマン【男同士のケア】
    • 【青柳翔】が語る“男らしさ”
    • オトコが乗る【軽自動車】
    • 【マンガ・アニメ】の軽自動車
    • 【ジャニーズ】男性アイドル像
    • 時代錯誤な【ジェンダー観】
    • 【サザエさん】は有害か?
    • 『サザエさん』の【初回】
    • 【井田裕隆】に聞くAV男優像
    • ポルノ視聴と【男性性の劣化】の関係
    • おじさんの【フェイスブック】
    • 【フェイスブック運営】側とのズレ
    • 育児特化の【ベビーテック】
    • 5秒でわかる【ベビーテック】
    • 【自民党】に根付く男尊女卑

「篠崎こころ」ラグジュアリーに魅せた麗しさ

「篠崎こころ」ラグジュアリーに魅せた麗しさ
    • 【篠崎こころ】召しませ #金髪ショー党

NEWS SOURCE

インタビュー

    • 【岡田結実】バラエティの人気者はエゴサで成果を感じる
    • 【STUTS】人気トラックメイカーがラップに初挑戦!
    • 【土井裕泰】TBSのエースディレクターの問題作に迫る

連載

    • 【あまつまりな】流れに身を任せちゃうんです。
    • 【グレイテスト・ラウンドガール】に新メンバー!
    • あの素晴らしい【恵美】をもう一度
    • 【コロナと不況】21年に生き残る術
    • 【萱野稔人】ソロ社会化とコミュニティの変化
    • ありがとう、【小松の親分さん】
    • ワクチンがつくる【コロナ後の世界】
    • 【丸屋九兵衛】ショーン・コネリーを語る
    • 【町山智浩】「ストレンジ・フィーリング」カトリックの洗脳とオナニー
    • 【コロナ対策論議】の根本的欠如
    • 「謎」と「静」で振り返る【2020年】
    • 【小原真史】の「写真時評」
    • 【笹 公人】「念力事報」鬼狩りの時代
    • 【稲田豊史】「妻が口をきいてくれません」圧巻の“胸クソ”読後感
    • 【辛酸なめ子】の「佳子様偏愛採取録」
    • 【本場仕込み】のビールが飲める“リビングルーム”
    • 【更科修一郎】幽霊、批評家は文化的背教者なのか。
    • 『花くまゆうさくの「カストリ漫報」』